「簡単にはいかない…魔物は夜中にやってくる?」 トヨタ/スバルの富士24時間! 長丁場の末に見えたものは?

トランスミッションは見直しへ! 24時間走りきったトヨタ/スバルの想いとは

 もったいないのは、カーボンニュートラル燃料の開発をしているにも関わらず、それとは関係ない部分のトラブル、それも初代のころからこの2台のアキレス腱といわれていたトランスミッションのトラブルで遅れを取ってしまったという点です。この現実は、メーカーとして受け止める必要があると感じました。

 同じトランスミッションを使っているほかのチームに、トラブルは起きていないのでしょうか。

 この時点でST-4クラスにおいて、ぶっちぎりでトップを走っていたTOM’S SPIRITのエンジニアに話を聞くと「ノーマルのトランスミッションですが、ナラシは慎重にやっています。負荷をかけずに各部を馴染ませるのがポイントかな……」と教えてくれました。

 しかし、そんなトムススピリットもゴールまであと2時間のタイミングでトランスミッショントラブルが発生、4速が壊れたとのことでトランスミッション交換となります。ただ、初代での参戦時に何度も交換作業を経験してきたからか、最小限のロスで作業を完了させ、トップのままコースに戻すことができました。

 さらにゴール直前、ST-4クラスにGR86で参戦した浅野レーシングサービスもトランスミッションのトラブルでストップ……。

 つまり今回、参戦した多くのGR86/SUBARU BRZがトランスミッショントラブルに見舞われたわけです。

 このような状況にGRカンパニーの佐藤恒治プレジデントとGR車両開発部の高橋智也部長は、豊田社長から「早急に根本的な見直しをおこなうこと」といわれたそうです。

 そして15時、GR86 CNFコンセプトとBRZ CNFコンセプトは共にゴールを迎えました。

 結果を見ると、BRZ CNFコンセプトは624周を走ってST-Qクラス3位。GR86 CFNコンセプトは609周を走ってST-Qクラス4位でした。

 ちなみにTOM’S SPIRITは652周走ってST-4クラスでは優勝を飾っています。

 つまり、この3台のポテンシャルは拮抗していたことになります(皮肉にもトランスミッショントラブルも含めて)。

 ゴール後、各々の代表にレースの総評や今後の展望を聞きました。まずは車両の開発責任者であるGR車両開発部の藤原裕也氏です。

「まずはチームの皆さん、支えてくれたエンジニアに感謝です。

 それと同時に同じくらい『申し訳ない』という想いもありました。今回はやはり事前に弱点だと思ったところが壊れました。

 つまり24時間は博打ではなく、本当に走り切れる自信を持って走らなければダメだということで、改めてそれを痛感しました。

 ここから先はショートスパンでレースが続きます。まずは現状を見つめ直して弱点を潰していくことと同時に、新しい取り組みも中長期的に進めていきたいと思っています。

 今後も隠す所は隠し、競う所は競っていきます。挑戦はまだまだ続きますので、よろしくお願いします!!」

 続いて、スバルの本井雅人監督です。

「色々ありましたが、チーム皆でつかみ取った完走だと思っています。

 ただ、24時間は苦しく、難しいです。途中まで順調でしたが、そう簡単にはいきませんね。入念に準備をしてきたつもりですが、もっとしておかないとダメなんだな……と。

 100%すべての部品に対して24時間の検証をしていたわけではないので、今回のトラブルは出るべくして出たものです。

 ただ、嬉しかったのは若いエンジニアがすごく喜んでくれたこと、ほかにはない感激を感じてくれたことは有意義だったなと思っています。

 次は距離こそ短いですが、準備期間は短いので今回の反省を活かしながら進めていきます。

 万全の体制で走り切り『やったぜ!!』といえるような結果を残したいですね」

最後は全員で表彰式に参加したORC ROOKIE RacingとTeam SDA Engineeringのドライバー達
最後は全員で表彰式に参加したORC ROOKIE RacingとTeam SDA Engineeringのドライバー達

 このように、どちらも「今回の結果に満足しているか?」というと決してそうではないようです。

 ただ、あくまでもここは通過点であり、本当のゴールはこの先の未来です。

 今回はトランスミッションの問題が浮き彫りになってしまいましたが、どちらもエンジンに関してはトラブルシュートで停止していた時間を除く約22時間を、大きな問題もなく走り切ったわけです。

 つまり、カーボンニュートラル燃料に関して多くのデータやノウハウが蓄積されたわけで、今後に活きるはずです。

 今回の24時間は正直、一筋縄ではいかなかった部分も多々ありますが、ここでの経験は両社にとって、きっと意義あるものだったことでしょう。

 トヨタとスバル、時に仲間であり時にライバルの2社が、今後もガチで戦いながら開発を進めていく姿を、我々も見逃すことなく追いかけていきたいと思っています。

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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