「ル・マン」の裏側では何があった? モリゾウの発言に隠された想いは? 100周年大会で起きた顛末
豊田氏に「スピリット・オブ・ル・マン2023」は贈られたのか? レースはどうなった?
ちなみにACOは5月29日に豊田氏に「スピリット・オブ・ル・マン2023」を贈ると発表済みだが、現地では贈呈式などは行なわれていません。
あれは一体どうなったのでしょうか。ズバリ豊田氏に聞いてみました。
「私のほうから『今回は辞退します、この賞はポリティシャンにあげてください』と言いました。
その時のフィオンさんの雰囲気は『本当に申し訳ない』と言った表情でした。
ただ、面談の最後にフィオンさんから『スモールギフトを受け取ってほしい』と言われ、私は『いいですよ』と。
100周年のスピリット・オブ・ル・マンは他とは違う、気持ちは違うと言う所は受け取りますと」
トヨタは主要なライバルがル・マンから撤退していた期間に5連覇を遂げています。
それが故に「トヨタは勝って当然」というアンチの声を嫌と言うほど浴びてきました。
しかし、今年は違います。言ってみればこれまでは「自己鍛錬」のル・マンでしたが、今年は「ガチンコ勝負」のル・マンです。
そのレースの結果は、フェラーリが58年ぶり通算10勝目の総合優勝を獲得しました。
この記録はポルシェ(19回)、アウディ(13回)に次ぐものです。トヨタは圧倒的に不利な条件をものともせず、序盤から素晴らしい走りを見せましたが、7号車はナイトセッション中の複数台が絡む接触に巻き込まれリタイヤ。
8号車はレース終盤までトップ争いを続けましたが、トップのフェラーリと1分21秒793差で2位。
トヨタにとってはこれまでで最も悔しい2位だったはずです。3位はキャデラック、そして6年ぶりにル・マンに復帰した“耐久王”ポルシェは総合16位に沈みました。やはりポルシェであってもブランクは命取りです。
レース後、トヨタのチーム代表兼ドライバーの小林可夢偉氏はこのように語りました。
「このル・マン100周年記念大会は我々のレースではありませんでした。
しかし、チームとしてできることは全てやりましたし、クルマから最大限のパフォーマンスを引き出し、ドライバーもベストを尽くしてくれました。
このル・マンでチームは今までにないほど団結、皆で勝利を目指し、共にレースを楽しみました。
この無念を晴らすためにも、もっと強くなって戻ってこなければなりません」
では、豊田会長は今回のル・マンをどのように総括したのでしょうか。レース後に“モリゾウ”としてこのようなコメントを発表しています。
「今年のル・マン24時間レースは“場外の戦い”が、みんなのアスリートとしての戦いを邪魔していました。このことが本当に悔やまれて、残念で、申し訳ない気持ちです」
このコメントに対して「負けたことに対して言い訳がましい」、「最後までBoPを根に持っている」、「勝ったフェラーリを称えるべき」と言った意見も目にしましたが、言葉の意味を理解していないなと。
筆者はトヨタの会長・豊田章男ではなくモリゾウとして発表している所に意味があると考えています。
つまり1人のドライバー、そしてモータースポーツファンの代表としての発言です。その本質を少しだけ語ってくれました。
「私が主催者に言ったのは、我々がやりたいのは『スポーツ』であり、スポーツをやるためにアスリートを集めています。
これはトヨタがどうこうではなく、モータースポーツ全体のためだと思っての発言だと理解してください。
すると、彼らは私が聞きもしないのに『これは政治じゃない』と言ってきましたが、そういう事ですよね。
私の想いは『各チームのドライバー、エンジニア、メカニックに、これからの100年を見据える場でレースをしてもらいたかった』これに尽きます」
今回、100周年と言う記念すべきル・マンにも関わらず、人々の記憶は「BoPがあったル・マン」だけが残ってしまい、勝ったチーム、負けたチームに対して素直に喜べない、素直に称えられないと言った穿った気持ちがファンに生まれてしまった事を残念がっているのでしょう。
その証拠にネットでは様々な持論が展開され、トヨタ批判、フェラーリ批判、更には主催者批判をする人が続出しています。
筆者はモリゾウが本当に言いたかった事とは、BoP問題が起きたことで、様々な憶測が生まれ、結果として『モータースポーツを純粋にスポーツとして見てもらえなかった事の悔しさ』に対して、“場外の戦い”と形容したと思っています。それもトヨタのためではなく、モータースポーツ全体のための発言です。
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