AMGも道を譲るロールス・ロイス「コーニッシュ」のクルーザーのような乗り味とは
ロールス・ロイスの本分はドライバーズカーだった!
R-Rコーニッシュ・クーペといえば、映画「華麗なる賭け(原題Thomas Crown Affair:1968年公開)」にてスティーヴ・マックイーンが演じた主人公、大富豪のビジネスマンでありながら趣味として犯罪を楽しむ男、トーマス・クラウンの愛車として登場したマルーンのクーペを思い出す人もいるだろう。
●ドライバーズカーとしてのロールス・ロイスの魅力に触れる
劇中でマックイーンが走らせたのは、初期型にあたる「シルヴァーシャドウ・マリナー・パークウォード製スポーツサルーン」。いっぽう今回の試乗車両は最終型のビッグバンパー仕様で、ボディカラーもパールの入ったアイボリーとまったく異なるのだが、実際に目の当たりにすると2ドアR-R独特の高貴な雰囲気がありありと伝わってくる。
全長約5.2mという雄大なサイズもあって、現代車と比べると小柄なクルマが多いクラシックカーのなかにあっては圧倒的な存在感を見せるコーニッシュだが、それを自ら操るという高貴な体験は、クロームメッキが施された繊細なデザインのドアハンドルに手をかけた瞬間から始まる。
現代のロールス・ロイスのようなオートクローズ機構こそないものの、「コトッ」というかすかな音とともにドアが閉まると、上質なコノリー社製レザーとウォールナット材に囲まれた空間は、車外とはまったく異なる静寂な世界となる。
そしてキーをひねって、V8エンジンを始動。ステアリングコラム上に置かれた柔らかいタッチのATセレクターをDレンジに入れてブレーキペダルの力を抜くと、まるで現代のEVのごとくスムーズに車体が動き出す。
創業以来、20世紀末まで長らく続いたロールス・ロイスの伝統にしたがって、パワーやトルクのスペックは未公表。当時のR-R社では「必要にして充分」と応えていたそうだが、なるほど走らせてみると、彼らのいいぶんが良くわかってきた。
シャドウII系メカニズムを持つ1970年代のR-R/ベントレーは、低速でスロットルを踏んだ直後の初動がやや過敏に反応することでも知られるが、そのレスポンスにだんだん慣れてくると、アルミ軽合金製V8エンジンから発せられる「ルルルルル」という心地よいハミングとともに、2トンを大きく超える巨体をスイスイと加速させてゆくことができてくる。
ひとたび走り出してしまえば、しめたものである。たとえスピードが上がってもV8エンジンが必要以上に声を荒げることはなく、徹底的にエレガント、しかも力強く加速してゆく。またコラム式の3速ATの変速マナーがスムーズなことも相まって、現代の東京都内、あるいは高速道路でも流れを充分にリードできる速さを備えているのだ。
そして、クラシックR-Rの苦手分野と思われがちなハンドリングについても、マイナーチェンジでラック&ピニオン式とされたこの個体では、かなり正確性を増している。
1960年代までのロールス・ロイスを操るときのような、下側から捧げ持つような送りハンドルではなく、いわゆる「10時10分」あたりで積極的にステアリング操作をおこないたくなるくらいにはシャープ。たゆたうクルーザーのごとき乗り心地ながら、独特のドライビングの楽しみを享受することができる。
ただ唯一、ブレーキのみはABSが普及する以前のものなので、パニックブレーキ時には絶対的制動力が意外に優れた4輪ディスクブレーキをロックさせてしまうこともあり、いつでもスムーズに停車するには少しだけ習熟が必要となるかとも思われるが、いずれにしても「走る・曲がる・停まる」という自動車にとって重要な要素は、40年前のクルマとしては非常に優れていると断言してもよいだろう。
なぜかわが国では「ロールス・ロイス=ショーファードリヴン向けのクルマ」と思いこまれてしまっているようだが、もともとロールス・ロイスといえば20世紀初頭の「シルヴァーゴースト」の時代から、コーチビルダーが架装するボディの大半がオーナードライバー向け。むしろ、歴代ファントムのリムジン(あるいはセダンカ・ド・ヴィル)ボディ架装車両のみが、ショーファードリヴン向けに特化したものだったとも考えられる。
さらに第二次大戦後に登場した「シルヴァードーン」、「シルヴァークラウド」から最新の「ゴースト」に至る量産サルーンたちも、基本はオーナードライバーを想定して開発されたものであり、まして2ドアのコーニッシュはオーナー自らがドライビングを楽しむために生み出されたクルマだったはずである。
だから、今回のテストドライブでR-Rコーニッシュの「走りの資質」が高いことを今いちど確認するという目的が果たされて、いたく満足している筆者なのである。
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