トヨタが「EV戦略」を変えた!? 「風向き」は本当に変わったのか 急激なEVシフト「本当の理由」とは

国内だけでは見渡せない!? グローバルで複雑に絡む「EVの未来予想図」

 こうした欧州での動きを後追いするように、アメリカではバイデン政権が連邦政府として、2030年までに乗用車とライトトラック(SUVとピックアップトラック)の新車50%以上を電動化するとの大統領令を発令しました。

 今のところ、ここにはプラグインハイブリッド車が含まれると想定されています。

2021年12月にトヨタが発表した「バッテリーEV戦略に関する説明会」において一挙に公開された、トヨタ及びレクサスブランドで販売を予定する新型BEV(電気自動車)のコンセプトモデル
2021年12月にトヨタが発表した「バッテリーEV戦略に関する説明会」において一挙に公開された、トヨタ及びレクサスブランドで販売を予定する新型BEV(電気自動車)のコンセプトモデル

 新車市場全体におけるEV新車販売比率に対する規制は、1990年代以降の米・カリフォルニア州のZEV法や、2010年代後半からの中国NEV(新エネルギー車)政策と同類というイメージがあります。

 ところが、EV関連の規制はそうした販売比率規制にとどまらず、すでにもっと先に進んでいる状況です。

 例えば、欧州ではEVに搭載する蓄電池の材料について、その採掘や加工・製造における従業者の労働環境や人権にまで踏み込んだ規制が示されています。

 ここでは、欧州を中心としたバッテリー事業の覇権争いが感じられます。

 また、アメリカ市場で日系自動車メーカーが頭を悩ませているのが、IRA(インフレ抑制法)への対応です。

 EVをアメリカ市場向けにアメリカ国内で製造する際、構成される部品の製造地や原料の入手地などで厳しい規制が敷かれることになっています。

 これもESG投資を念頭に置いた、日本を巻き込んだアメリカと中国の覇権争いという印象があります。

 今後は国や地域での経済的な覇権争いの観点で、欧州、アメリカ、そして中国で、例えば充電インフラの設置義務化や、そこで利用する電気の再生可能エネルギー比率などが規制されることも考えられるのではないでしょうか。

 とはいえ、欧米や中国のみならず、グローバルでは国や地域によって社会状況や社会情勢が大きく違いますし、またESG投資などを念頭に置いた経済政策に対する考え方も当然違います。

 そのため、グローバルで事業を展開している日系自動車メーカーとしては、各市場それぞれで急激に変化する可能性が高いEV関連規制動向を注視し、かつ、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV、燃料電池車、そして水素を利用する内燃機関車など様々な次世代車を臨機応変に生産できる体制づくりが今、急務になっているといえるでしょう。

 そのうえで、より効率的に製造でき得るEV製造方法とそれに対応した設備投資、さらには、自動車メーカー間でのアライアンスで、EV関連事業投資に対する再協議などが行われるのは、日系自動車メーカー各社にとって至極自然な事業の流れに思えます。

※ ※ ※

 ある日系自動車メーカーの幹部は、日系自動車メーカーがこれから直面するEV市場での厳しい状況を予測しています。

「(クルマの種類で見れば)70年代に排ガス規制によって大型のアメ車が姿を消し、小型車が得意な日本車がアメリカ市場を軸足としてグローバルで伸びました。

 そのような時代の変化が(日系自動車メーカー以外の国のメーカーのよるEVによってすでに)起こり始めているのかもしれません」

 EVの普及に対する明確な規制はまだない日本にいると、こうしたグローバルでの急激なEVシフトの実態について、自分事として捉えることが難しいのだと筆者は考えます。

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。

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