なぜ「軽SUV」は販売上位に入らない? 「軽スーパーハイトワゴン」に敵わない訳
軽スーパーハイトワゴンが圧倒的な人気を誇る訳とは
それでもハスラーは2021年1月から3月までに1か月平均で3716台の届け出がありましたが、タフトは2374台に留まります。タフトの売れ行きはハスラーの60%少々です。
タフトが登場したのは2020年6月なので、同年1月に販売を開始したハスラーよりも設計は新しいのですが、なぜ売れ行きが下回るのでしょうか。
この背景には複数の理由があるのですが、まず両車では機能が異なることが挙げられます。
ハスラーは後席に左右独立式のスライド機能を採用。背もたれを前側に倒すと、座面も連動して下がり、ワンタッチでボックス状の広い荷室に変更できます。
その点、タフトの後席は座面が固定されてスライドしません。後席は座面の奥行寸法も短いので4名乗車には不向きです。
エンジンについては、ハスラーはすべてのグレードにマイルドハイブリッドを搭載。ターボを装着しない2WDのWLTCモード燃費が25km/Lに達しますが、タフトは20.5km/Lです。
その代わり、タフトは装備を充実させています。価格が一番安い135万3000円の「X」にもガラスルーフの「スカイフィールトップ」やLEDヘッドランプ、電動パーキングブレーキが標準装着されます。
同じ価格帯のモデルとして、ハスラーには136万5100円の「ハイブリッドG」がありますが、ルーフは普通のスチール製です。ヘッドランプはハロゲンで、パーキングブレーキは足踏み式ですから、装備の水準はタフトが優れているといえます。
しかしすべてのユーザーがスカイフィールトップを必要とするわけではありません。ユーザーによってニーズが異なります。
その点でハスラーの多彩なシートアレンジや快適な後席、優れた燃費性能は、幅広いユーザーに適しているでしょう。
そしてタフトは実質的に現行型が初代モデルなので(以前のタフトは悪路向けのSUVで1980年代に生産終了)、ハスラーと違って先代モデルからの乗り替え需要もありません。
加えてタフトは、先代ハスラーの登場から6年後に発売されたので、どうしても後追い商品的な印象を受けます。このような事情により、タフトの売れ行きはハスラーの60%少々に留まっているのです。
一方、N-BOX、スペーシア、タント、ルークスといったスーパーハイトワゴンは、好調な売れ行きを保ちます。広い室内に多彩なシートアレンジ、スライドドアの採用など、実用性を高める要素が豊富に揃うからです。
スーパーハイトワゴンを選べば、家族4名のドライブから自転車のような大きな荷物の運搬までさまざまなニーズに対応できます。この安心感と利便性は大きいです。
スーパーハイトワゴンは多用途性があるので、子供の成長などに合わせて車種を変える必要もありません。
軽自動車だから独身者が使ってもムダがなく、結婚して子供が生まれるととくに優れた実用性を発揮します。
さらに、子育てを終えてミニバンから小さなクルマに乗り替えるユーザーにもピッタリです。夫婦2人の生活に戻っても便利に使えるでしょう。
いまは軽自動車とSUVが人気のカテゴリーになりましたが、スーパーハイトワゴンは従来型からの乗り替え需要まで含めてユーザーの人口が圧倒的に多いです。
そのためにSUVタイプの軽自動車が、販売面でスーパーハイトワゴンを追い抜くのは難しいのです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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