一見さんお断りのフェラーリ「スペチアーレ」 明暗分かれたモダン・フェラーリの価値
フェラーリには、選ばれしカスタマーにしか新車で手に入れることができない「スペチアーレ」が存在する。また、追加でオプション料金がかかるが、自分好みの仕様にできる「テーラーメイド」というプログラムもある。どちらも「特別」であることに違いないが、オークションでの評価はどうなのだろうか。
一見さんお断りのフェラーリ「スペチアーレ」モデル
毎年8月、北米カリフォルニア州モントレー半島で開催される「モントレー・カーウィーク」では、アメリカだけではなくヨーロッパのオークションハウスも、全社を挙げた大規模オークションを開くのが恒例となっている。
そんななか、規模・格式ともに最高ランクとなるのがRMサザビーズ社の「MONTELEY AUCTION」。ところが2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で「カーウィーク」ともどもキャンセル。代わりに「SHIFT MONTLEY」と銘打った、オンライン限定オークションを開催することになった。
オンライン限定とはいえ、RMサザビーズ社にとってもフラッグシップ的なイベントとなるモントレーの代替えということで、例年の「SHIFT MONTLEY」は出品車両の台数・内容ともにトップクラスとなったのは、これまでにもお伝えしてきたとおりである。
そんななか、今回VAGUEが注目したのは、またしてもフェラーリ。ともに現代のフェラーリ量産モデルのフラッグシップ「F12ベルリネッタ」から発展した2台、「F12tdf」と「812スーパーファスト」である。
F12シリーズの最後を飾ったスペチアーレと、今もなおフェラーリのシリーズ生産モデルの頂点に立つ12気筒ベルリネッタの持つ神通力は、たとえオンライン形式のオークションであっても健在なのだろうか。
●2017 フェラーリ「F12tdf」
フェラーリF12tdfは、2012年に登場した「F12ベルリネッタ」の最後を飾るべく、2015年末に発表。翌年から世界限定799台のみが作られた、いわゆる「スペチアーレ」のひとつである。
デビュー以前のスクープ情報などでは「F12スペチアーレ」ないしは「F12GTO」というネーミングになると噂されていたが、実際にはかつて隆盛を誇ったフランスの公道/サーキット併用レース「トゥール・ド・フランス(Tour de France)」にて、一連の250GTベルリネッタが大活躍した故事へのオマージュとして「F12tdf」と名づけられた。
V型12気筒エンジンは、ベースとなるF12ベルリネッタ比で40psアップとなる780psのパワーと、プラス1.5kgmとなる71.9kgmのトルクを発生する一方で、ボディはカーボン素材の多用などで110kgもの軽量化を達成。
ギアレシオを専用チューンした7速DCTとの組み合わせで、0-100km/h加速ではF12ベルリネッタより0.2秒速い2.9秒、最高速は340km/h超という、世界屈指のパフォーマンスを実現したとアピールされた。
またシャシでは「599XX」などのXXプログラムで培われたノウハウを投入。タイヤ幅を225から275に、リム幅を9.5インチから10インチに拡大したフロントタイヤ&ホイールの採用。「バーチャルショートホイールベース」と称される後輪操舵システムが、フェラーリでは初めて採用されたことによって、最大横加速度とハンドリングを大幅に向上させたといわれている。
この種のフェラーリ「スペチアーレ」は、正式発表される以前に「完売」となってしまうのが通例だ。長年フェラーリと良い関係を維持し、事前に正規ディーラーから入手を打診されるような「特別な優良顧客」以外は、正規の新車としては入手できないのが実情といわれている。
そのせいか、ユーズドカーとして市場に出る場合には、新車価格を大きく上回るフェラーリ製スペチアーレの通例どおり、F12tdfも昨年ごろまではもしマーケットでFor Saleとなれば、日本円にして1億円以上で取り引きされるのが、半ば当然となってきた。
しかし、新型コロナ禍による需要の冷え込みを想定してであろうか、今回「SHIFT MONTLEY」出品にあたってRMサザビーズが設定したエスティメート(推定落札価格)は80万ドル-95万ドル(邦貨換算約8450万円-1億円)という、いささか弱気にも見えるものであった。そしてネット上の競売は、75万ドルまで上がったところで締め切りとなった。
オークションハウス側に支払われる手数料まで込みにすれば、なんとかエスティメートに達する82万5000ドル(邦貨換算約8700万円)には到達したようだ。
しかし、ことモダン・フェラーリについては、もはや以前のマーケット感ではなくなりつつあることを示しているのでは? というのも、正直な感想なのである。
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