トヨタの“次期型”「GR86」登場!? 新開発の「2.0L直4」搭載で200馬力超え? 公開開発中のFRライトウェイトスポーツカー試作モデルが激変…どんな車になったのか
岡山国際サーキットで開催されたスーパー耐久シリーズ第6戦にて、トヨタが開発を進める次世代FRライトウェイトスポーツ「GR86 Future FR concept」が登場しました。これまでのアップデートから一転、骨格やパッケージングをゼロから見直した“完全新作”のテストカーとなっていました。本気すぎるプロジェクトの全貌と、開発陣の熱い想いに迫ります。
次世代FRスポーツ「GR86 Future FR concept」現る
2026年10月24日から25日にかけてスーパー耐久シリーズ(S耐)第6戦が開催された岡山国際サーキット。今回のパドックで世間の注目を一身に集めていたのは、モリゾウこと豊田章男氏自らステアリングを握り参戦したクーペボディを身にまとったミドシップ4WD開発車両「GRヤリス“風”Mコンセプト」でした。
しかし、実はその隣のピットに、とんでもないサプライズが潜んでいました。一見すると見慣れたGR86の姿をしていますが、その中身は全くの別物。
これこそ、トヨタが開発中の次世代FRライトウェイトスポーツのテストカー「GR86 Future FR concept」の最新バージョンです。ちなみに豊田章男氏はこのクルマのことを「大嶋選手の自由研究」と笑いながら教えてくれました。

そもそも、このプロジェクトは次期GR86を「公開開発」と銘打って2022年から進められているものです。エンジンを市販モデルの水平対向4気筒2.4L-NAから直列3気筒1.6Lターボに換装、加えて市販車のシャシーに手を加えながらアップデートを重ねてきました。
しかし、今回岡山に持ち込まれたマシンは、そうしたこれまでの延長線上のアプローチとは完全に一線を画しています。
この意欲作はいったい何を目指し、どこへ向かおうとしているのか。現場で開発の陣頭指揮を執る藤原裕也氏に、その進化の核心についてじっくりとお話を伺いました。
完全新作へ舵を切ったパッケージングと極限のフロントミッドシップ
ボンネットを開けてフロントセクションを覗き込むと、直列4気筒エンジンが搭載されています。GRヤリス“風”Mコンセプトに搭載されるG20Eを縦置きにレイアウトし、さらにNA(自然吸気)化されています。
搭載位置を見て更に驚かされました。直列3気筒ターボ時代よりもバルクヘッド側、極限のフロントミッドシップへと引き込まれて搭載されていることがわかります。ちなみにオイルパンを極めてフラットな形状に仕立てることで、エンジンはドライサンプに頼らずとも搭載位置を極限まで下げており、フロア下は強固なカーボン製アンダーカバーでフルフラット化されています。
足まわりに目を移すと、フロントは見慣れたストラットではなくシレっと新開発のダブルウィッシュボーンに変更されています。リアは形式こそ同じダブルウィッシュボーンですがジオメトリーから構造そのものまで完全に新規設計された全くの別物です。
これまでのマシンとの違いについて、藤原氏は次のように振り返ってくれました。
「2022年に参戦を開始し、2024年にもマシンを刷新しましたが、あの段階で見ていたのはあくまで『現行GR86の進化版・延長線上』でした。しかし今回はそこを一度すべて忘れ、『ライトウェイトスポーツカーとして、本当に作りたいクルマ、どうあるべきなのか?』という原点に立ち返り、ゼロから考え直して形にしました」
これまでは市販ボディの制約の中で辻褄を合わせる、いわば“魔改造”の領域でした。しかし今回は、理想とするFRスポーツの原理原則に則り、骨格やパッケージングからすべてを見直した完全な新作へと舵を切ったのです。
新開発2.0L-NAエンジンが秘めるポテンシャル
ここで注目したいのが、やはり新開発の「直列4気筒2.0L-NA」というエンジンです。 現場では「最高出力は200ps前後」という控えめなコメントも聞かれましたが、徹底した軽量設計が施された車体と、予選で見せたラップタイムの鋭さから推測すると、実力値としては少なくとも220ps前後、あるいはそれ以上のポテンシャルを秘めているはずです。
