スバルがMT車に「アイサイト」を初搭載! 新たな「運転支援機能」なぜ導入? 開発の裏にある3つの理由
アイサイトは「スバルらしさ」のシンボル
●理由その2:半導体メーカーとの綿密な連携
前述の「やれるところからやる」という点について、これは見方を変えると、「やれるところからやれる」といえるでしょう。
背景にあるのは、スバル社内およびサプライヤーとスバルとの間での設計、開発、実験との連携が、現行「レヴォーグ」から採用している次世代(また新世代)アイサイトから、さらに綿密になっていることが挙げられます。
2023年4月に横浜で開催された、第27回自動車の安全性に関する国際会議(ESV国際会議2023)を取材した際、アイサイトの開発に長年携わってきた、技術本部上級PGMでスバルラボ所長の柴田英司氏に改めて、アイサイトの強みについて聞きました。
柴田氏は「イメージセンサーなどの開発で、(ほかの自動車メーカーと比較すると)スバルは半導体メーカーなどのサプライヤーと極めて近い関係性を持っている」という点を指摘しています。
アイサイトの開発では、実験部門がリアルワールドにおけるドライバーのフィーリングなど目標をしっかり定め、設計部門と緊密に情報交換してきました。
アイサイトのハードウエアとソフトウエアについては、バージョン3までは国内部品メーカーが開発していたのですが、次世代(新世代)アイサイトでは、カメラ本体がスウェーデンとアメリカの合弁会社であるヴィオニア、イメージセンサー用の半導体はアメリカのオン・セミコンダクター、そして画像認識用の半導体はアメリカのザイリンクスが担当しています。
こうした海外サプライヤーとスバルの設計、調達、実験それぞれの部門が連携することで、バージョン3までは構想はあっても、量産化のハードルがあったMT車向けアイサイトに対する道筋が見えていったのだと筆者(桃田健史)は考えます。
また、現状でのスバルの開発体制においては、複数のモデルに対して同時並行でアイサイトを開発することは難しいと、これまでのアイサイト関連の複数の開発者から指摘がありました。
そのため、次世代(新世代)アイサイトが、レヴォーグや「フォレスター」、「WRX S4」、「レガシィアウトバック」、「クロストレック」、そして「インプレッサ」と順次採用されるなかで、MT車向けアイサイトの量産化に向けた開発が進み、結果的にこのタイミング(2023年秋)の登場になったと考えるのが自然なのではないでしょうか。
また、追従機能付クルーズコントロールについては、エンジン排気量との関係もあることが今回の会見で明らかになりました。
現行の2代目BRZのエンジン排気量は、初代の2リッターから2.4リッターに拡大したことで低回転域でのトルクが増し、それが2速から6速での対応にプラス効果になっているのです。
そのほか、2022年シーズンからスバル本社のチームとして参戦している、スーパー耐久シリーズに参戦するBRZでアイサイトとの関係についても、会見のなかで記者から質問がありました。
これについては、現時点で採用した技術は特になく、「今後、量産向けのフィードバックについて検討する」というにとどめました。
●理由その3:自動車産業界の大変革期における「スバルらしさ」の追求
スバルの事業全体の視点では、スバル安全技術の真骨頂であるアイサイトのさらなる進化を対外的に、またスバル社内・取引先・販売店などにアピールする狙いもあったのではないでしょうか。
改めてですが、自動車産業は100年に一度の大変革期に突入しています。
そうしたなかで、スバルと事業で連携しているトヨタは2023年6月上旬、「トヨタテクニカルワークショップ2023」を実施し、BEV(バッテリーEV)向けの次世代バッテリー各種や、次世代BEV向けにまったく新しい車体の製造工程など、大量の次世代技術を世界初公開しました。
この現地取材を通じて、筆者も含めて参加したメディア関係者の多くが、大きな時代変化の前兆を実感したばかりです。
本格的なBEV時代到来を前に、トヨタとの連携強化が確実視されるスバルとしては、まさに今、将来に向けた「スバルブランド」存続を判断するため、スバル史上最重要な岐路に立っていることは明らかです。
こうした局面で、スバルとしては「スバルらしさ」のシンボルとして、アイサイトの進化を「できるところから」世に出したように感じます。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
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