なぜフェラーリに「アメリカ」の車名がつく? 2億6700万円のリーズナブルなクラシック跳ね馬とは
フェラーリには、車名に「アメリカ」とつく車種が以前から存在していた。どうしてイタリアンブランドであるフェラーリに、アメリカの名前がつくのだろうか。
どうしてフェラーリに「アメリカ」の名がつくのか?
フェラーリでは、近・現代においてもしばしば「アメリカ」を名乗るモデルが誕生する。生粋のイタリア製スーパーカーブランドであるフェラーリに、なぜ「アメリカ」と名づけられるかについて、疑問を抱いている読者諸兄もいらっしゃることだろう。
しかしフェラーリにおける「アメリカ」には、創業間もない時期から継承された伝統があるのだ。
今回は2021年1月22日、クラシックカー/コレクターズカーのオークションハウス最大手のRMサザビーズ北米本社が、アメリカでは冬の避寒リゾート地として知られているアリゾナ州スコッチデールにて開催した大規模オークション「ARIZONA」に出品された、1954年型フェラーリ「375アメリカ」のゴージャス極まるヴィニャーレ製クーペを俎上に載せ、フェラーリとアメリカ、そして「カロッツェリア・ヴィニャーレ」について、解説しよう
●1954 フェラーリ「375アメリカ クーペ by ヴィニャーレ
フェラーリは1947年、ジョアッキーノ・コロンボ技師の設計したV型12気筒1500ccの「125S」からスタートし、レースにおける戦闘力アップを図るべく、比較的早い時期から排気量の拡大を図っていた。
また、現在に至るまでフェラーリのレゾン・デートルであるグランプリレースに参加するため、当初は社主エンツォとコロンボ技師の古巣であるアルファ ロメオと同じく、スーパーチャージャーによる過給システムと組み合わせる方策も採っていた。
ところが、4500cc以下の自然吸気/1500cc以下の過給機つきと規定されていた当時のレギュレーションでは、王者「アルフェッタ158/159」に歯が立たなかった。そこで、コロンボ技師からフェラーリ技術陣を引き継いだアウレリオ・ランプレーディ技師は、コロンボ系ユニットとはまったく関連のない、より大排気量のV12エンジンを開発。1951年シーズンには、4.5リッターの「375F1」で一定の成果を得ることに成功する。
このランプレーディV12は、「250(のちのコロンボ系250GTとは別)」からスタートし、「340」や「342」などのレーシングスポーツや、ごく少数生産の超高級ロードカーにも採用され、新たなマーケットとしてもっとも有望視されていた国の名から、それぞれ「340アメリカ」、「342アメリカ」と名づけられた。
●レーシングエンジンを搭載したスペチアーレ
そして1953年には「375アメリカ」が、全フェラーリ製ロードカーの最高峰として誕生する。そのシャシとサスペンションは、ヨーロッパ市場向けモデルとして対極をなす「250 GTエウローパ(Europa)」と多くを共用していたが、エンジンフードの下にはレースカー由来の4.5リッターV12が潜んでいた。
約300psを発生したこのユニットは4速ギアボックスを介して、フェラーリ375アメリカを当時の世界最速車の1台、そしてもっともエクスクルーシヴな市販車とした。
375アメリカは11台が製作されたといわれ、そのうちの8台はピニンファリーナが架装。残りの3台はカロッツェリア・ヴィニャーレに託された。
ヴィニャーレは、ピニンファリーナの母体である「スタビリメンティ・ファリーナ」で修行したアルフレード・ヴィニャーレが、1948年に興したボディ工房である。ヴィニャーレは、非常に優れた能力を持つボディ製作職人であり、同じくスタビリメンティ・ファリーナ出身のジョヴァンニ・ミケロッティとの名コラボで数多くの名作を上梓した。
ヴィニャーレは、まるで一心同体のような存在であったミケロッティの描いた、下描き程度のデザインスケッチを正確な設計図へと変身させた上で、アルミ板から見事なボディラインをたたき出したという。
この時期、ヴィニャーレ−ミケロッティのコンビは、実に140台ものフェラーリ・ボディを架装したとされる。そのなかの数台は、とくに3回にも及ぶ「ミッレ・ミリア」優勝を筆頭に、1950年代の重要なレースで栄冠に輝いた。
またこのコンビは、ピニンファリーナが一括してフェラーリのボディワークを担うようになる1950年代半ばまでに、アート作品のごときフェラーリ・ストラダーレも数多く制作。そのなかでも今回の375アメリカは、格別のワンオフ車両だったのだ。
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