「充電器」がEV普及の足かせに? どうなるインフラ拡充 まもなく到来「設備更新ピーク」なぜ?

「充電渋滞」をどう解決するか

 さて、このイーモビリティパワーですが、2021年に経済産業省が開催した「カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会」に興味深い資料を提出しています。その内容は一般にも公開されています。

 資料では、充電インフラの現状における「設置場所の課題」を三つ挙げています。

 一つ目は、充電インフラが増えていることがあまり知られていないことです。

 二つ目は、北海道や東北など、充電器の空白地域が目立つこと。高速道路でも、SAやPAの間隔が70km以上離れている区間が全国で18区間あります。

 そして三つ目は、東京・大阪・名古屋など大都市部には充電器の数が多くても、設置場所が有料駐車場や自動車ディーラー施設内に偏在しており、ユーザーにとって使い勝手が悪いことです。

 また、充電器の稼働率でみると、稼働率が高い設置場所は「カーディーラー」が最も多く、次いで「コンビニ」「道の駅」「大規模小売店」、そして「SA・PA」と続きます。

 一方で、稼働率が低いのが「地方自治体の施設」「宿泊施設」「観光施設」「ガソリンスタンド」「ゴルフ場」「空港」など公共の性格を帯びた場所が目立ちます。

2022年発売予定の日産新型クロスオーバーEV「アリア」
2022年発売予定の日産新型クロスオーバーEV「アリア」

 そして、ユーザーとして大いに気になるのが、いわゆる「充電渋滞」ではないでしょうか。

 まだまだBEV普及初期である現時点でも、高速道路のSAなどでは、急速充電で3台待ちといった状況がすでに現実になっています。

 基本的に、急速充電は1回30分が目途のため、仮に自分の前に2台のBEVがいる状況だと、自車の充電が終わるまで1時間半以上かかることを覚悟しなければなりません。

 こうした状況について、イーモビリティパワーは「充電器1台あたりの平均稼働率が20%を超えると充電渋滞が発生する時間帯が増える」と分析しています。

 つまり、1日あたり10回以上の急速充電をおこなう充電器で充電渋滞が発生しやすくなるというのです。

 対策としては、一つの充電設備で複数の充電口を持つシステムの導入があります。直近では、イーモビリティパワー、東京電力、ニチコンが200kW・6口(1口最大出力90kW)の急速充電器を開発し、2021年12月から首都高速の大黒PA(横浜市鶴見区)に設置し、今後は全国で拡充する予定だといいます。

 ただし、当然ながら充電器の導入コストが上がるため、採算性をどう確保するかが大きな課題です。

 また、既存の充電器は2010年代初めに国が推進したBEVとPHEVの普及政策の際に設置された設備も多く、充電器の寿命が8~10年ほどであるため、2022年から2024年頃に設備更新のピークを迎えることが確実視されています。

 そうした状況ですが、筆者(桃田健史)が各方面に取材している限り、充電器の稼働率が低い公共施設などでは、これまで採算性が悪かったことなどから、新たにコストをかけて設備を更新することを決めかねているケースが少なくないと聞きます。

 BEVの本格普及に向けて、改めて充電インフラの今後について、社会全体で考えるべき時期だと強く思います。

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。

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