なぜイタリア大統領の公用車はちょいエロ仕様? マセラティ「クアトロポルテ」の魅力を辿る

第3世代から大統領公用車に選ばれたクアトロポルテ

 現行クアトロポルテは第6世代ですが、いつ頃からイタリア大統領の公用車として使われるようになったのでしょうか。

アレッサンドロ・ペルティーニ大統領が座っていたのと同型のクアトロポルテの後席
アレッサンドロ・ペルティーニ大統領が座っていたのと同型のクアトロポルテの後席

 1979年12月14日に、第3世代のクアトロポルテが、アレッサンドロ・ペルティーニ大統領に贈られました。このとき、AT車とMT車の2台が贈られています。
 
 第3世代のクアトロポルテはジウジアーロによってデザインされました。この時期のマセラティはデ・トマソによって経営されていた時期であり、デ・トマソ経営下で最初となるオールニューのクルマでした。
 
 豪華で洗練されたインテリアが特徴で、V型8気筒エンジンを搭載し、4.2リッターの255馬力仕様と、4.9リッターの280馬力仕様のバリエーションがありました。最高速度は220km/hで、1979年から1990年までに2145台が販売されました。
 
 1982年、このクアトロポルテをベースに、大統領側からマセラティに大統領専用の装甲車を作るよう要請が入りました。
 
 アレッサンドロ・ペルティーニ大統領用にモデナが仕立てたクアトロポルテのボディカラーは、ダークアクアマリンで、内装はベージュのベルベット仕様です。
 
 ペルティーニ大統領用に、後部座席の間にはパイプホルダーを備えたアッシュトレイが設けられ、バーキャビネット、電話、車外の人との会話するためのインターホンなどが搭載されていました。
 
 キャビンは防弾仕様に装甲され、高強度のマンガン鋼メッキが施されていました。窓の厚さは31mmのポリカーボネート製です。
 
 パレードの際に大統領が群衆に向かって手を振って挨拶できるように、後部座席のルーフが開くように改造され、右フロントシートの背面には、直立した大統領が掴まれるように特別なハンドルバーが取り付けられています。
 
●大統領が来てもお出迎えしないエンツォ・フェラーリ

 1983年5月29日、この大統領専用クアトロポルテに乗って、アレッサンドロ・ペルティーニ大統領がマラネッロのフェラーリ本社を訪れた時のエピソードが残っています。
 
 大統領が乗ったクアトロポルテが、フェラーリ本社に到着したとき、通常ならホストであるエンツォ・フェラーリが大統領のクルマまで出迎えるのがマナーです。
 
 しかし、エンツォはクアトロポルテの手前10mのところで立ち止まって、高齢の大統領が自らクルマを降りて歩いてくるのを待ったのです。
 
 エンツォは、レースの世界で長きに渡って地元モデナのライバルであったマセラティのドアを、たとえ大統領のためであっても開きたくはなかったというわけです。フェラーリが4ドアのクルマを作ってさえいれば、このようなこともなかったかもしれません。
 
 また、この第3世代のクアトロポルテは、イタリアの有名なオペラ歌手であるルチアーノ・パヴァロッティの愛車であったことで知られています。ミラノのスカラ座の前でのクアトロポルテに乗った彼の写真は、とても有名な一葉です。

 1986年、このクアトロポルテに「ロイヤル」バージョンが追加されました。ソフトレザーをふんだんに使用し、ダッシュボードとドアパネルにウォールナットを奢ったインテリアのアップグレードが図られていました。当時としては珍しく、無線電話が装備されていました。エンジンは、300馬力の4.9リッターV型8気筒を搭載し、51台のみ生産されました。
 
※ ※ ※

 クアトロポルテよりも広い後部座席をもつリムジンなら、ドイツ車や英国車にも数多く存在します。

 しかし、エキゾーストノートやスタイリングにこだわり抜いた官能的なクアトロポルテを選ぶのは、自国愛だけでなくイタリアの伊達男の美学が貫かれているのかもしれません。

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