なぜFCVを高級車にシフト? トヨタ新型「ミライ」 道半ばの電動車はどこまで身近な存在になれるか

電動化が急速に進められているなかで、2020年12月9日にトヨタは新型燃料電池車となる「MIRAI」をフルモデルチェンジしました。水素を燃料とするMIRAIが普及するための課題には、どのようなものがあるのでしょうか。

新型MIRAI登場で水素社会はどこまで身近になるのでしょうか。

 2020年12月9日、トヨタは新型燃料電池車(FCV)となる「MIRAI」を発売しました。
 
 2014年に世界に先駆け量産を開始した初代モデルの登場以降、現在までに日本や世界の水素社会はどのような変化を遂げたのでしょうか。

2代目となったトヨタ新型「MIRAI」は水素社会を実現するためのキーマン?
2代目となったトヨタ新型「MIRAI」は水素社会を実現するためのキーマン?

 最近では、世界各国で「脱ガソリン車/ディーゼル車(内燃機関)」の動きが活発化しており、欧州や中国、北米などでは2030年から2050年の間に内燃機関車の販売を禁止し、電動車(ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車)の販売のみに移行する方針が打ち出されています。

 さらに踏み込んだ国や地域では、内燃機関車とモーターを組み合わせたハイブリッド車やプラグインハイブリッド車も禁止にすると明言しているところも出ているほどです。

 クルマの電動化が進むなかで、グローバル市場において現在ふたつの戦略が並行して進められています。

 ひとつは、電気自動車を中心とするもので、基本的にどの国や地域にも平等にインフラ整備されていることから、今後のクルマのあり方として注目されています。

 電気自動車とその充電インフラに関しては、日産の電気自動車「リーフ」が2010年に登場後、日本や欧州などで普及活動が進められ、発売から10年経った2020年にはグローバル累計販売台数50万台を達成しています。

 さらに、日本の日産販売店ではリーフをきっかけに充電スポットの設置が進められ、現在ではSA/PAや商用施設などでも充電が可能です。

 日産によると、2020年8月時点で充電器設置数(急速/普通)は3万100基となり、充電場所としては約1万8500か所だといいます。

 一方で、ガソリンスタンドの給油所数は年々減少し、経済産業省資源エネルギー庁によると、2015年度末で1万5574か所だったのが2019年度末で1万3835か所に減少しているのです。

 もうひとつの戦略が、水素社会の実現です。これは、前述のMIRAIが属する燃料電池車とその燃料となる水素のインフラ整備を進めるものです。

 燃料電池車とは、燃料である水素と空気中の酸素を化学反応させて電気と熱を発生させるシステムで、その電気でモーターを回して走行します。

 利用時には水しか排出しない仕組みとなり、エネルギー効率はガソリン車の2倍以上を誇ります。

 しかし、この電気社会と水素社会にはそれぞれメリットとデメリットが存在。

 クルマ自体の航続距離では、ガソリン車が満タンで600kmから1000kmだったに対して、電気自動車は多くて500kmから600km、燃料電池車は850km(新型MIRAIの場合)となっています。

 また、1回の燃料補給(給油/充電/充填)にかかる時間は、ガソリン・軽油の給油が約5分、充電が30分(急速充電/80%MAX)、水素充填が約3分(新型MIRAIの場合)と、航続距離と燃料補給時間を考慮すると、電気自動車がやや劣勢です。

 しかし、それぞれの燃料補給インフラを整備するうえで肝心な設備設置には異なるハードルが存在します。

 ガソリンスタンドや充電スポット、水素ステーションを設置するには、消防法やそれぞれの規制が決められていることには変わりませんが、設置費用は大きくことなります。

 ガソリンスタンドの場合、約7000万円から8000万円、充電スポットの場合、販売店や駐車場など設置場所や普通/急速など条件が異なるものの、数十万円から1000万円となっています。

 一方で、水素ステーションに関しては従来のガソリンスタンドのような形式で1か所あたりの建設費用は5億円ほどかかるようです。

 日本における水素ステーションについて、ENEOS株式会社の水素事業推進部の担当者は次のように話します。

「ENEOSは、日本での水素ステーション展開として、2000年頃に実施されていた実証実験の頃から参画していました。

 実際に商用展開したのが2015年となり、2020年現在で全国47か所(うち3か所は建設中)を展開しており、ほかの30社ほどの事業者を含めて約160か所が点在しています。

 実は、日本の水素社会に向けた取り組みは、世界各国のなかでも早くおこなわれております。

 今後は、政府の『脱炭素社会の実現』の影響もあり、2030年までに全国で900か所を目指して水素ステーションを展開予定で、ENEOSでも年3か所の計画で建設予定です」

※ ※ ※

 こうした日本の水素社会実現に向けた取り組みがおこなわれているなかで、世界各国でも同様の取り組みを加速させています。

 欧州では、「2050年にCO2排出実質ゼロの目標」や「水素エネルギー戦略」を公表し、2030年までに水素を1000トン生産する目標を発表。さらに、中国政府も2020年から2030年までの4年間で総額200億元(日本円で約3183億円)の予算を計上し、燃料電池車の普及支援や水素ステーションの設置を進めることを明かしています。

 このような背景から、現在市販されている燃料電池車はMIRAIとホンダ「クラリティ フュエルセル」、ドイツのメルセデス・ベンツ「GLC F-CELL」、韓国のヒュンダイ「ネッソ」など、多くはありません。

 電気自動車は、各自動車メーカーが市販化を進めているなかで、今後水素社会の実現には、燃料電池車自体の普及と充填インフラの整備というふたつの要素が並行していかなければ難しいのが現状です。

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2件のコメント

  1. なぜFCVを高級車にシフト?
    そりゃあ開発&生産コストがかかる上に量産体制が以前より整ってきたとはいえ、
    プリウスの様に月何万台も量産は出来ないからトヨタとは言え赤字ギリギリの薄利多売は無理、
    高値で売らないと採算が合わないから
    ある程度高級車としての付加価値をつけてやらないと一般向けに売るのは難しいからね。
    テスラモーターズなどと同様のビジネスモデルでまずは売っていこうという事さ、
    それでも800万なら安いと見るべきかもね。
    これがミライではなくクラウンとでも名乗れたならば、
    水素社会も現実になったと言えるんじゃないかな。

  2. ぶっちゃけた話
    FCV自体はZEVどころかマイナスエミッションだとトヨタ新ミライはアピールしてるが、
    高圧水素精製方法自体色々あるが、
    主たる電気分解ではかなりの電力を必要として、
    現状ではその主な電力を火力で補う国内での精製ではCO2削減効果は限定的になってしまうかも…
    結局はBEV(バッテリー電気自動車)とどっちが効率よく運用出来るか?に掛かってくるのだろう。
    FCVは小型車では割に合わず米国で試験運用を始めた様に大型車の方が搭載運用の都合が良さそうですね、
    新型ミライがサイズアップして高級車路線にシフトしたのもその辺りのサイズ感あってのモノかも知れないね。

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