“6年ぶり全面刷新”の日産「新型キックス」! “まるで「ポルシェ」のよう⁉“な一面も? 激変した「新モデル」どんなクルマに仕上がっているのか

2026年6月18日、日産は6年ぶりの全面刷新を果たしたコンパクトSUV新型「キックス」を発売しました。どのような仕上がりなのでしょうか。山本シンヤ氏が試乗し、レポートします。

「まるでポルシェ『911』のよう!?」な一面も?

 日産のコンパクトSUV「キックス」は、2016年のブラジル・リオデジャネイロオリンピックのグローバルモデル発表に合わせて登場し、大会のオフィシャルカーとしても活躍しました。当初はガソリン車のみの海外専用車でしたが、2020年に「e-POWER専用モデル」という大胆なキャラクター設定で日本市場へ導入。

 合理化でラインナップが整理されていく中、日産のなかでも「数を売れるモデル」として国内のビジネスを支えてきました。

“6年ぶり全面刷新”の日産「新型キックス」
“6年ぶり全面刷新”の日産「新型キックス」

 あれから6年、日産は新体制のもとで再建の道を歩んでいます。筆者(山本シンヤ)は「クルマ屋はクルマで勝負すべき」と考えていますが、この新型キックスは、ズバリ日産再建の命運を握る「コアモデル(中核車種)」として、非常に重要な役割を担う一台です。

 そのため、今回は単なるフルモデルチェンジの域を超え、スタイリングからプラットフォーム、パワートレインにいたるまで“劇的”な進化を遂げています。

 エクステリアは「タフ&アジャイル(強靭さと軽快さ)」をコンセプトに刷新されました。アメリカンフットボールのヘルメットからインスピレーションを得たフロントマスクや、「スニーカー」のような軽快さと気軽さ、そして日産伝統の本格SUVが背負っていた「スペアタイヤカバー」へのオマージュなどが随所に織り込まれたデザインです。

 ただ、個人的には「スニーカー」をモチーフにするのであれば、豊富に用意されたカラーバリエーション(現状は渋めのモノが多い)において、もっとビビッドで思い切った“攻め”の選択肢があっても良かったと感じています。

全体の質感は先代から大きく向上
全体の質感は先代から大きく向上

 インテリアは、インパネ周りを水平・垂直にまっすぐ芯の通った「大黒柱」のような構造にすることで、SUVらしい守られている安心感を演出。加えて、大型ディスプレイを2枚並べた統合型インターフェース(モノリス)が先進性をアピールしています。

 全体の質感は先代から大きく向上しており、加飾やソフトマテリアル(合皮やファブリック素材)の使い方は、思わず「上級車の『エクストレイル』も頑張れよ!」と思ってしまうほど秀逸です。「G」グレードは大人も納得の質感、「X」グレードはカジュアルながらも仕立ての良さを感じさせます。

 しかし、細部にはコストダウンによる“がっかり感”も……。「G」には新デザインの静電式タッチパネル(指紋汚れは少々気になりますが)が採用されているのに対し、売れ筋の「X」は従来型や旧型セレナから流用されたコントロールパネルのまま。せっかくのモダンなデザインがチグハグになってしまっているのは、何とも惜しい部分です。

 シートは快適性を高める「ゼログラビティーシート」を前後に採用。実際に座ると、最新の日産車の中では最も柔らかいクッション感でありながら、しっかりと芯のある座り心地に仕上がっています。

 さらに、ホイールベースの拡大によって後席の居住性が引き上げられ、ラゲッジルームも開口部が広がったことで利便性が向上しています。

ハードウェア・制御ともに劇的な進化を遂げた「第3世代e-POWER」を日本初投入
ハードウェア・制御ともに劇的な進化を遂げた「第3世代e-POWER」を日本初投入

 メカニズムはどうか。先代は古い骨格(Vプラットフォーム)にe-POWERを搭載するという制約が多い中で最新のライバルと戦っていましたが、新型は現在の日産が持つ最新の“アイテム”をフル搭載しています。

 パワートレインは、日産が「100%モーター駆動」にこだわり熟成させてきたe-POWERですが、新型にはハードウェア・制御ともに劇的な進化を遂げた「第3世代」を日本初投入。

 フロントモーターの出力向上(136ps/280Nmから143ps/315Nmへ)による動力性能アップはもちろんですが、最大のトピックは「5-in-1構造」の採用です。

