まるでフェラーリ!? 新型「コルベット」が脱FR化した理由とは

コルベットはマッスルカーではなかった!? 独自の進化をした理由

 コルベットは、アメ車の王道です。つまり、エンジンはV8で、そしてボディパッケージはFRが採用されていました。

米国でお披露目された新型「コルベット」
米国でお披露目された新型「コルベット」

 しかしコルベットは、GMシボレー「カマロ」、フォード「マスタング」、そしてダッジ「チャレンジャー」のような、マッスルカーではありません。マッスルカーとは、1960年代に大ブレイクした、V8 + FRのアメリカンスポーツカーの総称です。

 一方、コルベットの誕生時期は、各種マッスルカーより少し前です。しかも、コルベットの使命は『未来を予感させる最先端自動車』であり、マッスルカーのような大衆スポーツカーとは一線を介しています。

 走行性能だけを見れば、マッスルカーでもマスタングの「シェルビー」など、オフィシャルチューニングによってコルベットを上回る馬力、トルク、そして加速性能や最高速度を有するモデルも存在します。

 一方、コルベットはチューニングではなく、正規モデルラインアップとして、C7世代ではスーパーチャージャー + V8の「Z06」(650馬力)、さらにGM自社のレース活動からのフィードバック技術を量産車に注いだ「ZR1」(766馬力)といった、ハイパフォーマンスモデルを市場導入しています。

 高性能エンジンを搭載することによるブランド戦略として、コルベットはマッスルカーとは別の方式をとってきたのです。

 こういった文脈で見れば、コルベットは国産スーパースポーツカーの日産「GT-R」に近いイメージかもしれません。

 だとするならば、今回おこなわれたコルベットのミッドシップ化は、日本人にとって「GT-Rをミッドシップにしてしまうのか」という感覚なのです。現状ならば、GT-RファンはGT-Rのミッドシップ化を「許さない」でしょう。

 それをGMはコルベットでやってのけたのです。コルベットファンからブーイングが起こることは当然なはずです。  

 繰り返しますが、GMはなぜ、コルベットのミッドシップ化の道を選択したのでしょうか。

 そこにあるのは、100年に一度といわれる自動車産業の大変革です。自動運転、EV、コネクテッドカー、そしてライドシェアリングなどの影響による「所有から共有」の流れなど、世の中におけるクルマの在り方が大きく変わってきています。

 こうした大きな時代変化の中、コルベットは開発の初心である『未来を創造する最先端を具現化すること』に重点を置き、よりハイパフォーマンスを目指すことをGMは決断したのです。

 ドイツ・ニュルブルクリンクなどの過酷な走行状況で、欧州の最先端スポーツカーと互角に戦うためには、「ミッドシップ化が必然」だったのです。

 もちろん、GMエンジニアのなかでも「FRはコルベットのヘリテージ(伝統)だ」として、C8でもFR固辞という意見があったことは疑う余地がありません。

 それでもなお、GM上層部は「コルベットのミッドシップ化は、世界に向けてGMがいま大きく変わろうとしていることの証明である」という強い意思が優先したといえます。

 コルベットがコルベットであるには、性能の高さにしてはリーズナブルな価格設定という点も重要ということで、C8もC7までと同じ路線を敷いています。

 今回の発表では、ベースモデルの価格は北米現地価格で6万ドル(約650万円)以下としています。

 見た目や走行性能がフェラーリ級でも、価格はフェラーリの半分以下。これがコルベットの真骨頂なのです。

生まれ変わった新型コルベットの詳細を画像でチェック(37枚)

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。

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