自動運転、普及のカギは販売現場に 試金石になる新型「セレナ」

ギャップがあるなか、「期待」を活用して普及した「ある新技術」

 以上のことやこれまでの事例から、「ユーザーが期待するイメージ」と、「メーカーが提供する技術」にギャップがあることがわかりました。もしかすると、それで大きな事故が発生するかもしれません。不安です。

 そこで「『自動運転』という言葉は完璧な技術が完成するまで使わずに、それまでは『運転支援』と呼ぼう」という意見もあります。確かに、勘違いを防ぐためには「自動運転レベル2」よりも「運転支援」と表現したほうが無難でしょう。

 しかし「自動運転」という言葉は、すでに世に放たれてしまいました。「パンドラの箱」ではありませんが、一度、世に出てしまったものを箱に戻すことはできません。また、「自動運転」という言葉は非常に魅力的です。自動車業界だけでなく、行政も財界も一般の人々も惹きつけてやみません。いまさら「『自動運転』という言葉を使わない」という選択は無理なのではないでしょうか。

 過去を振り返れば、同じようにギャップがありながらも、大きな問題にならず、うまく普及したものがあります。それが「ぶつからないクルマ」とプロモーションしたスバルの「EyeSight(アイサイト)」です。ステレオカメラを使って前方を監視し、衝突しそうになると自動でブレーキを作動させるシステムで、一般的には「衝突被害軽減自動ブレーキ」と呼びます。

 しかしこのシステムは、路面の状況や対象物のスピードなどによっては、ぶつかってしまうケースがあります。「ぶつからない」ことは保証されていないのです。

 ですが、「ぶつからない」という言葉は強烈でした。あっという間に「衝突被害軽減自動ブレーキ」の存在を知らしめたのです。スバル車の「EyeSight」装着率はうなぎのぼり。あわてたのは他メーカーです。急きょ、同様のシステムを用意しました。その結果、「衝突被害軽減自動ブレーキ」は、いまでは軽自動車でも当たり前の装備になっています。つまり、「ぶつからないクルマ」という言葉を使って、驚くほどわずかな時間で日本に「衝突被害軽減自動ブレーキ」を普及させてしまったのです。

 問題もありました。「衝突被害軽減自動ブレーキ」は先述の通り、「ぶつからない」ことを保証していません。そのため「ユーザーのイメージ」と「技術」のあいだにギャップが生じ、実際に勘違いを原因とする事故がいくつか発生しています。しかしその数は、不安視されていたものよりずっと少ないものでした。

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