なぜフェラーリに「アメリカ」の車名がつく? 2億6700万円のリーズナブルなクラシック跳ね馬とは

超一流コンクール・デレガンス招待資格車としてはリーズナブル!?

 このほど「ARIZONA」オークションに出品された個体は、フェラーリ375アメリカにヴィニャーレが架装した2台のうちのひとつで、シャシNoは「0327 AL」。もう一台の「0337 AL」とは、ファストバックのプロポーションこそ共通するが、ノーズとヘッドライトの処理などのディテールが大きく異なる。

●1954 フェラーリ「375アメリカ クーペ by ヴィニャーレ

ヴィニャーレが架装したフェラーリ「375アメリカ」は、ピニンファリーナとはまた違った威風堂堂たる迫力がある(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's
ヴィニャーレが架装したフェラーリ「375アメリカ」は、ピニンファリーナとはまた違った威風堂堂たる迫力がある(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's

 1953年にトリノのヴィニャーレ工房で完成したのち、翌1954年1月には当時のフェラーリ北米代理店──1948年にフェラーリ「166」でル・マン優勝を果たしたルイジ・キネッティ率いる「キネッティ・モーターズ」によって、マディソン・スクエアガーデンで開催された「ニューヨーク・ワールドモータースポーツ・ショー」にてデビュー。その後3月には大西洋を渡り、ジュネーヴ・ショーでも展示された。

 そして同じ年の後半、ウィスコンシン州ミルウォーキーの「リーダーカード・レーサーズ(Reader Card Racers)」社の創業者、ロバート・C.ウィルクがモデナのエンツォ・フェラーリを訪ね、この375アメリカを手に入れたという。

 レースカーやドライバーの写真を使用したコレクションカードとステッカーの製作・販売で財を成したウィルクは、この時代のアメリカのレース界における重要人物のひとりである。また、最終的には7台の跳ね馬を入手するほどのフェラーリ愛好家で、エンツォとも親交が深かったといわれている。

 375アメリカは彼の要望で赤/ブラックルーフで再塗装され、のちにメタリックブルーに塗り替えられた。そののち彼は1970年に逝去する直前まで、ほぼ毎日のように高速ドライブを楽しんだとのことである。

 ウィルクがこの世を去ったあと、20世紀末までアメリカの名だたるコレクターたちがそれぞれ長期間所蔵した後、いったんベルギーとオランダを渡り歩くが、20年ほど前にアメリカに戻り、こちらも有名なフェラーリ・コレクターが2009年まで所有していた。

 これらのヒストリーについては、フェラーリ研究の大家として有名なマルセル・マッシーニによって書かれた、ウィルクと彼のフェラーリに関する記事の一部として、北米のフェラーリ専門誌「Cavallino(カヴァリーノ)」78号にも詳しく記載されている。

●文字どおりアメリカで歴史を刻んだ一台

 その後もこの375アメリカはアメリカ国内に留まり、2011年1月にフロリダ州パームビーチで開催された「カヴァッリーノ・クラシック」に出展されたのち、かつてニューヨーク・ショーとジュネーヴ・ショーで初公開された際のオリジナル、アマラント/メタリックグレーの2トーンボディにベージュ革のインテリアの組み合わせに戻された。

 現状でのコンディションは、ノーズに若干のへこみやペイントの擦り傷が認められるものの、全体像は充分に魅力を保っている。一方インテリアは、レザーシートのひび割れやカーペットの摩耗などの使用感が外観以上に見受けられるが、リペアは比較的容易ではないかと思われる。

 そして重要なことは、2018年7月に認定申請を受けた「フェラーリ・クラシケ」によって、製作時のオリジナルエンジンの搭載が確認されたことである。すべてがマッチングナンバーであることは、この種のクルマにとってきわめて大切な出生証明となるのだ。

 今回の「ARIZONA」オークション出品に際して、RMサザビーズ北米本社が設定したエスティメートは(推定落札価格)は240万ドル−340万ドル(邦貨換算約2億5000万−3億5500万円)であった。

 2021年1月22日におこなわれた対面型/オンライン併催の競売では、エスティメートをクリアする255万7000ドル、日本円に換算すれば約2億6700万円で落札されるに至った。

 内外装のちょっとした手直しを施すことで、おそらくは「ヴィラ・デステ」や「ペブルビーチ」などの超一流コンクール・デレガンス招待資格も狙えるであろう「一品モノのフェラーリ」としては、なかなかリーズナブルではないだろうか。

【画像】フェラーリに見えない「375アメリカ」とは?(35枚)

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