公道を走る高級ボート!? ロールス・ロイスの「ボート・テイル」は超絶VIP仕様だった

ラグジュアリーの極み、ロールス・ロイスのビスポーク部門が本気で作った最新作「ボート・テイル」が誕生。その名のとおり、高級モーターボートのスタイリングを取り入れたボート・テイルの詳細をレポートする。

新生スペシャルコーチビルドR-Rは、木製モーターボートがモチーフ

 2021年5月27日の日本時間21:00、世界最高級車ブランドとして君臨するロールス・ロイス(R-R)からとても重大、そしてとても魅力的なニュースが世界に配信された。

 それは、特別な顧客の特別なオーダーによって、ごく少数のみをビスポーク製作するスペシャルコーチビルド車両の最新作「ボート・テイル(BoatTail)」の世界初公開のニュースであった。

 VAGUEではいち早く情報を入手し、この美しきR-R製オープンツアラーの第一報をレポートしよう。

ロールス・ロイスといえば、ドアに仕込んだ傘が有名だが、このようなパラソルとしての使用例はあまり例を見ない
ロールス・ロイスといえば、ドアに仕込んだ傘が有名だが、このようなパラソルとしての使用例はあまり例を見ない

 今世紀初頭に英国グッドウッドで再起を図り、これまで大成功を収めてきたロールス・ロイスでは、第二次世界大戦前の伝統に立ち返ったかのようなワンオフ(一品製作)車両、ないしはそれに準ずる少量製作モデルの展開を、新たなビジネスモデルに育てようとしているようだ。

 そのプロローグとなったのは、ロールス・ロイスとはゆかりの深い名門カロッツェリア「ピニンファリーナ」とのコラボレーションのもと、当時の「ファントムVII」をベースに製作され、2008年に発表された「ハイペリオン(Hyperion)」。ただしこれは、あくまでピニンファリーナと注文主による自主的なプロジェクトだったと認識されている。

 しかし、2017年5月27日にイタリア・コモ湖で開催されたクラシックカー・コンクール「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」では、ロールス・ロイス社ビスポーク部門が自らの手で1930年代後半の超高級クーペの世界観とスタイリングを再現したワンオフ「スウェプテイル(Sweptail)」を発表。世界を大いに驚愕させることになった。

 そしてスウェプテイルのデビューからちょうど4年を経た、2021年5月27日。ロールス・ロイスは新たなスペシャルコーチビルド車「ボート・テイル」を発表するに至ったのだ。

●マリンスポーツからのフィードバック

 全長5.9mという「ボート・テイル」の雄大なボディは、前作にあたる「スウェプテイル」を製作した際と同じく、アレックス・イネス氏の率いるビスポーク部門のデザインチーム、そして注文主が協議しながらスタイリングを構築したものとのことである。

 スウェプテイルが、2010年代までのR-Rデザインの集大成のような、ゴシック的ともいうべき荘重かつ装飾の多いスタイルだったのに対して、「ボート・テイル」のプロポーションは極めて流麗にしてクリーン。新型ゴーストで初めて提示された「Post Opulence(豪華絢爛のその先 → 贅沢からの脱却)」スタイルを拡大解釈したようにも映る。

 スタイリングを構築するうえでモチーフとなったのは、木製の高級モーターボートとのこと。長大なテールエンドに向けて緩やかに下降する優美なカーブには、たしかにクラシカルなボートやヨットの影響が色濃く感じられる。

 また1932年型「40/50HpファントムIIシャシ」に架装された、古き良き「ボート・テイル」ボディ特装車もモチーフに含まれるという。

 現代のロールス・ロイス本社のあるグッドウッドは、ポーツマスやブライトンなど、マリンスポーツの盛んなイングランド南海岸にほど近く、ビスポーク部門デザイナーや職人たちのなかには、高級ヨットやモーターボートのデザインや製作に携わっていたキャリアを持つものも多いという。

 このクルマの美しいテールを形成するリアデッキは、往年のロールス・ロイスにも複数の作例が見られた「ボート・テイル」スタイルの木製リアデッキを、現代的に解釈したウッドパネルが配される。

 このべニアパネルは木目を残したオープンポア塗装に、つや消しステンレス鋼製のピンストライプ・インレイをあしらい、今も昔も変わらない高級ボート/ヨットの典型的な木製構造へのオマージュを体現。さらにロールス・ロイスの木材スペシャリストの研ぎ澄まされたスキルによって、ボディ形状に合わせて木目を操作することで、左右対称の「ブックマッチ」としている。

 また、これもボートのキャノピーを思わせる着脱式のハードトップは、現代彫刻のごとく優美な弧を描くルーフラインを持つとともに、「フライングバットレス」のようにテールに着地する繊細なスタイルで締めくくられる。もちろん、ハードトップを外しているときに悪天候に遭遇した事態に備えて、一時避難用のトノーが収納されることになっているという。

 雄大な美しさときめ細やかなディテールは、たとえ世界最高級車ロールス・ロイスであろうとも、量産モデルでは到達できないレベルのものなのである。

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