トヨタの歴史を振り返れば、かつて「アルテッツァ」に搭載された名機「3S-GE(BEAMS)」は、2.0L-NAで最高出力210psを7600rpmで発生し、レブリミットは7800rpm(MT仕様)までストレスなく吹き上がりました。
現代の最新燃焼技術やシリンダーヘッド構造、フリクション低減技術を投入して新たに開発された高回転型スポーツエンジンであるならば、7800rpmを遥かに超える高回転域まで淀みなく回り切るユニットであることは間違いないと考えるのが自然でしょう。
ターボの分厚いトルクに頼るのではなく、NAならではの超レスポンスと高回転域の伸び、そして軽量化によって、コーナー進入からクリッピング、立ち上がりにかけてのシャープな回頭性を研ぎ澄ます。まさに「ドライバーの官能を刺激するスポーツカー」の黄金比を追求した選択だと言えます。
プロ絶賛の仕上がりがもたらした、エンジニアへの「新たな宿題」
このゼロベースのクルマづくりに対し、開発を担当する大嶋和也選手をはじめとするドライバー陣からの評価はすこぶる高く、「非常に乗りやすい」とのことです。
しかし、藤原氏は手放しで喜ぶというよりも、技術者として新たな探究心に火がついたような表情を浮かべていました。
「正直なところ、ちょっとどころじゃなく意外だったんです。ここまでプロに『良い』と言っていただける理由、その“レシピ”がまだ完全に因数分解できていません。ボディもシャシーもパワートレーンも自由に設計させてもらいましたが、当初の机上計算や想定とは少しズレたセッティングの領域でも、大嶋選手が『乗りやすい』と高く評価してくれている。『なぜこんなに良いんだろう?』という嬉しい悲鳴であり、新たな宿題ができた状態です(笑)」
以前はドライバーの「乗りにくい」というコメントに対し、良かれと思って対策を施すとさらに悪化してしまうような手探りのトライ&エラーもありました。
しかし現在では、ドライバーのインプレッションとエンジニアが目指す方向の精度が、1対1でピタリと噛み合うようになってきたと言います。
「自分たちがまだ気づいていなかった領域に、ポッとスイートスポットが埋まっていました。今回の岡山で、その引き出しをひとしきり開けることができましたので、ここからはその引き出しの中身を精査し、狙ってその良さを再現・進化させるフェーズに入ります」
「頂上が見えた」市販化を見据えて加速する次世代FRスポーツの未来
今回のレースウィークを経て、開発陣には大きな変化が生まれています。それは「目指すべきゴールの頂上がうっすらと見えてきた」という確信です。
「骨格やパッケージのベースとなる固定値が定まり、この進んでいる方向が間違っていないと分かりました。今までは毎戦アップデートに追われるアジャイルな開発でしたが、ここからは一品料理のレース専用車で終わらせず、将来の量産化やお客様への展開を見据えて、腰を据えて着実に階段を上る開発へシフトします」
FRらしいロングノーズ・ショートデッキのプロポーションを突き詰め、オーバーハングをさらに切り詰めたり、空力性能を煮詰めたりと、ディメンションやデザインの面でも「あえてまだやり切っていない伸び代」は山ほど残されているそうです。
最後に藤原氏はエンジニアとしての熱い本音を語ってくださいました。
「頂上が見えたからこそ、これを何としてもお客様に届けたい。ドライバーがここまで『良い』と言ってくれるクルマを市販化して、一般のお客様にも乗ってもらいたいですし、何より僕自身も乗りたい。その想いはますます強くなっています」
筆者(山本シンヤ)は思わず「開発陣とプロドライバーだけで独占して楽しんでいるのはズルいですよ」と突っ込んでしまいましたが、藤原氏をはじめとするチームの表情には、確かな手応えと今まで以上に未来への強い意志がみなぎっているように感じました。
軽量コンパクトな車体、フロントミッドシップに搭載された超高回転2.0L-NAエンジン、そして意のままに操れる足まわり。「GR86 Future FR concept」が岡山で見せた走りは、次世代のライトウェイトFRスポーツが単なる夢物語ではなく、市販化を見据えた現実のプロジェクトとして力強く動き出した証拠だと確信できます。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

















