 これはモーター、発電機、インバーター、減速機、増速機の5つの主要部品をひとつのコンパクトなモジュールに一体化したものです。その強みは大きく2点あり、「軽量・コンパクト化による車両パッケージングの自由度向上」と「ユニット剛性アップによる微振動のシャットアウト(静粛性の向上)」をもたらしています。

 組み合わせるエンジンは、セレナから採用されている発電特化型の1.4リッター直列3気筒(HR14DDe)です。

 エンジンが最も効率よく燃焼し、排ガスがクリーンになるピンポイントの回転数だけを使って賢く発電。これにより、先代より出力を向上(98ps/115Nm)させながらも、燃費は先代比で約11%向上(FF:WLTCモードで25.7km/L)しています。

 また、新型にもリアに独立したモーターを搭載する電動4WDが設定されていますが、出力向上(68ps/100Nmから68ps/140Nmへ)に加え、システム自体が「e-4ORCE」へとバージョンアップ。

 前後高出力モーターと4輪のブレーキをミリ秒単位で統合制御するこの技術は、悪路走破性だけでなく、日常の走りの質を劇的に高める武器となっています。

 フットワークの面では、基本骨格をコンパクトカー用の最新アーキテクチャ「CMF-Bプラットフォーム」に刷新。ボディ剛性(+20%)、サスペンション横剛性(+20%)、ステアリングシステム剛性(+60%)と、基礎体力が大幅に向上しています。

 これに合わせて、車速に応じた綿密なEPS(電動パワーステアリング)制御や高性能ショックアブソーバーを採用することで、全体的に骨太でどっしりとした、ワンクラス上の上質な乗り味を実現しています。

 なお、タイヤはX系が17インチ(215/60R17)、Gにはクラス最大級となる19インチ(225/45R19)が奢られています。

言葉を濁さずに言えば「先代とは別物」
言葉を濁さずに言えば「先代とは別物」

 今回は東京都内の一般道と高速道路(首都高速)を中心に試乗を行いましたが、言葉を濁さずに言えば「先代とは別物」であり、「同じ名前を名乗っていいのか?」と思ってしまうほどの仕上がりでした。

 走り始めてすぐに体感できるのが、パワートレイン全体の圧倒的な洗練度です。新型の第3世代e-POWERは、力強さやEV走行時の粘り強さはもちろんですが、ポイントはそれだけではありません。

 1つは「静粛性の高さ」です。普通に乗っている限り、エンジンが始動した瞬間はほぼ気になりません。これは、ロードノイズや周囲の騒音レベルを検知・予測してエンジンを始動させる「ステルス始動」が効いているためです。

 エンジンが回り始めても、遠くで“ささやいている”かのような静けさ。5-in-1構造や巧みなエンジン制御に加え、入念な防音対策が功を奏しています。

 もう1つは、発電走行時におけるアクセル開度に対する加速の「粒の揃い方」と「ダイレクト感」です。

 先代は、アクセルを強く踏み込むとモーター特有の力強さは感じるものの、その後からエンジンが「ブワーン」と遅れて唸りを上げ、興ざめすることがありました。しかし新型は、モーターと同期するかのように、エンジンの回転数が静かに、かつスマートに上昇します。

 e-POWERではエンジンは黒子ですが、この加速のシンクロ感は追い越し加速などのシーンで真価を発揮します。アクセルを全開にしない限り、ほぼ全領域で滑らかかつ力強い伸びを維持してくれます。

 ただしその一方で、パワートレインが静かになったぶん、路面から伝わる「ロードノイズ」が“相対的”に目立ってしまっているのも事実です。特に「G」の19インチタイヤは荒れたアスファルトで耳につきやすく、もう1ランク静かなタイヤを履かせたくなります。このあたりの静粛性対策はイタチごっこではありますが、今後の改善に期待したい所です。

 ドライブモードは3種類(e-4ORCEは4種類)用意されていますが、日常域では「ECO」モードで十分なほど力強く、「STANDARD」の存在意義が薄れてしまうくらいです。逆に「SPORT」は、レスポンスと瞬発力重視で「ちょっとやりすぎでは?」と思うほど加速が鋭い、確信犯的なモードです。

 なお、新型からはアクセルオフで強い減速を生み出す「e-ペダルステップ(ワンペダル走行機能)」がドライブモード連動式に変更されました。使用頻度を考慮した上での決断だと思いますが、この仕様変更は好みが分かれるかもしれません。

まるでポルシェ「911」のよう!?
まるでポルシェ「911」のよう!?

