無冠の帝王スターリング・モスが愛したマセラティ3台とは?

モータースポーツ界の巨星スターリング・モスが、2020年4月12日にこの世を去った。無冠の帝王と呼ばれる英国の偉大な元F1パイロットは、実はマセラティとも深いつながりがあった。

マセラティ250Fで、スターリング・モスのF1人生は開花した!

 スターリング・モスは、1956年のモナコ・グランプリをマセラティのF1「250F」で初制覇するなど、マセラティとも関係が深い。マセラティの100周年を祝うイベントがイタリア・モデナのムゼオ・エンツォ・フェラーリで開催されたときには、マセラティの名車のなかでも特に次の3台を評価していた。

マセラティ250Fをはじめ、マセラティのレーシングカーで数々の勝利を収めたスターリング・モスは、現役引退後もマセラティのイベントなどでレジェンドとして姿を見せることが多かった
マセラティ250Fをはじめ、マセラティのレーシングカーで数々の勝利を収めたスターリング・モスは、現役引退後もマセラティのイベントなどでレジェンドとして姿を見せることが多かった

 ミュゼオ・エンツォ・フェラーリを訪れたスターリング・モスは、マセラティの名車を1台1台、事細かに説明したという。

「250Fは高速マシンとしてすべての動作においてドライバーを満足させたモデルだった。『300S』は素晴らしいバランスと並はずれた運転のしやすさを備えた1台。そしてこのふたつの特長を併せ持ったのが、『ティーポ61バードケージ』だ」

 スターリング・モスが認めたマセラティの3台の名車、250F、300S、ティーポ61バードゲージとは、いったいどのようなクルマで、モスとどのような関係があるのだろうか。

●マセラティ250F

マセラティ250F
マセラティ250F

 1954年、モスは自費で250Fを購入し、F1グランプリにプライベーターとして参戦した経緯も持つ。その後、マセラティのワークスチームへと昇格し、1956年にマセラティに復活したモスは、5月13日のモナコ・グランプリで、彼の生涯でもっとも美しい勝利のひとつを挙げた。

 このレースでモスに勝利をもたらした250Fは、シャーシナンバー2522のマシンで、彼がレースを終始リードし続けた上での初勝利だった。

 そして同年モンツァで行われたイタリア・グランプリにおいては、コリンズがファンジオのタイトルのために託したフェラーリを破り、モスが運転する250Fが勝利を収めた。

 こうした理由から、モスは250Fを非常に誇りに思っており、プライベートコレクションに長らく保管していたという。

●マセラティ300S

マセラティ300S
マセラティ300S

 エンジンは250Fの2.5リッター直列6気筒をボアアップして3リッター化したものが搭載されている。ブレーキも250Fのほぼ流用で、サスペンションは強化されたものが組み込まれている。リアアクスルは、ド・ディオンアクスル式が初採用されている。

 300Sは、モスが好きなマシンとして公言しており、1956年のニュルブルクリンク1000kmレースにおいては、300Sで優勝を飾っている。

●マセラティ・ティーポ61バードゲージ

マセラティ・ティーポ61バードゲージ ------------------------
マセラティ・ティーポ61バードゲージ ————————

 2.9リッターの直列4気筒エンジンを、軽量化と高剛性を両立したスペースフレームに搭載。パイプフレームはクロムモリブデン鋼が用いられ、まるで鳥かごのように複雑な構成だったために、バードゲージ(鳥かご)とも呼ばれる。

 独立したフロントサスペンションに、4輪ディスクブレーキ、5速トランスミッションを装備し、ド・ディオンアクスル式のリアアクスルが採用されている。

 1961年のニュルブルクリング1000kmレースでモスは、このティーポ61でモスは優勝を飾った。

* * *

 スターリング・モスは、1929年9月17日に英国ロンドンで生まれ、生涯をロンドンで過ごす。彼の父親アルフレッドE・モスは、1924年にインディアナポリス500を16位で終了し、妹のパットもいくつかのラリーに参戦をしていた。

 スターリング・モスのF1の経歴は、1951年から1961年にかけて66のグランプリに参戦し、うち16のレースで勝利を収めている。

 しかし、その強さをもってしても1955年、1956年、1957年、1958年と4年連続で2位の結果に終わっている。これが、モスが無冠の帝王と呼ばれるゆえんだ。

 また、彼はサーキットだけではなく公道レースにおいても伝説を残している。1955年のミッレミリアでは10時間7分48秒で制覇し、セブリング12時間、ツーリスト・トロフィー、タルガフローリオなど数々のレースを制している。

 1950年代から1960年代においては、英国の警官がスピード違反のクルマを止めた際に「スターリングモスにでもなったつもりか」というのが常套句になったり、映画『007 カジノロワイヤル』にもゲスト出演をするなど、国民的な人気を得た人物でもあった。

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