OPEL導入も間近! プジョー・シトロエン・DSを扱う「グループPSAジャパン」木村社長に聞く今後の展望とは

グループPSAジャパン全ブランドの販売新記録達成に向けて

Q:いまグループPSAジャパンはすごく台数が伸びています。その要因を含めてどのように評価していますか。

木村:クルマが圧倒的に良いコトに対する認知が広がっていっているということでしょう。もっと伸びると思いますよ。この価格帯で、この性能で、このデザインの商品ですから。

2020年7月に日本上陸したコンパクトSUVタイプのEV「DS3 CROSSBACK E-TENSE(DS3クロスバック Eテンス)」
2020年7月に日本上陸したコンパクトSUVタイプのEV「DS3 CROSSBACK E-TENSE(DS3クロスバック Eテンス)」

Q:各ブランドともまだまだ伸びしろがあるということですね。

木村:バリューが圧倒的に高いと思いますので、まだまだ伸びしろがあるでしょう。

Q:どのくらいまでいきそうですか。

木村:各ブランドには最高販売記録というのがあって、シトロエンでは6000台強ですが、2021年はこれを確実に抜けると思います。プジョーは1万4300台くらいを20年程前に記録しているのですが、これも簡単に抜くでしょう。2021年は3ブランドで2万台を超えてくると思いますが、このまま順調にいけば2万5000台とか3万台はいくと思いますし、いっておかしくないと思います。

 ネットワークにも若干手を入れていきますし、オペルがいいタイミング(2022年前半頃)で参入して来ます。プジョー、シトロエン、オペルというブランドを扱いたいという新しい投資家の方もいらっしゃいますし、また他のブランドを手がけている結構強力なディーラーも入ってくれます。そういうところを加えていけば、オペルがトリガーになりネットワークも強化していけますので、良い循環が出来上がるでしょう。

 2021年の1月から3月の伸びを昨年対比でみると、ナンバーワンがシトロエン、2番がプジョーです。ドイツ車一辺倒から、ドイツ車以外が伸びるという流れが来ているのです。

 もうひとつは、最近のグループPSAのクルマは品質が良いので、そこをどうやってアピールするかが大事です。我々がよく見るJD PowerのIQSで3か月間内にどれだけワランティで入庫するかという結果があるのですが、私が以前関係していたインポーターの半分以下です。全てが全てよくなったわけではないのでしょうが、初期品質はびっくりするような数字が出ていて、日本車と変わらないのです。

Q:全体として露出が少ないということはありませんか。

木村:プジョーは3か月に1回テレビCMを安定的に打つようになりました。これ実は私がボルボでおこなった作戦で、いまやだいぶ皆さんに真似されていますが(笑)。

 2021年の2月下旬から3月にかけてテレビCMを打ったのですが、GRP(延べ視聴率)の目標値を設定したのです。たぶん第1四半期の結果が良かったのはそういうところも効果が出ていると思いますし、ディーラーの来場者数が大きく伸びました。

 テレビCMを打つのは難しいのですが、それをやるとディーラーの方も元気になりますし、皆さんが忘れないようにと3か月に1回は放映するのはそういう意味もあるのです。

■サポート人員を充実して販売面を強化する

Q:販売台数が増えてくると今度はディーラーの対応がすごく求められてきますよね。

木村:すでに大変なことになってきています。これはずっとディーラーにいい続けていて、最近やっと動き始めているようですが、即戦力のセールスをひとり採用するのも難しく、セールスをいちから育てるのも時間的に無理があります。なのでそういったやり方ではなく、例えばセールスのサポート人員を採用することで、車庫証明をセールスが取りにいくなどを、絶対にやらせないようにする。

 その結果、顧客との接点やお客様と話をする時間にどれだけ集中させるかが重要なのです。サービスもそうですね。サポート要員がいることで、クルマのメンテナンスや修理が出来るメカニックが、わざわざ洗車やクルマを移動したりしなくて済みますし、そういうことをやらせている場合じゃないといっているのです。

 ショールームアテンダントなどの女性も活用して、フロアマネジメントだけではなくて、週末は商品の説明が出来るレベルで補助的に動ける人をいかに活用していくかがますます大事になってきています。

Q:そのほかにも販売台数が増えれば、それだけ入庫台数も増えます。その辺りをどのように考えているのですか。

木村:工場のキャパシティはまだあると思っています。ブランドを分けていますので、ショールームとともにサービス工場もそれだけ数があります。やはり一番のネックは施設ではなく人だと思います。

Q:人材の部分では、他ブランドで教育という意味でのコンテストなどを積極的に開催していますが、グループPSAジャパンとしてはいかがですか。

木村:あまりそこは出来ていませんので、これから手をつけようと思っています。販売台数の多いセールスマンを表彰するなどはやっていますが、セールスマンのロールプレイング大会ですとか、サービス面でのコンテストなどはこれからおこないたいと思っています。

 これはすごく現場のモチベーションアップにもつながります。実はコロナ禍の関係もあり、ディーラーの会議やコンテストなどは全部“どうしようかなモード”で手がついていない状況なのです。

■既存オーナーを大切にするDNAを復活させる

Q:グループPSAジャパンでは現在3ブランド展開で、そのうちのプジョーとシトロエンに関しては日本への輸入が始まって、相当な年月が経過しています。そういった観点で既存ユーザーに対しての対応が少し物足りないという声も聞かれますがいかがでしょう。

