かなりの力作だったのに消えた! 先駆者だった軽自動車3選
日本独自の規格である軽自動車ですが、今では国内でもっとも売れているクルマとなりました。この軽自動車のなかには、エポックメイキングなモデルも存在。そこで、先駆者だった軽自動車を、3車種ピックアップして紹介します。
先駆者として登場しながら消えた軽自動車を振り返る
近年、日本の自動車市場でもっとも販売台数が多いクルマといえば軽自動車です。とくにホンダ「N-BOX」シリーズやスズキ「スペーシア」といった、軽ハイトワゴンが市場を席巻しています。
軽自動車は日本独自の規格として誕生。「軽自動車」という言葉が使われ始めたのは1949年からで、1950年以降は2輪車、3輪車も軽自動車に含まれていました。
現在のような軽自動車規格が明確になったのは1954年で、排気量360cc、全長3000mm以下×全幅1300mm以下×全高2000mm以下と定められ、1975年までこの規格が続きます。
そして1955年に、スズキ初の4輪自動車「スズライト」が誕生。スズライトはそれまでの簡素なつくりだった軽自動車とは異なり、本格的な乗用車として設計され、現在まで続く軽自動車の基礎となったモデルです。
その後、軽自動車の規格は改定を繰り返して現在に至り、今では登録車に匹敵する装備と高い安全性を誇ります。
これまで数多くの軽自動車が登場しましたが、エポックメイキングなモデルも存在。そこで、先駆者だった軽自動車を、3車種ピックアップして紹介します。
●スズキ「フロンテクーペ」
前述のスズライト以降、スズキは軽自動車と小型車の生産で不動の地位を獲得しました。そのスズライトの後継車が「フロンテ」で、1971年に高出力なエンジンを搭載した軽自動車初の本格的なスポーツカー「フロンテクーペ」が誕生。
フロンテクーペは3代目フロンテをベースに開発され、ボディは低いフロントノーズと、就く傾斜したフロントガラスからリアまで流れるように続く、ワンモーションのルーフラインが特徴のファストバッククーペです。
この外観はいすゞ「117クーペ」など数多くの名車をデザインした、巨匠ジョルジェット・ジウジアーロによる原案をベースに、流体力学を駆使しスズキが完成させました。
なお、室内の居住性よりもデザインを優先した結果、発売当初は2シーターのみで、1972年に4シーターが追加されましたが、リアシートはあくまでも緊急用といった程度の広さです。
内装ではほかにもローバックタイプのバケットシート、インパネに6連メーターを設置し、3本スポークステアリングが奢られるなど、スポーツマインドあふれるコクピットを実現。
エンジンは最高出力37馬力(グロス)を誇る3キャブレターの360cc2サイクル水冷直列3気筒をリアに搭載するRRで、わずか480kgという軽量な車体を軽快に走らせました。
軽自動車という枠を超えた本格的なスポーツカーに仕立てられたフロンテクーペですが、排出ガス規制の強化もあって、1976年に生産を終了。
同年には550cc規格に対応した後継車の初代「セルボ」が登場しますが、以降はFF化されてスポーツカーというコンセプトは失われていきました。
●ダイハツ「ハイゼットカーゴ ハイブリッド」
現在、スズキと三菱、日産の軽自動車では、補機用発電機とモーターが兼用のマイルドハイブリッド車を展開しています。
また、スズキはかつて鉛バッテリーを搭載した初のハイブリッド車「ツイン ハイブリッド」を販売していましたが、短命に終わってしまいました。
そして、軽商用車では唯一となる、本格的なパラレルハイブリッド車として誕生したのが「ハイゼットカーゴ ハイブリッド」です。
2005年に発売されたハイゼットカーゴ ハイブリッドは、1基の薄型モーターをエンジンとトランスミッションの間に配置したコンパクトなハイブリッドシステムを搭載。
パワーユニットは最高出力50馬力のエンジンに出力12.7馬力のモーターで、バッテリーはニッケル水素を採用してリアシート下に格納しており、発進時や加速時にエンジンパワーをアシストします。
ほかにもアイドリングストップや、減速エネルギーの回生をおこなうことで燃費は20km/L(10・15モード)を達成。ベースのガソリン車が15km/Lですから30%以上向上したことになります。
しかし、ハイゼットカーゴ ハイブリッドの価格は215万5500円(消費税5%込)と、ベース車に対して100万円以上も高く、燃料代で価格差を相殺するのは現実的ではありませんでした。
ただし、販売は官公庁や企業に限定されており、あくまでもハイブリッド車の有効性を確認する実証実験だったと考えられます。
その後、ハイゼットカーゴ ハイブリッドは2010年に生産を終了。以降の軽自動車ではコスト的に前述のマイルドハイブリッドが有利なため、本格的なハイブリッド車は登場していません。
●三菱「i-MiEV」
世界中の自動車メーカーは、現在、脱炭素社会を目指してEVに大きく舵を切っており、すでに数多くのEVが販売されています。
この量産EVの先陣を切ったのが、2010年より個人向けに販売が開始された三菱「i-MiEV」です。
i-MiEVは軽自動車の「i」をベースとした世界初の量産電気自動車で、リアのラゲッジルーム下に64馬力モーターを搭載し、後輪を駆動するRRはiと同様のレイアウトとなっています。
また、16kWhの駆動用のリチウムイオンバッテリーは前輪と後輪の間のシート下に搭載されているので、重心が低く車両の中心付近にあり、安定した走りを実現。
内装のデザインもiに準じており、機能的にメーターやスイッチ類が配置されています。
発売当初は1グレードの展開でしたが、2011年には47馬力のモーターと10.5kWhのバッテリーにスペックダウンした「M」グレードを追加。価格も下げられて従来の「G」が380万円(消費税5%込)、「M」が260万円(同)です。
軽自動車としてデビューしたi-MiEVでしたが、2018年には道路運送車両の保安基準の改正に合わせ対歩行者安全性強化のため、フロントバンパーが85mm延長されたことから軽自動車から登録車に変更になりました。
このように改良が重ねられたi-MiEVでしたが、2021年3月に生産を終了。一方、EVの軽商用バンとして存在する「ミニキャブ MiEV」は、日本郵政に大量に納車されているので街で見かける機会も多いのではないでしょうか。
※ ※ ※
前述のとおりフロンテクーペは軽自動車初の本格的なスポーツカーでしたが、後のホンダ「ビート」やスズキ「カプチーノ」、マツダ「AZ-1」、ダイハツ「コペン」など、軽スポーツカー誕生の礎になったといえるでしょう。
しかし、ニーズの変化から軽スポーツカーの人気は風前の灯火という状況で、ホンダ「S660」も2022年3月で生産を終了します。
今後は同様なモデルが復活するのはかなり難しい状況ですが、軽ハイトワゴンの人気を考えると、軽自動車本来の使われ方に回帰したのかもしれません。
コメント
本コメント欄は、記事に対して個々人の意見や考えを述べたり、ユーザー同士での健全な意見交換を目的としております。マナーや法令・プライバシーに配慮をしコメントするようにお願いいたします。 なお、不適切な内容や表現であると判断した投稿は削除する場合がございます。