2人のキーマンが語る! GR86&BRZの2台は「いっしょにいいクルマつくろう!」でどう進化した? S耐2022を振り返る!

2022年シーズンのスーパー耐久をカーボンニュートラル燃料を使って共に戦った「GR86」と「SUBARU BRZ」。2台は「いっしょにいいクルマつくろう!」という取り組みによって協調と競争をおこなってきたが、キーマンの2人は今シーズンを振り返ってどうだったのか。

2台のクルマをそれぞれの知見で進化させてきた1年

「バイオマス由来の合成燃料(カーボンニュートラル燃料)」を使用したGR86/SUBARU BRZの「次世代モデルの先行開発」をスーパー耐久シリーズのST-Qクラスで公開しながらガチンコでおこなう。

 これまで先行開発/新車開発は「マル秘」というのが定説でしたが、この取り組みはそれらを大きく覆す出来事でした。

 筆者はこのプロジェクトを車両製作の時期からずっと追いかけてきました。

 このプロジェクトは2023年以降も続きますが、2022年シーズン終了が一つの区切りとなりますので、両社のキーマンに一緒に総括をしていただきました。

2台で共に挑んだスーパー耐久シリーズはどうだったのか?
2台で共に挑んだスーパー耐久シリーズはどうだったのか?

ーー 2021年のS耐最終戦(岡山)で「一緒に戦います」と発表してからお互い車両製作をおこなったわけですが、開幕戦前のテスト(富士スピードウェイ)でお互いのクルマを見たわけですが、そのときの印象は?

●SUBARU本井

「これは、勝ち目ないな」が本音でしたよ(笑)。

 車両は大きく手が入ってましたし、エンジン出力も50psくらい違いました。

 それに対して我々はノーマル、いやもしかしたらいじり壊しているのでは……と思うくらいのタイムで「トヨタさん凄いな、何とか一歩でも近づきたい」という気持ちでした。

●GR藤原

 我々はエンジンをノーマルの水平対向2.4リッターから直列3気筒ターボ(1.4リッター)に変更しました。

 このエンジンはGRヤリスの開発で鍛えてきた自負もあったので、「絶対勝てるはず」と思っていました。

 しかし、蓋を開けてみると、我々はトラブル続き。

 その間にSUBARUさんがあそこまで性能を上げてくるとは。

―― 開幕戦(鈴鹿)は2台ともに完走はしましたが、結果を見ていくと予選/決勝共にGR86が圧勝しました。

●GR藤原

 初戦ではそれなりの結果が出ました。

今思うと、そこで我々は“勘違い”をしていました。

 正直「勝ったから、次も何とかなるでしょ」くらいに思っていましたが、富士24時間に向けたテストを進めていくと、「クルマの事、全然わかっていない」ということを知ることになりました。

―― 対するSUBARU BRZは開幕戦はノーマル+αのような状態で戦っていました。

●SUBARU本井 

 恐らくノーマルよりも劣っていたと思います。

 レースをやっている人からしたら当たり前の事ですが「車高を下げただけじゃダメなんだ」ということに気が付きました。

 量産の延長線なので、そんなおかしい事にはならないだろうと高を括っていたのですが、「これは参ったな」と。

 そういう意味では我々は開幕戦を戦って以降、「やる気スイッチ」が入った感じですね。

―― 第2戦は富士24時間、どちらも想定内/想定外のトラブルがたくさん起きました。

●SUBARU本井 

 そうですね。GRさんと共にトランスミッションにトラブルが出ました。

―― 量産車では大丈夫ですが、レースのような過酷な条件では通用しなかった……と?

●SUBARU本井

 そうですね。量産車のエンジニアなのでどこが壊れやすいかは知っていますが、「サードパーティの強化品を付けたから大丈夫」という根拠のない思い込みは全て外れました。

 ここで学んだのは「検証せずに投入するのは絶対やめよう」ということ。

 量産車では当たり前にやっていたのですが、それができていませんでした。

――GR86はSUBARU BRZ以上に壊れましたね。夜中にエンジン交換もおこなわれました。

●GR藤原 

 本井さんと全く同じ意見です。

 我々は量産メーカーで大量生産のなかで品質保証をやっています。

 レース屋さんのように一品で物を作って性能を出すというのは難しい。

 我々は「アジャイル開発」といいますが、アジャイルというのは行程を飛ばしていいことではないと。

 行程を飛ばした物は絶対に失敗する、富士24時間以降は口を酸っぱくしていうようになりました。

「28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF Concept」を担当した藤原裕也氏(左)と「61号車 Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」のチーム監督となる本井雅人氏(右)
「28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF Concept」を担当した藤原裕也氏(左)と「61号車 Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」のチーム監督となる本井雅人氏(右)

――つまり、量産メーカーは「博打をしてでも勝てばOK」ではダメだと?

●GR藤原 

 そうです。、富士24時間に向けて投入したパーツも設計の狙い通りになっていないことも解ってきました。

 ただ、24時間を走らせなければならない。

 全てがごちゃ混ぜで、何が見れて、何が見れていないのかが、全く解らずレースが終わった感じです。

――ドライバーからの指摘はどうでしたか?

●GR藤原

 トランスミッションが壊れましたが、ドライバーは走行中に「壊れる気がする」と思ったそうです。

「それって何なの?」という所を教えてもらうことを始めました。

 データを取ると壊れると感じるときに、「こんなに入力が入っている」、「こんなに傷つけている」というのを改めて知りました。

――スバルはどうでしょうか? 富士24時間ではスポットで加わった鎌田選手のアドバイスが活きたと聞きましたが?

●SUBARU本井 

 鈴鹿以降の課題は、井口選手/山内選手の要求するものに対して我々の技術が追い付いておらず信用をなくしていました。

 しかし鎌田選手が入ってうまく通訳してくれたことは大きな転機でした。

――つまり、レーシングドライバーとエンジニアを繋ぐ翻訳者的な存在だったと?

●SUBARU本井 

 鎌田選手は自分でクルマを弄っているので、「何をどうすると、こうなるはず」というのは、我々に近い考え方を持っているので、レーシングドライバーとエンジニアを上手く繋いてくれました。

 そのなかには「我々がやっている事は間違っていない」という気づきもあり、そこからエンジニアのモチベーションや技術が上がったと思います。

【画像】開発、テスト…そしてシーズンを戦った2台! 最終戦の様子はどうだった?

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