SUVやハッチバックにMTは必要? AT車全盛の時代にMT車が歓迎される理由
なぜシビックハッチバックのMT比率は30%に達する?
ホンダ「シビック」シリーズは、セダンとハッチバックに加え、高性能なタイプRを揃えています。セダンはCVTのみですが、ハッチバックはCVTと6速MT、タイプRは6速MTのみの設定です。
シビックハッチバックに6速MTが設定されたことについて、シビックの開発者は次のように述べました。
「シビックは幅広いお客さまのニーズに合わせたいと考えています。シビックのイメージリーダーは、スポーツモデルのタイプRですが、1.5リッターターボを搭載するハッチバックにも、6速MTを用意しました。
この6速MTは入念に開発され、シフトフィーリングも優れているので、開発チームも国内での販売を希望しました」
各メーカーの話を聞いていると、市場調査などの結果に基づいて、売れると判断して6速MTを設定したのではないようです。
「運転が楽しい」とか「6速MTの走りが良く仕上がったから日本のユーザーにも味わって欲しい」など、メーカーからの提案として用意されています。
マツダの場合も、6速MTの評価が意外に高かったので、設定車種をCX-5などに広げました。そのために6速MTの販売比率は、車種によってさまざまです。
マツダの場合、「ロードスター」のソフトトップでは70%前後に達しますが、CX-5や「アテンザ」は6%から10%です。
シビックハッチバックでは、6速MTが30%前後を占めています。6速MTの売れ行きは、搭載する車種の性格やイメージによって異なるようです。
シビックハッチバックについては、かつてのホンダはMT車を豊富に用意していたのに、近年になって激減したことが、MT車の人気を押し上げる原因として考えられるでしょう。
ホンダのスポーティカーが次々と減り、クルマ好きのホンダ車ユーザーも乗り替える車種に困っていたところで、シビックがタイミング良く発売されました。
そしてシビックハッチバックの6速MTが搭載するエンジンは、「ステップワゴン」などと同じ1.5リッターターボですが、チューニングは異なります。
プレミアムガソリンを使い、最高出力は182馬力(5500回転)、最大トルクは24.5kg-m(1900-5000回転)です。
ボディサイズと動力性能は、2002年に発売された7代目「アコードユーロR」あたりに近く、大人に成長したクルマ好きのユーザーには、ちょうど良いスペックだといえます。
シビックハッチバックの6速MT比率が際立って高い背景には、もともとスポーティカーが多かったというホンダの事情もあるわけです。
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過去を振り返ると、AT限定運転免許が1991年に創設され、増加傾向にあったAT車の販売をさらに促進させました。
いまでは普通運転免許を取得する人達の約60%がAT車限定ですから、MT車を運転できないドライバーが増えています。しかし見方を変えると、40%のドライバーはMT車を運転できます。
近年のクルマは、MT車の販売減少に過剰に反応して、選べる車種を減らし過ぎたようです。その結果、スポーツカーではない実用的なセダンやハッチバック、SUVにMTが設定されると、注目されるようになったのでしょう。
そう考えると、ヤリスやC-HRなどに6速MTを設定するトヨタの品ぞろえは、自然なことかも知れません。行き過ぎたMT車の廃止を補正したことになります。MTに限らず、クルマにとって選べる自由は大切です。
とくにSUVは、クルマ好きが注目しているカテゴリーなので、MTを欲しがるユーザーも少なくありません。
ダイハツ「ロッキー」とトヨタ「ライズ」の開発者は、「ロッキーを東京モーターショー2019に出展したら、多くのお客さまから『MTはないのか』と質問されました」とコメントしています。
ライズは2020年1月に1万台少々を登録して、国内で売られた小型/普通車の販売ランキング1位になりました。仮に5%のユーザーがMTを購入したとしても、1か月当たり500台に達します。MTを設定する価値があるかも知れません。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
散々にCVTの無断変速を推しておきながら今頃にMTの直結駆動とか・・・