トヨタが「EV戦略」を変えた!? 「風向き」は本当に変わったのか 急激なEVシフト「本当の理由」とは
複数の新聞系メディアを中心に「トヨタがEV戦略を修正」と報じています。いまEVに対する風向きは、急激に変わりつつあるのでしょうか。こうした流れの裏にある世界的な状況の「変化」について探ります。
急激なEVシフトは日系自動車メーカーにとって「明らかに想定外」!?
2023年1月24日から25日にかけて、複数の新聞系オンラインメディアが「トヨタがEV(電気自動車)戦略を見直す検討に入ったことが分かった」という内容の記事を配信したことで、SNS上ではユーザーの様々な反応が見受けられます。
EVに対する「風向き」は、本当に変わったのでしょうか。
1月25日午前中の時点で、トヨタから一連の報道に関係する公式コメントやニュースリリースは出されていません。
ですが、一連の報道内容の真偽に加え、トヨタのみならず日系自動車メーカー各社が、将来のEV戦略に対してこれまでの発想を見直したり、また新しい計画を立てようとしていることは、大まかにいって事実だと筆者(桃田健史)は考えます。
なぜならば、マツダのようにEVシフトに関する事業計画の修正をすでに表明している日系自動車メーカーもいますし、また筆者が日常的に行っている自動車産業界やその周辺産業界の関係者との意見交換のなかでも、そうした話題に深入りした議論になることが珍しくないからです。
そんななか、直近でのグローバルでの急激なEVシフトに対して「中国はある程度は想定内だったが、欧米の変貌には驚いている」という声が少なくありません。
これは、アメリカのテスラ「モデル3」が販売台数を急激に伸ばしているとか、または欧州では「ボルボ」や「アウディ」など早期のEV専用ブランドへ転換を図っているといった、自動車メーカー個社の事業戦略に対しての指摘ではなく、国や地域の政策、つまり政治的なプロセスの変化に対する驚きの声です。
また中国については、自動運転を含めた次世代車の普及に対して、中国政府の政策の実態を日系自動車メーカーがいち早く知ったり、また中国が今後目指す施策の方向性を適格に予測することが極めて難しいことを、2000年代からこれまで段階的に中国事業拡大してきた日系自動車メーカー各社は、自社の体験を通じて痛感しているといえるでしょう。
そのうえで、直近のグローバルにおける急激なEVシフトは、日系自動車メーカーにとって「明らかに想定外」なのです。
背景にある、欧米での政治的なプロセスの変化とは、具体的にどのようなことでしょうか。
その基本となるのが、企業にとってのESG投資です。
従来のように財務情報だけではなく、環境(Environment:エンバイロンメント)、社会性(Social:ソーシャル)、ガバナンス(Governance:企業統治)の観点を重視した投資のことで、「SDGs」(国連による持続可能な達成目標)とも深く関係します。
このESG投資の大嵐が、2010年代末から2020年代頭にかけてグローバルで吹き荒れたのです。
その結果、ESG投資を重視する企業の株価に大きな影響をもたらしました。
ここで少し時代を振り返ります。
大手自動車メーカーによる量産型EVの草分けは、2000年末から2010年初頭に世に出た三菱「i-MiEV(アイミーブ)」と日産「リーフ」です。
つまり自動車産業の長い歴史のなかでは、量産型EVはまだかなり新しいビジネス領域なのです。
次に、2010年代半ば、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)グループによる燃費不正問題が発覚したことも、結果としてEVシフトの契機のひとつとなっています。
VWがブランド価値に大きなダメージを受けたことから、V字回復を狙い、同グループは大胆なEVシフト構想をぶち上げました。
ただし、そうしたガソリン車やディーゼル車からEVへ一気に飛ぶという発想について、当時の世界の自動車産業界では、その実効性に対し疑問を持つ人が主流だったと記憶しています。
また同じ頃、世界的に環境問題に対する関心も高まり、SDGsの発想がグローバルに徐々に広がっていったのです。
そうした2010年代中盤以降の時代変化を、国や地域にとっての経済的な活力にしようと、欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)による「欧州グリーンディール政策」の策定作業が進みます。
そこに、ESG投資の大嵐が吹いたのです。
そして「2035年に事実上、乗用車と小型商用車の新車100%をCO2(二酸化炭素)排出量ゼロとなるゼロエミッションヴィークル(ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車を除く、EVまたは燃料電池車)にする」という、具体的な規定が決まるというプロセスになったのだと、今から振り返るとそんなふうに感じます。
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