 フットワークはどうか。まずは19インチを履くFFの「G」に試乗です。操舵時の応答性の高さと、滑らかな車両挙動を活かした連続性のあるハンドリングは、奇をてらわない直球勝負のセッティング。

 日常域ではSUVというよりも「目線の高い『ノート』」のようなキビキビとした走りを見せる一方で、高速道路ではエクストレイル顔負けの優れた直進安定性と落ち着きを見せます。

 走行シーンによって様々な顔を見せるバランスの良さは、まさに「技術の日産」の本領発揮といった所。

 乗り心地に関しては、街乗り領域(低速域)では縦バネの強さが印象的でコツコツとした入力を伝えますが、60km/hあたりを境にしなやかさと、しっとり感が増し、高速域では抜群のフラットライド感を提供してくれます。

 続いて17インチを履く「X」の4WDモデル(e-4ORCE)に乗り換えます。19インチを履くGに対して、こちらはタイヤの差もあってか、薄皮を1〜2枚挟んだような穏やかなステア特性です。しかしFFモデルと比べるとより落ち着きがあり、4輪がどっしりと大地を掴む感覚が強まります。

 コーナリング時のノーズの入りの良さやライントレース性は、かつての「ジューク」に採用されていた「トルクベクタリング4WD」をよりスムーズかつシームレスにした印象で、ハンドルを切った通りに気持ちよく曲がってくれます。

 さらに加減速時のピッチングの少なさや、フラットな姿勢のまま減速するブレーキング姿勢(まるでポルシェ「911」のよう!?)など、e-4ORCEの効果は「走る・曲がる・止まる」のすべてにおいて絶大です。

 日常域でこれほどの恩恵を感じられるため、ワインディングなどではより楽しく走れるはずです。ただ、重量増の影響からか、FFモデルと比べるとアクセル開度は相対的に多めになる傾向があります。

 乗り心地は、日常の低速域では入力を優しく受け止めるマイルドさを持っています。しかし、60km/hを超えるとやや落ち着きを欠く印象があり、細かな凹凸が連続する路面で振動の収束が今ひとつだったのは気になりました(これは19インチ車では見られなかった現象です)。

 19インチと17インチの印象を踏まえると、その中間となる「18インチ」の乗り味を試してみたくなります。

 細かなロードノイズの処理やグレード間の質感差など、一部に課題はありますが、総じて言えば先代から「車格(クラス)が変わったのではないか?」と思ってしまうほどの進化を遂げています。日産再建を背負う、まさに「失敗の許されないコアモデル」にふさわしい見事な仕上がりです。

 FFモデルは日常の常用域において、少ないアクセル開度でスイスイと走れる軽快さが魅力です。一方のe-4ORCEは、何気ない交差点を曲がる瞬間や信号で停止する瞬間にも“心地よさ”があるため、非積雪地域の方でも積極的に選ぶ価値が十分にあります。

 ただ、個人的に気になるのは商品コンセプトが「あらゆるシーンで活躍するRobust(堅牢)&Versatile(多用途)SUV」と欲張りな“てんこ盛り”状態であるため、ユーザーから見たときに「このクルマの最大の武器(一丁目一番地)は何なのか?」というキャラクターが見えづらくなっている点は、今後のマーケティングの課題かもしれません。

 個人的には、ボディカラーやグレードによってキャラクターがガラリと化ける「エイジレス」な魅力こそがストロングポイントだと考えています。そう考えると、よりタフな世界観を持つ「ロッククリーク(今冬発売と公言済み)」や、走りを極めた「NISMO(公式アナウンスは未定)」といった、さらなる選択肢の登場も期待した所です。

 価格はスターティングプライスが300万円を切る「299.97万円」からとなっています。

「X シンプルパッケージ」という戦略的な価格設定は、ディーラーへ足を運ぶ良いきっかけになりそうです。

 ただし、どのグレードもセットオプションを足していくとそれなりの金額になってしまうため、購入時の見積もりには注意が必要です。とはいえ、内外装のデザインや質感、そして走りの実力を総合して考えれば、十分に戦略的でコストパフォーマンスに優れた1台と言えるでしょう。

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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日産 キックス
イメージ画像

中古車価格(税込)

107万円〜349万円

新車価格(税込)

308万円〜348万円

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