庶民車になる? 時代が求める「自動運転と電動車」 需要は「安価&利便性」 ニーズと真逆の訳
「ユーザーは求めてない?」 それでもメーカーが開発を進める意図とは
ここである疑問が生じます。果たして、自動運転車や電動車は一般ユーザーが本当に求めているものなのでしょうか。
確かに、まったくハンドルを握ることなく目的地にたどり着いてくれるクルマや、有害物質を含んだ排気ガスを一切出さないクルマが、現実的な価格で提供されれば、ユーザーは間違いなくこれらのクルマを求めるでしょう。
ただ、現実的にいえば、まったくハンドルを握らずに運転できるクルマはほとんど存在せず、電動車(とくにEV)も航続距離や価格面でまだまだ従来型の内燃機関車にはおよびません。
もちろん、「アーリーアダプター」と呼ばれる、いわゆる新しもの好きのユーザーや、特定の用途に限ってクルマを利用するユーザーであれば、自動運転車や電動車(EV)は、現時点でも一定のニーズがあるといえるかもしれません。一方で、従来型のクルマを求めるユーザーが少なくないのも事実です。
顕著な例でいえば、機能が増えたり新しい機構が備わったりすることによる車体価格の上昇は、ユーザーへダイレクトに影響します。
かつて200万円あればかなりの選択肢があったものですが、現在では軽自動車やコンパクトカーのなかでもごく一部のモデルしか買えません。
インフレなどの影響もあるといわれますが、もっとも大きな要因は、エアバッグや衝突被害軽減ブレーキ(通称:自動ブレーキ)などが標準装備となったり、安全基準が厳格化されたことで車体コストが増したことなどが挙げられます。
もちろん、こうした流れによるメリットも少なくありませんが、クルマを日常の足として活用する地方部などでは、最先端の機能が満載のクルマよりも、最低限の機能でかまわないので安価なほうが良いというユーザーも少なくないでしょう。
このように考えると、自動運転車も電動車も、いま現在ユーザーが求めているクルマであるとは必ずしもいえないかもしれません。

では、なぜ自動車メーカーは、自動運転車や電動車に注力するのでしょうか。
自動運転車と電動車で細かな事情は異なりますが、どちらも共通していえるのが、潜在的にユーザーが求めているものといえ、言葉を換えれば、未来のユーザーが求めているクルマであるからでしょう。
前述のまったくハンドルを握ることなく目的地にたどり着いてくれるクルマや、有害物質を含んだ排気ガスを一切出さないクルマが、現実的な価格で提供されれば、大多数のユーザーは間違いなくそれを求めることでしょう。
当然、そこに達するまでは長い道のりを要します。しかし、そうした道のりがなければ、目標には到達できません。
もうひとついえるのは、自動車メーカーは顕在化したニーズのみならず、潜在化したニーズを掘り起こす必要があるからです。
1997年に初代プリウスが発売された時点で、「ハイブリッドカー」という顕在化したニーズがあったとはいえません。
しかし、その後ハイブリッドが自動車業界のトレンドとなり、先行者となったトヨタは一躍世界最大級の自動車メーカーへと登りつめました。
数十年単位で見れば、自動運転車も電動車も現在より確実に進化することは間違いありません。
そうした未来が現実となった際、業界をリードするためには、いまから動き出しておく必要があるのです。
※ ※ ※
自動運転車や電動車は、「現時点のユーザー」が本当に求めているものではないかもしれません。
しかし、「未来のユーザー」が求めるであろうことは疑いようがないのも事実です。自動車メーカーはそうした未来を見据える必要があるといえます。
もちろん、「現時点のユーザー」が無視されているわけではありません。
各メーカーからは依然として内燃機関車も多く販売されているほか、自動運転機能もオプションで選択できる場合がほとんどです。
メディアの報道から垣間見える「今後のトレンド」と、いま現在のユーザーニーズとは乖離があることが少なくありません。
センセーショナルな部分だけに踊らされることなく、どの時間軸での話なのかをしっかりと見極める必要があるといえます。
Writer: PeacockBlue K.K. 瓜生洋明
自動車系インターネット・メディア、大手IT企業、外資系出版社を経て、2017年にPeacock Blue K.K./株式会社ピーコックブルーを創業。グローバルな視点にもとづくビジネスコラムから人文科学の知識を活かしたオリジナルコラムまで、その守備範囲は多岐にわたる。














