世界初! 日産が実証を進めるEV充放電システムとは?「走る」だけではない新たな車の活用法

世界初 AI活用のEV充電システムとは

 次に、エネルギーについて見ていきます。

 日産の狙いは、地域の再生可能エネルギー100%に貢献することです。

 浪江町は2020年3月に「ゼロカーボンシティ(2050年二酸化炭素排出実質ゼロ)」を宣言しました。

 具体的な数字では、浪江町は2035年の目標人口を8000人にしていますが(現在の町内居住人口は1600人)、仮に75MWの太陽光発電と37MWの風力発電を導入すると、電力需要のうち再生可能エネルギーは84%に上ります。

 さらに、電気をためておくための定置型の蓄電池を50MWhとすると、再生可能エネルギー率は88%となる計算です。

 蓄電池50MWhは、概算で約16億5000万円が導入の初期費用として見込まれています。これを電池容量40kWhの日産EV(電気自動車)「リーフ」で換算すると1250台分にも及びます。

日産が「停車中のEVを蓄電池として賢く利用する方法」を実証中
日産が「停車中のEVを蓄電池として賢く利用する方法」を実証中

 こうした前提で、日産は「停車中のEVを蓄電池として賢く利用する方法」を、浪江町の「道の駅なみえ」で実証していきます。

 具体的には、充電池の制御システム(PCS:パワーコントロールシステム)が、太陽光、風力、水素燃料電池による電力と、「道の駅なみえ」の電力需要の情報を基にAI(人工知能)も活用して、EVの充放電を自律的におこないます。

 従来の商業施設などでのEV充電システムは、EVの充放電を取りまとめるVGIアグリゲーターと呼ばれる事業者が、設備側とEVとの中間に位置しています。

 これに対して、日産の実証実験は、充電システム側がその時の状況に応じてEVの充放電を自律的に判断するため、VGIアグリゲーターに対する中間マージンが不要となりコスト削減につながります。また、接続するEVが増えても、充電システム側のソフトウェアを変更するだけで充放電システム全体の変更がスムーズにできるのが特長です。

 日産によると、こうしたシステムを実際に運用するのは世界初といいます。

 今回利用するEVは、現在浪江町が公用車として使っている5台のリーフで、利用者は町役場関係者となります。利用は専用のスマホアプリでおこない、基本的に利用の1時間前から2時間前までに予約を完了させます。

 実際にスマホアプリを体験しましたが、表示も見やすく使いやすい内容だと感じました。

 また、浪江町には、日産と住友商事の協業事業で、EVの電池の再利用、再製品化、再販売を手掛けるフォーアールエナジーが2018年3月に拠点を開設し、技術開発と製品製造をおこなっています。

 将来的には同社の技術や製品も、AIを活用した自律的な充放電システム全体の中で活用される可能性が高いと考えられます。

 このように日産は浪江町で、スマートモビリティと再生可能エネルギーの活用を通じて、「地元に根付いた活動で、町のにぎわいづくり」を持続的にサポートしていく姿勢を明確にしています。

 2022年3月29日には、福島県浜通り地域の周辺自治体など産学官関係者による「浜通り連携協定サミット」の開催も予定されています。

【写真】日産と浪江町の「モビリティ×エネルギー×まちづくり」の取り組みをもっと見る(8枚)

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。

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