新感覚! ホンダ新型「シビックe:HEV」は演出が「まるでガソリン車」!? “錯覚”さえ面白いHV制御とは?
ホンダ「シビック」にハイブリッド車が追加されました。ホンダのハイブリッドシステム「e:HEV」を搭載するものの、これまでとは異なる演出が加えられた新型シビックe:HEVはどのようなモデルに仕上がっているのでしょうか。
これまでの「e:HEV」とはかなり違う!?
「ハイブリッドではなくガソリン車の感覚を強調している!?」
2022年7月に発売された「シビック」のハイブリッドモデルとなる新型「シビックe:HEV」のドライバビリティはちょっと不思議なものでした。
なぜ不思議なのか。それは従来の「e:HEV(イー・エイチ・イー・ブイ)」と呼ぶホンダのハイブリッドシステムとの乗り味の方向性とは、あまりにも違う方向を向いていたからです。
このハイブリッドはモーター走行領域が広く、従来はEV(電気自動車)のようにモーター走行感が印象的な乗り味でした。「ヴェゼルe:HEV」や「ステップワゴンe:HEV」などを運転したことがある人であればご存じでしょう。
しかし、シビックのハイブリッドは、e:HEVながらアクセルを踏み込むような走りでは、モーター走行というよりはまるで軽快なガソリンエンジン車のような感覚。ガソリン車に戻ったかのように錯覚するほどです。
正確にいうと、発進こそ滑走するように滑らかに走り出すモーター感覚がありますが、そこから先はモーター走行感が控えめでまるでエンジン車のよう。モーター感覚を強調してエンジンの存在を消そうとしている従来の「e:HEV」や日産の「e-POWER」とは真逆の感覚といって良いでしょう。
そう感じさせた理由はいくつかありますが、大きなものは変速感です。
トランスミッションは電気式無段変速なので加速はシームレス。しかし、アクセルを踏み込むと、加速時にあえてエンジンの回転を下げ、シフトアップするような変速感を入れてエンジン車のような感覚を作り出しています。
これはエンジン音で分かります(ちなみにエンジン音の上昇も加速としっかりリンクしているので違和感はありません)。
また、タコメーターの代わりに備わる「パワーメーター」も、エンジン回転に連動してパワーが盛り上がるような感覚を演出。シフトアップ演出時は回転が落ちるかのように少し針が戻るなど、まるでガソリン車に乗っているかのようです。
そんなエンジン音とメーターの演出によるシフトアップする感覚は、これまでのe:HEVにはない制御でした。しかし新型シビックe:HEVから、ホンダは走行感覚を大きく転換したようです。
おもしろいのは、シフトアップするような感覚は錯覚だということ。エンジン音とメーターの動きからシフトアップしているような気分になりますが、加速G自体は一定で、息継ぎはありません。ドライバーはエンジン音とメーターの動きに騙されているのです。
「騙す」といえば言葉は悪いように感じるかもしれませんが、運転する楽しさは従来のe:HEVを大きく上回っていることは間違いありません。
グイグイと曲がっていく感覚はまるでスポーツカー
ところで、シビックハイブリッドに組み込まれたハイブリッドシステムは、ユニット自体も従来のe:HEVとは大きく異なります。
たとえばエンジンは新開発の2リッター自然吸気直噴で41%という世界トップレベルの熱効率を誇るもの。エネルギーロスが少ないので、エンジンからして燃料消費量が少なく済んでいます。
また駆動用のバッテリーやパワーコントロールユニットも新開発で、それぞれ「インサイト」に比べてエネルギー密度が46%アップ、出力密度が12%アップと高性能化。モーター出力も39kW(53ps)アップしています。
そのうえで、エンジン直結モードも拡大。e:HEVは速度が高まるとエンジンを直結して駆動することがe-POWERなどシリーズハイブリッドとの大きな違いですが、従来は約70km/hだった直結の下限速度が約60km/hまで下がり、また直結する状況も広がりました。
それは高速走行領域での燃費向上に貢献するとともに、アクセル操作に対する加速のダイレクト感を高めてガソリン車のような走行感覚にもつながっているのです。
ちなみに新開発の2リッターエンジンは高い負荷がかかる状況でも燃焼効率が高く、それも実用燃費向上に貢献しています。
WLTCモード燃費は24.2km/Lと優れた燃費性能を持ちつつ、ガソリン車のように盛り上がる感覚を強調したシビックの新しいハイブリッド。そんなキャラクターは、運転を楽しみたい人とのマッチングが最高といって良いでしょう。
ハイブリッドでも運転を楽しみたいからシビックを選ぶというのは大いにアリだと実感しました。
ちなみにハンドリングも素晴らしく、滑らかなステアフィールに加えて、旋回時はスッと鋭く向きを変えてグイグイと曲がっていく感覚はまるでスポーツカー。
旋回中の修正舵の少なさからもハンドリングの正確さが理解できます。加速も旋回も、ドライバビリティの高さは素晴らしいものでした。
ところで、そんな新型シビックe:HEVに試乗して驚いたのは、燃費のほかにも意外な部分でガソリン車に対する優位点を見つけることができたことです。
それは乗り心地です。後席に乗っていると、ときどき突き上げ感のあるガソリン車に対して、ハイブリッドは緩和され、乗り心地が向上していたのです。
ハイブリッド化に伴う車体剛性向上(リアのねじれ剛性3%向上)や低重心化(10mmダウン)、そしてサスペンションのチューニング変更。
さらにはガソリン車とのタイヤ銘柄の違い(新型シビックe:HEVのために専用開発されたミシュラン「パイロットスポーツ4」)などの結果として、後席の乗り心地アップにつながっているようです。
Writer: 工藤貴宏
1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに寄稿している。執筆で心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はマツダ CX-60/ホンダ S660。
擬似変速も結構制御を頑張っているよね。
ただ単に回転数を上下させているだけじゃないから、違和感は少ない。
走りも楽しいハイブリッドカーというのが、ホンダらしいね!