木村:新規のお客様がたくさん来てくださって、ディーラーがそれに甘えてしまい、既存のオーナーさんへの声かけみたいなのが全然出来ないようです。2021年の来場数でみますと、1月から3月のプジョーディーラーでは、新規は+66%だったのですが既存オーナーは+33%でした。つまり伸びが半分ぐらいです。

 人手不足というディーラーの言い訳もあり、どうしても新規のお客様への対応となってしまい、既に購入して頂いているお客様に声をかけるといういろんな機会を作ることが出来ていません。本当はその時に査定をしたり、買い換えを促進するといった販売活動が必要なのですが、圧倒的に人手が足りてないのが現状です。

Q:そこが重要ポイントですね。

木村:そうなんですよ。それを変えなきゃいけないと強く思っています。ほとんどのディーラーのDNAを変えないといけません。ボルボはXC60、XC40でカーオブザイヤーを取るまでは、本当に新規顧客が来ないブランドでした。

 ですので既存のお客様に声かけをすること、オーナーを大切にしなきゃいけない、オーナー代替えが命綱だというのは、ディーラーのDNAとして染み付いているのです。プジョーやシトロエンも昔は全然売れない時代があって、オーナー代替えでしか食えない時代があったと思うのですが、そこのDNAが途絶えてしまっています。ここは一番変えていかなければいけないところです。

■ゆくゆくは古いクルマも見られるように

Q:木村さんはボルボ時代に積極的にクラシックカーイベントなどに出場された経験もあり、エンスージアストでもあります。ボルボ時代には古いボルボを扱うクラシックガレージを作るなど、古いクルマに対しても様々な施策を打ってきました。そういった面では今後グループPSAジャパンとして取り組むお考えはありますか。

木村:どこかでやりたいとは思っていますが、ボルボと比べると数がそれほど多くないようです。

Q:シトロエンはかなりの数に上ると思います。そういった方々に対してパーツ供給やメンテナンス情報の発信などは考えられませんか。そうすることで、既存ユーザーとの接点が強くなるというメリットもあります。

木村:パーツに関しては旧車ユーザーだけではなく、いまのユーザーに対してもやらなければいけないことがたくさんあります。実はパーツ供給体制はかなりよろしくないので、そこはいろいろと手を入れて、きちんとKPI(重要業績評価指標)を持って取り組むように指示しています。この状況を見ると古いクルマはもっと大変だと思います。

Q:古いシトロエンに乗ってディーラーにいってもまともな対応をしてくれないので、そのまますぐに帰ってしまったり、何かで相談しにいってもけんもほろろの対応もあるようです。

木村:一度きちんと研究をさせてください。ボルボは本国側にクラシックパーツという別会社をきちんと持っていて、それと直接ITで繋がり、日本のディーラーネットワーク間もITでつながっています。

 ですから例えば古い240のワイパーのこの部品がどこにあるかと調べて、例えば東名横浜のクラシックガレージに在庫があればそこから出荷できますので、とくに本国にオーダー発注をかけなくても良いのです。多分この辺の仕組みはPSAでは全然駄目なのではないでしょうか。

◆顧客満足度の向上が第一目標

Q:今後、木村さんとしては、グループPSAジャパンをどのようにしていきたいとお考えですか。

木村:やはり顧客のロイヤリティをあげるためにはCS(顧客満足度)の向上だと思っています。日本車よりもだいぶ高いプレミアムを払って買っていただいていますから。ただ、そういった意識はあるのですがまだまだ全然足りていません。また、新規の方が大勢来られて忙しいということにかまけて、ディーラーの方達の意識がまだそこまで行き届いてないという気がしますので、ビジネスが好調のうちにしっかりと押し進めたいですね。

Q:具体的な目標時期のようなものはありますか。

木村:こういったことに関しては、ディーラーの考え等もありますので、結構時間がかかるものです。ただし、来年JDパワーのCS調査(顧客満足度調査)には、プジョーの台数が増えていますのでランクインしてくるでしょう。そこであまり恥ずかしくない成績にしたいですね。いまから1年以内に少しは改善している形にはしたいと考えています。

Q:さて、ステランティスに関してですが、FCAとグループPSAが共同体になりました。その点についてどうお感じになりましたか。

木村:全体的な話には前向きです。実は自動車会社は割とモノカルチャーの会社が強いんですね、例えばトヨタやホンダとか。それらに対して多様性のある会社やグループで成功して来たのは、いままでではルノー・日産・三菱くらいしかありませんでした。それらを踏まえ、ステランティスが成功するということは、すごく大事なことではないかと思いますね。

 多様性があって色々なブランドがありますから、そこで成功するということはとても重要なことなのです。

※ ※ ※

 時に淡々と、時に情熱を持って1時間にわたるインタビューに応えてくれた木村氏。就任から4か月程度でありながら、自社の弱みと強みを明確に把握し、これからのビジョンに繋げているところはさすがだと感じました。

 ボルボの急成長をけん引し、いまのポジショニングに引き上げた手腕を今度はグループPSAジャパンで見せてくれそうです。また、いちエンスージアストである側面もお持ちなので、徐々にクラシック部門にも注力していくに違いありません。今すぐには無理そうですが、古いシトロエンやプジョーにお乗りの方々も、期待してよいのではないでしょうか。

 いずれ、古いシトロエンあたりを購入してヒストリックカーイベントに登場する木村氏の姿が見られるかもしれませんね。

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