ついに大型バイクも電動化の時代に突入!? ホンダ二輪のカーボンニュートラル 目標達成への道のりは険しい?
ホンダの電動二輪車投入計画は?
日本では今後、どのような電動二輪車が登場するのでしょうか。
もっとも現実的なのが、すでに量産されている「BENLY e:(ベンリィ イー)」のような小口配送向けモデルの拡充でしょう。
特徴は、取り外し可能な電池である「MPP(モバイル・パワー・パック)」です。
このMPPを使うパーソナルユースの電動二輪車が2024年から2025年に2モデル販売される予定です。
また、これと並行して、「エレクトリック・バイシクル」と「エレクトリック・モペット」についても、2022年から2024年の間に、電動二輪車の最大需要国である中国を筆頭としたアジア、欧州、そして日本でも合計5モデルが登場します。
ホンダは「よりコンパクトでお求めやすい価格」と銘打っていますが、上記のパーソナルユースの2モデルと具体的にどのような違いがあるのかは現時点では不明です。
いずれにしても、日本では小口配送の分野では、配送業者や荷主が企業経営の視点でSDGs(国連の持続可能な達成目標)や、ESG投資(従来の財務情報だけではなく、環境・社会性・ガバナンスを重視した投資)に重点を置くようになっているため、今後も積極的に電動二輪車の活用を増やしていることが考えられます。
一方で、個人向けについては、1980年代から1990年代にように原動機付き自転車の需要が高かった時代のように、小型の電動二輪車が一気に普及することは難しいように感じます。
背景には、日本では電動アシスト自転車の普及が進んでいること、またパーソナルモビリティとして軽自動車の需要が高まっていることが挙げられます。
そのため、日本での個人向けの小型電動二輪車の市場拡大について、ホンダ以外の複数の二輪車メーカーの関係者からは、やはり「中国のように日本で普及するとは考えにくい」という声が聞こえてきます。
それでも、MPPを活用した交換式バッテリーの実証実験に、日本自動車工業会が大阪大学やローソンと連携して取り組み、実証実験に参加した大阪大学の学生らから好意的なフィードバックを数多く得たという実績もあります。
そうした成果から、2022年4月には、ENEOSホールディングスとホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキが連携する、電動二輪車の共通仕様バッテリーのシェアリングサービス事業をおこなう「Gachaco(ガチャコ)」を設立し、2022年秋から東京などでサービスの実用化を始めるところです。
そのうえで、ホンダのMPPを中心とした電動二輪車用バッテリーを公益社団法人 自動車技術会規格をベースに、二輪メーカー4社が共通仕様に合意しています。
こうした交換式バッテリーは、大きな乾電池のように小型四輪車を含めて多様な使い道が考えられ、具体的な方法についてホンダがこれまで実車や実機を公開してきました。
社会全体で共通仕様バッテリーが普及すれば、それに比例する形で小型の電動二輪車の需要も高まっていく可能性はあると感じます。
そして、二輪の電動化における大きな課題は、ホンダが「FUN EV」と呼ぶ、大型の二輪電動モデルでしょう。
2024年から2025年の間に、欧米日で合計3モデルを投入予定だといいますが、既存の二輪ユーザーが十分満足できる商品になるのか注目されるところです。
ホンダ以外の複数の日系二輪車メーカー関係者の多くは、こうした大型二輪電動車の早期普及に対して「それは本当にユーザーが求めているモノなのか?」という懐疑的な見解を示しています。このなかには、最新の大型電動二輪コンセプトモデルの開発者らも含みます。
理由としては、大型二輪車ユーザーは、内燃機関の音や振動を楽しむ傾向が強く、静粛性の高いEVに対する心のハードルがあることです。
また、四輪車と違い、二輪車に航続距離を稼ぐための搭載バッテリーを大型化することは、運動特性の悪化に直結してしまうことなども挙げられます。
バッテリーの課題について、ホンダは旧来型リチウムイオン電池と同じ体積でもエネルギー密度が高い全固体電池の開発を進めて課題解決を目指すようですが、音と振動については四輪EV向けとはアプローチの仕方が大きく異なることが予想されます。
ホンダは、四輪事業について2040年までのグローバルで新車100%をEVまたはFCV(燃料電池車)として発売することを目指すと宣言しています。
二輪車については、2040年代にすべての二輪製品でカーボンニュートラルを目指すとしていますが、電動二輪車市場での需要をしっかり捉えていくという視点で見ると、その道のりはかなり険しいといわざるを得ません。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
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