オーバルレースは何が難しい? インディ500で2度優勝した佐藤琢磨のスゴさとは?
インディカーは直線でもハンドルを右に切っていないと真っ直ぐ走らない
オーバルを走るとき、インディカーはマシンに特別なセットアップを施す。リアタイヤを駆動するデファレンシャルはレーシングカートのように直結され、左のリアタイヤに対して右リアタイヤの径が少し大きくなっている。紙コップを寝かせて転がすと円を描きながら転がるが、これと同じ原理を利用しているのだ。
またキャンバーと呼ばれるタイヤに付ける角度も4輪すべてが左側に寝かせてある。これらはすべて左に曲がることだけを考えてセットされる。つまり360km/hレベルでコーナリングするときに、できるだけ旋回抵抗を減らし、かつコーナリング速度を上げることを目的としている。
このためストレートでは、ステアリングを右に切っていないとマシンは勝手に左に曲がろうとする。ターンに飛び込む瞬間にステアリングを緩め、マシンが旋回し始めたら逆に左に切り込んでゆく。サーキットコースなら、ストレートで手の力を抜いて休むことができるが、オーバルコースでは手や腕が休まる暇はない。レースが終わると握力がなくなっているほどだ。
ロードコースやサーキットコースではダウンフォースを付けるために大きなウイングを使うが、スーパースピードウェイのIMSでは空気抵抗を減らすために小さなウイングを使用する。そして可能な限り寝かせてレスダウンフォースにし、ストレートスピードを上げるのだ。
ダウンフォースを付け過ぎると走りやすいがタイムは伸びない。そしてこのレベルの速度になると、気温と風向きがダウンフォースに大きく影響する。気温が下がると空気密度が増すのでダウンフォースが増える。また風向きによって向かい風ならフロントがリアより押さえつけられ、追い風だとアンダーステアが強くなる傾向にある。
ただし、オーバルではあっちの向かい風はこっちの追い風。1周するうちに必ず両方向を経験する。このため、ドライバーは走りながらコース内の吹き流しを見て風向きを判断する。そしてこの超高速では、車高をたった0.5mmから1mm変えるだけでハンドリングが変化する。ウイング角を含め車高など空力のセットアップはとてもシビアなのだ。
また燃料のエタノール(E85:エタノール85%+ガソリン15%)が減るにつれてハンドリングも変化する。その変化に応じてウエイトジャッカーやスタビライザーをコクピットから調整しなくてはならない。ウェイトジャッカーとは右リアサスペンションに取り付けられていて、右リアの車高を上下させる装置のことだ。
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INDY500レースは、単純に左にグルグル回ってレースするだけ、と思われるかもしれないが、超高速でレースするだけではなく、これだけさまざまなことに神経をすり減らし走っている。しかも4つあるターンにはそれぞれ個性があって、どれひとつ同じターンはない。
特殊なのはこれだけではない、レーススケジュールもだ。予選が終わってから1週間後にレースがおこなわれ、その間、金曜日にカーボデーと呼ばれる完熟走行がおこなわれる。しかし、INDY500のレースデイには朝のウォームアップ走行などない。3周ほどのパレードラップの後、いきなりスタートが切られるのだ。しかも横3列編隊で。
このような、特殊で困難なレースに2度も勝利した佐藤琢磨選手の凄さはハンパない。
ついでに下世話な話をすると、INDY500で勝利すると、日本円で2億円以上の賞金を手にする。33位のビリでも2000万円以上の賞金がある。筆者も8位でフィニッシュした1996年には、約2500万円の賞金を手にした(もちろんチームとの分配をするが)。
まさにアメリカンドリーム。INDY500はハイリスク・ハイリターンの典型。ノーアタック、ノーチャンスなのだ。
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