力作ながらも「迷作」に!? 気合が空回りした感がある車3選
クルマに対するニーズは時代によって変化しており、ニーズにマッチしていればヒット作となりますが、すべてのクルマがそうなるとは限りません。そこで、なかなかの力作ながらニーズを捉えきれず気合が空回りした感があるクルマを、3車種ピックアップして紹介します。
かなり作り込まれながらもヒットしなかったクルマを振り返る
現在、SUV人気が世界的に高まっており、各メーカーから新型SUVが次々に登場しています。まさにニーズにマッチした販売戦略をとっているといえるでしょう。
クルマに対するニーズは時代によって変化を繰り返しており、それに伴って人気のクルマも様変わりしています。
自動車メーカーが新型車を開発するには一般的に3年前後の期間がかかるため、未来のニーズを予測することが重要です。
しかし、予測したニーズに見事マッチするクルマが開発できればヒットするかというと、そう単純な話ではないのが、新型車開発の難しいところではないでしょうか。
そこで、なかなかの力作ながらニーズを捉えきれず気合が空回りした感があるクルマを、3車種ピックアップして紹介します。
●ホンダ「ドマーニ」
ホンダは1988年に、コンパクトなサイズながら英国調の高級車を目指した新型車「コンチェルト」を発売しました。
当時、提携していた英国のローバーグループとの共同開発によって誕生したモデルで、静粛性へのこだわりや内装には本革シート仕様を設定するなど、「ミニレジェンド」と呼べそうな内容でした。
そして1992年にはコンチェルトの実質的な後継車として「ドマーニ」を発売。同様に小さな高級車をコンセプトに開発されました。
基本的なコンポーネンツは初代「シビックフェリオ」(EG型)から流用されましたが、内外装はすべてドマーニ専用のデザインとなっており、シビックフェリオとの共通項はほとんどありませんでした。
エンジンは1.6リッターSOHCと新開発の1.6リッターSOHC VTECに加え、最高出力140馬力の1.8リッター直列4気筒DOHCも設定され、音や振動、ドライバビリティを重視した“質のチューニング”を実施。
装備も充実しており、フルオートエアコン、パワーステアリング、パワーウインドウ、パワードアロック、電動リモコンドアミラー、オーディオシステムとともに、同クラスで初めて運転席用エアバッグシステムを標準装備するなど、上級車に匹敵する快適性と安全性を追求していました。
しかし、登場した時点でバブル崩壊という影響もあってか、販売的にはシビックフェリオほどの人気は得られず、1997年に2代目へとバトンタッチ。
2代目ドマーニは2代目シビックフェリオの内外装を少し手直しした程度で、本来の小さな高級車というコンセプトが薄れたのは否めず、販売はさらに低迷して2001年に消滅しました。
●スズキ「スプラッシュ」
現在、スズキがラインナップするコンパクトカーは「イグニス/クロスビー/ソリオ/スイフト」とバラエティ豊富で、さまざまなニーズに対応しています。
一方、かつてデザインと走りを重視した欧州テイストのコンパクトカーとしてラインナップされていたのが「スプラッシュ」です。
2008年に登場したスプラッシュは、ハンガリーにあるスズキの子会社のマジャールスズキで生産されたグローバルカーで、日本での販売においてはスズキ初となる自社ブランドの輸入車となっていました。
外観は安定感が高い印象の台形フォルムで、内装もシンプルながら洗練されており、大型のスピードメーターのみを配置したインパネまわりが斬新でした。
Aセグメントのコンパクトなボディながら5名乗車とし、6つのエアバッグと、リアシートにも3名分のヘッドレストと3点式シートベルトが装備されるなど、同クラスのなかでも秀でて安全装備が充実。
国内仕様のエンジンは最高出力88馬力を発揮する1.2リッター直列4気筒のみで、トランスミッションはCVTが組み合わされていました。
また、欧州で走行テストを繰り返した軽快なハンドリングと優れた乗り心地を両立するなど、スズキのコンパクトカーのなかでもかなりの意欲作だったことがうかがえます。
しかし、1トンを超える車重と1590mmの全高はベーシックカーに該当するクルマでは大きなマイナスポイントで、さらにスイフトという同門のライバルの存在も大きく、販売は低迷。
その後、マイナーチェンジでエンジンの改良や、フロントフェイスの変更がおこなわれましたが、2014年に販売を終了しました。
●トヨタ「bB オープンデッキ」
2021年暦年における登録車の販売台数1位はトヨタ「ヤリス」で、2位は同じくトヨタのトールワゴン「ルーミー」でした。
ルーミーはダイハツが開発した「トール」のOEM車で、2016年のデビュー以来スマッシュヒットを記録しています。
このルーミーの前身となるモデルが2代目「bB」で、初代は2000年に誕生しました。
初代bBは、1999年に発売された初代「ヴィッツ」のプラットフォームと主要なコンポーネンツを流用して開発され、若いユーザーをターゲットとしたトールワゴンです。
ボクシーな外観で広い室内もポップなデザインとされ、トールワゴンとしての使い勝手の良さや手頃な価格が相まってヒットを記録。北米でもサイオンブランドから販売されたほどです。
そして2001年には、よりアクティブなユーザーをターゲットとしたユニークな派生車、「bB オープンデッキ」が登場しました。
bB オープンデッキは後部がピックアップトラックのような荷台となっており、キャビンの荷室部分の上半分を切り取り、ルーフから荷台のサイドにかけてロールケージ状のバーが装着されていました。
なお、荷台が設置されていても商用車ではなく、あくまでも5ナンバー登録の乗用車でした。
特徴的な荷台は長尺物を収納できるほど大きくなかったため、キャビンとデッキを隔てる上下二分割のハッチを開けると、室内と荷台がスルーとなる機構を採用して対応。
また、bBが一般的な5ドアだったのに対し、bB オープンデッキは右側がワンドア、左側はセンターピラーレスの観音開きとした変則3ドアで、リアシートへの乗降性や積載性が考慮されていました。
bB オープンデッキはベースのbBに対してフロントセクション以外のボディパネルがほぼすべて新たに設計され、開発費はかなりかかっていたと推測できますが、価格は169万円(消費税含まず)からと比較的安価な設定でした。
しかし、トラックのような荷台のモデルではユーザーが限定されてしまい、販売は低迷。発売からわずか2年後の2003年に、bB オープンデッキはラインナップから消滅してしまいました。
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今回紹介した3台は、振り返ってみるとどれも個性的なモデルです。しかし、こうしたクルマは受け入れられればヒットしますが、受け入れられなければ惨敗するのは歴史が証明しています。
それはメーカーもよく理解しているため、近年は冒険したクルマが登場しづらい傾向となってしまい、少し寂しいところです。
ホンダ車を好んで乗っていが悔しい!(13年間お世話になりました)
それこそ、小さな高級車とディーラさんの看板に記載され、華々しくデビュー。5気筒エンジンに少しばかりの無駄な優越感を感じながら、後ろの席に人を乗せると足元が狭いとぶつぶつ言われながら、リッター7km程度の燃費で貧乏サラリーマン時代を共に生きた戦友のようなクルマでした。