なぜトヨタは新型「クラウン」を激変させたのか? 「トヨタにとってのクラウンとは」 16代続く日本代表車、ついに世界へ

クラウンは「豊かな日本」を示すバロメーター?

 クラウンが日本を代表する高級車であることはいうまでもありませんが、 レクサスの日本導入や輸入車の台頭、高級SUVや高級ミニバンの隆盛など、近年のクラウンは必ずしも順風満帆とはいえませんでした。

 それに加えて、少子高齢化による人口減少が見込まれる日本市場に対して、積極的に投資を行うのが難しいことは、火を見るより明らかです。

 つまり、「日本国内専用のFRセダン」という点にこだわってしまうと、そもそもクラウン自体の開発を続けることが困難になってしまうことになります。

「日本の企業なのだから日本市場を大切にしてほしい」というのが人情というものですが、トヨタも営利企業である以上、利益の見込みが少ないところへの投資はできません。

 では、60年以上も続く「クラウン」の名をここで絶やすのか、それとも、どんなことをしてでも「クラウン」の名を引き継いでいくのかという決断を迫られたとき、トヨタは後者を選択しました。

 それは、まさしく「攻め」の選択であったと筆者は考えます。

 たしかに、「日本国内専用のFRセダン」のまま歴史に幕を下ろし、感動のうちにグランドフィナーレを迎えることもできたかもしれません。

 もしくは、「日本国内専用のFRセダン」を守り抜き、だましだまし販売を続けていくこともできたかもしれません。

 しかし、その先に未来がないことは明らかです。少なくとも、当時のユーザーが初代クラウンに国産高級車の夜明けを見たというような感動は得られないでしょう。

 それならば、これまで以上にリソースを投資して開発をし、現代のユーザーが感動するようなクルマをつくることは理にかなっていると言えます。

 そして、そのクルマをもって世界へと挑戦するというのは、「攻め」の選択以外のなにものでもありません。

「クラウン=セダン」の常識を打ち破るも…あえて「セダンタイプ」も用意! その見た目から「ミライ」ベースのFRセダンなのか?
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 新型クラウン発表会見の場で、豊田章男社長は次のように語りました。

「クラウンは日本の豊かさ、ジャパンプライドの象徴であり、世界に誇る日本の技術と人材を結集したクルマでした。新型クラウンにはそんな日本の底力が詰まっています」

 この言葉を聞く限り、単に「グローバルモデルを日本市場でも販売する」のではなく、「日本の力を世界へ見せつける」という強い意志が、新型クラウンにはあるように思います。

 現在、トヨタは名実ともに日本のトップ企業です。そこに至るまでの歴史は、ほとんどクラウンとともにあったといっても過言ではありません。

 歴史を見れば、クラウンが売れているときは、日本という国そのものが勢いがあるときでした。

 つまり、クラウンとは「豊かな日本」を示すバロメーターであったわけです。実際、これまでのクラウン史上最大の販売台数を記録したのは、日本がバブル景気に沸く時代です。

 したがって、「クラウン」の名を絶やしてはならないことはいうまでもなく、「売れないクルマ」となってしまうわけにもいきません。

 今回大きく変化を遂げた新型クラウンは、「売れるクルマ」であり続けるための工夫の成果といえます。

 新型クラウンはシリーズの年間販売台数で20万台を見込むといいます。これは現行クラウンの10倍近い数字です。

 もし、クラウンが日本の豊かさを示すバロメーターであるなら、この数字が達成できたときには必ず日本の景気は上向いているといえるでしょう。

 そういう意味で、クラウンはトヨタにとって、そして日本にとって、単なるクルマ以上の存在といえるかもしれません。

※ ※ ※

 関東のあるトヨタ販売店では、新型クラウンの受注開始以降すでに多くのオーダーを受けているといいます。

 購入者のほとんどは、このクルマが「クラウン」であるかどうかはそれほど重視しておらず、ひとつの「優れたクルマ」であることが主な購入理由となっているといいます。

「クラウン」という名前に依存することないその様子は、新型クラウンが新たな歴史を築きはじめていることの証左といえるかもしれません。

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Writer: PeacockBlue K.K. 瓜生洋明

自動車系インターネット・メディア、大手IT企業、外資系出版社を経て、2017年にPeacock Blue K.K./株式会社ピーコックブルーを創業。グローバルな視点にもとづくビジネスコラムから人文科学の知識を活かしたオリジナルコラムまで、その守備範囲は多岐にわたる。

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