「ル・マン」の裏側では何があった? モリゾウの発言に隠された想いは? 100周年大会で起きた顛末
モリゾウのル・マンに対する想いとは
一方、チームに対してはこのような言葉をかけています。
「そんな中でチームのみんなは正々堂々と戦ってくれました。2位完走の結果は本当に素晴らしいです。
みんな、ありがとう。この準優勝をみんなで自慢しましょう! チームモリゾウ全員で戦った証として胸を張りましょう」
トヨタは様々なモータースポーツカテゴリーにワークスで参戦していますが、実はWECとモリゾウとの相性はあまり良くないと思っていました。
これは筆者の推測ですが、ゼロから立ち上げられたWRCのチームに対して、WECは旧F1由来のチームであるが故にF1をやめる決断をした豊田氏とは色々なわだかまりや遺恨があったはず。この事についても少しだけ語ってくれました。
「WECのチームはプロフェッショナルな集団であることは間違いないですが、モリゾウが目指すのは『家庭的でプロフェッショナル』と言う部分です。
これまでWECチームはそこが足りなかった。言葉を濁さずに言うと、トヨタの会長/社長は存在するけどモリゾウは存在しないチーム。
初めてル・マンに来たのは2017年、私だけ遠くの宿、隣の部屋にいるにも関わらず決起集会に呼ばれず。
『私の居場所はないな』と思いました。そんな私を案内してくれたのは(脇阪)寿一と可夢偉と一貴、いかにこのチームがドライバー目線になっていないか。そんな事もあり、私の気持ちはル・マンから離れていました。
しかし、そんなチームは可夢偉代表を筆頭に一貴、そして加地(雅哉:GRカンパニーモータースポーツ技術室室長)など若いメンバーがドライバーファーストかつ家庭的でプロフェッショナルなチームにすべく一生懸命動いているのを知り、その情熱にモリゾウが動かされたわけです。
普通なら株主総会直前に日本を離れる事は許されませんが、それでも『現地に行こう!!』と思いましたし、ACOの会見のあの発言にも繋がっています。
決勝前の決起集会で私はチーム全員に対して『ここには勝ちにきている、だからレースに集中して』、『勝つか負けるかは運、でも自分たちには勝て』と言いました。
そのアドバイスは豊田章男ではなくモリゾウとしての発言です。
確かに過去は色々ありましたが、今のWECチームはモリゾウと共通項が多い事は実感しました。短い時間でしたが来てあげて良かったと思っています」
こんな事を書くと怒られてしまいそうですが、今回のル・マンでトヨタは優勝しなくてよかったと思っています。
もしこの状況で優勝したら、あのBoP問題は間違いなくうやむやになるでしょうし、WECチームもここまでワンチームにはなっていなかったでしょう。
今回のル・マンは試練の連続でしたが、試練は乗り越えられる者だけに与えられると思っています。
そういう意味では、今年のトヨタのル・マン挑戦は優勝を逃したことで、チームに必要な“何か”を確実に手にしたのではないかと思っています。
来年はより強くなった家庭的でプロフェッショナルなチームでル・マンに戻って来てほしいです。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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