「ル・マン」の裏側では何があった? モリゾウの発言に隠された想いは? 100周年大会で起きた顛末
100周年を迎えたル・マン24時間レースでは様々なドラマが誕生しました。その現地赴いた自動車ジャーナリストの山本シンヤ氏が見て感じた裏側とはどのようなものだったのでしょうか。
100周年大会となったル・マンでは何が起きたのか?
今年で100周年を迎えたル・マン24時間から1週間が経過。この件に関して様々なメディア、様々な人が発信していますが、ちょっと的外れな発言も。
そこで今回ル・マン取材を行なった筆者が、現地で見て・聞いてきた事を元に、今回の様々な顛末を語っていきたいと思います。
事の発端はレース直前のBoP(バランス・オブ・パフォーマンス=性能調整)により各車の最低重量の変更でした。
具体的にはトヨタは+37kg、フェラーリは+24kg、キャデラックは+11kg、ポルシェは+3kg、そしてプジョーは増加なしとなります。
どのような経緯で算出されたかと言うとこれまでのレース結果のようですが、FIA WEC COMMITTEEの言い分は「白熱したバトルのため」だと。
これに真っ先に反応したのはトヨタです。2018年の初優勝以来5連覇、今年は6連覇を目指しルールに従い重箱の隅を突いてマシンの性能を磨き上げてきたにも関わらず、直前でルールがひっくり返されたと言うわけです。
この理不尽にも程があるBoPに対して申し入れを行ないましたが、決定が覆ることはなく。
計算ではトヨタが1.2秒程度遅くなるという事でしたが、蓋を開けるとトヨタとフェラーリには予選で1.9秒もの差があり、この性能調整に疑問符が付いたのも事実です。
また、予選タイムはもちろんですが、実際の走りを見ていてもフェラーリは重量増によるネガが最小限だったのに対して、トヨタはその影響が大きい事は明確でした。
ただ、逆の見方をするとトヨタよりフェラーリのほうが“懐の深い”クルマに仕上がっていたとも言えます。
これまでの日本人なら「ルールだから仕方ない」と飲み込んでいましたが、豊田章男は違いました。「言うべきことはシッカリと言う」、すぐに行動を起こしました。
それがACO(Automobile Club de l’Ouest:フランス西部自動車クラブ)のプレスカンファレンスでのあの発言です。
ル・マン24時間レース100周年の祝辞と、レースを通じてクルマを鍛えさせてもらったことへの感謝に続いて水素エンジンレーシングカー(GR H2 Racing Concept)を発表。更に水素のメリットについても説明を行ないました。
「私たちはゼロエミッションでやっています。もちろん、水素燃料やガス燃料の大きな利点の一つは、それがとても軽いことにあります」
豊田氏はこの紹介の後に、人差し指を上げて(フランスで「ただし」と言う意味を持っている)こう語りました。
「Less BoP(BoPもない)」
水素の軽さにかけて、ル・マン24時間レースのBoP問題を皮肉ったのです。
これに会見に参加していた世界中の報道陣は大爆笑、誰もがBoPに違和感を抱いていた証拠でしょう。
筆者はその横にいたフィオン会長の何とも言えない愛想笑いを確認しています。
この会見の後、豊田氏はこの件について、筆者にこのように語ってくれました。
「フィオンACO会長がS耐・富士24時間レース(5/26-28)に来た時に『何で言ってくれなかったの?』ですよ。
あの時はそんな素振り一切なく5月31日にいきなりコレでしょ。
信頼関係は崩れますよね。正直言ってしまうとWECからの撤退も考えました。
ただ、今後の事は社長の佐藤(恒治)が決める事なので。
実は今回の会見はトヨタの会長としてのスピーチで、『パーソナルな事は言わない』、『モリゾウ軸の事は言わない』と決めていましたが、ル・マンに来て現場にいる可夢偉や一貴が私と同じ、いやそれ以上に腹を立てていることが解り、急遽原稿を作り替えました。
彼らの想いが今回の私のモリゾウとしての行動に移せたと思っています」
豊田氏はこの後、フィオンACO会長/リシャールFIA耐久委員会委員長と面談を行なったそうです。
そこに同席した関係者に話を聞くと「彼らのシミュレーションでは、全ての性能が同じゾーンに入ると計算されていたが、正直こんなに差が出るとは思っていなくて残念。ただ、我々はフェアにやっている」と語ったそうです。
それに対して豊田氏は「今回の判断に対して、全世界のモータースポーツファンが審判を下すと思いますよ。私はクローズドな幹部の会話として言っているのではなく、全世界のMSファンの代表として言っています」とピシッと語ったと言います。
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