ホンダが「第3のホンダセンシング」を発表! 「エリート」登場後も新型を投入 3システム併存の理由とは
予防安全システムの新興国への適用拡大に向けた動きとは
では、なぜホンダは「ベースモデル」、今回の「360」、そして「エリート」という、3つのホンダセンシングを併存させることを決めたのでしょうか。
直接的な理由は、ホンダの三部敏宏社長が2021年4月の社長就任会見で発表した、「2050年に全世界で、ホンダの二輪車、四輪車が関与する交通事故死亡者ゼロ」という高い目標に向けた、具体的な方策を講じるということです。
世界保健機関(WHO)が2018年にまとめたデータによりますと、全世界での交通死亡事故者数は年間で135万人にも及びます。
このうち、四輪車が全体の約3割となる39万2000人で、ほぼ同数の37万8000人が二輪車、次いで歩行者が31万人、自転車が4万1000人、その他が22万9000人という状況です。
これを地域別で見ますと、もっとも多いのがインドの30万人で4割近くが二輪車です。ついで中国が25万6000人で歩行者の多さが目立ちます。インド以外のアジアでも15万5000人で、南米が11万人。
先進国では北米が4万2000人で、約6割が四輪車というのが特徴です。
日本は5000人と少なく(2019年以降、さらに減少)、約5割が四輪車となっています。
こうしてグローバルで見ると、国や地域によって社会情勢や社会インフラの状況が大きく違い、交通事故の原因にも違いがあり、また所得差によって先進技術を搭載したハードウエアを購入できる人の数にも差が出てきます。
そうしたなかで、ホンダは「Safety for Everyone ~道を使うだれもが安全でいられる事故に遭わない社会をつくりたい」という、安全に対する企業としての理念を打ち出しています。
これを実現するため、「人の能力(啓発活動)」、「モビリティの性能(技術開発)」、「交通エコシステム(協働、システム/サービス開発)」という大きく3つの要素を相互に連携させるという考え方を実行しているのです。
啓発活動では、1970年から独自の交通安全・運転教育を始め、国内累計で661万人が受講しており、海外でも42の国と地域の海外現地法人や関連会社で活動をしています。
交通エコシステムについては、例えば東日本大震災の際に活用された、防災情報としての通行実績情報マップや、気象情報としての降雨・降雪マップ、そしてホンダ車の年間84億kmに及ぶビックデータや地域住民からのコメントをもとにした地域での危険スポットをマップ上に表示するシステムが実用化されています。
モビリティの性能として、ホンダセンシングでは、さらなる普及拡大として新興国への適用を拡大、ホンダセンシング360を日本を含めた先進国で2030年までに販売する全てのモデルへの適用を目指します。
そして、ホンダセンシングエリートについては、技術を醸成していきます。
今回のホンダセンシング360開発に関する資料のなかでは、「リアルワールドでの事故実態に即した研究・開発」の徹底を掲げていて、その上で「無い物は自分で作る」「規制を基準とせず」という点を強調している点が印象に残りました。
ホンダには、創業者の本田宗一郎氏が提唱した「交通機関というものは、人命を尊ぶものである」という理念があり、そのうえで「積極安全」という表現で自由な移動を喜ぶために、積極的な技術革新と交通安全の啓蒙活動を進めてきたという歴史があります。
ホンダセンシングの多様化が、ユーザーの一人ひとりが交通事故を減らしていこうという意識を持つキッカケになることを望みます。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
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