なぜ軽は「64馬力」規制が残るのか 280馬力規制撤廃の普通車と違う理由とは

クルマ業界にはかつて普通車の「280馬力規制」という自主規制が存在しました。時は1980年代、国内の自動車メーカーは熾烈なスペック競争を抑止する意味もある規制が始まり、現在では撤廃されています。しかし、軽自動車の「64馬力規制」は今なお残っています。なぜ、未だに自主規制として残っているのでしょうか。

「280馬力規制」撤廃の普通車、今ではGT-R等は500馬力超で世界と戦う

 最近のクルマ業界では忘れられかけている「自動車の馬力自主規制」という言葉。よくに若年層には聞き慣れないフレーズかも知れません。

 この「自動車の馬力自主規制」とは、かつて国内自動車メーカーが正規販売するクルマに対して、エンジンの出力(馬力)を一定数以上出さないと自主的に定めた規制のことです。

 クルマ業界には、普通車の「280馬力規制」と軽自動車の「64馬力規制」という2つが存在。なぜ、このような自主規制をすることになったのでしょうか。

熾烈な馬力競争に歯止めをかけた「280馬力規制」と「64馬力規制」

 1980年代当初に自動車メーカー各社が、自社モデルのスペック(馬力)数値をいかに高くするかで競っていたことがきっかけになります。当時は、スペック数値が高いほど“良いクルマ”というイメージをユーザーに印象付けるPR戦略があったからです。

 その熾烈な馬力競争に歯止めをかけた要因には、交通事故による死傷者数増加という問題がありました。そこで、政府は「交通事故非常事態宣言」を発令し、日本自動車工業会(以下:自工会)などの関係各所に対応策を出すように通達。

 それに輪をかけるように運輸省(現:国土交通省)は、自工会に「馬力規制」を迫ります。増加傾向にある交通事故を理由に自動車メーカー各社や関連団体は自主規制を受け入れます。

 規制導入の際に、「280馬力」となった理由は、当時市販されていたクルマの中で最高出力を誇っていた日産「フェアレディZ(Z32型)」が280馬力だったからです。市販車よりも低い規制値となると開発段階中のクルマなどにも影響が大きいという配慮もありました。

 その後、発売される日産「スカイライン GT-R(R32型)」やトヨタ「スープラ(A70型)」、ホンダ「NSX(NA型)」、三菱「GTO」など国産スポーツカーの代名詞と言われるクルマ達は軒並み280馬力を上限とした馬力数値です。

 しばらくは「280馬力規制時代」は続き、世の中のユーザーニーズでも「ミニバン」や「SUV」などという今でも人気なジャンルの人気も出始めたこともあり、規制があっても大きな問題にはなりませんでした。

 しかし、世界のクルマ業界では、技術革新とともに馬力も上がってく方向にシフトしていきます。国産自動車メーカーも海外での商品力強化や国内産業のガラパゴス化を防ぐなどさまざま理由で、2004年に自主規制を撤廃することになります。

 その後、国内メーカーの販売するモデルは徐々に馬力を上げてきます。日産「GT-R(R35型)」は570馬力、ホンダ「NSX(NC型)」507馬力、トヨタ「センチュリー(UWG60型)」381馬力、日産「フーガ(Y51型)」333馬力などスポーツカーはもちろんのこと、セダンタイプでも軒並み高出力化へと進化させています。

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