ニュルでの勝利が市販車を鍛える SUBARU高津総監督が語る「安心と愉しさ」の開発哲学【PR】
2026年のニュルブルクリンク24時間レースで8度目のクラス優勝を果たしたSUBARU/STI。過酷なニュルでの戦いは、どのように市販車開発へフィードバックされているのか。WRX等の開発も手掛けてきた高津益夫総監督の言葉から、SUBARUが追求する「安心と愉しさ」を生み出すクルマ作りの真髄に迫る。
ニュルから市販車へ 高津総監督の開発哲学
SUBARU/STIは、2026年5月に開催されたニュルブルクリンク24時間レースで、通算8度目のクラス優勝を飾った。
参戦マシンは市販車両をレース用に改造したWRXで、クラスを超えGT4規格で作られたレース専用車と戦っている。
SUBARU/STIは、市販車を改造していく過程で得られた多くの知見を、量産車へのフィードバックやSTIパーツへの展開、そして人材育成へと繋げている。
こうした背景の中、今年チームの総監督に就任した高津益夫が考える、ニュルへの挑戦はどういう位置付けなのか。

高津はSUBARUに在籍していた時代、市販車WRX(VA型)の開発でPGM(開発責任者)を務めており、チームは彼が生み出したWRXの後継型(VB型)をベースにニュルに参戦している。
そこで開発されたNBRマシンはトライ&エラーを繰り返しながら、多くのノウハウを積み重ねた。
さらにコンプリートカーのS210も高津が手がけ、市販車、コンプリートカー、そしてレースカーの全領域で高津が携わっているわけだ。
もちろん、そこから得たノウハウや知見は、SUBARUの他モデルへフィードバックされ、STIオリジナルパーツへと展開されているのは言うまでもない。
SUBARUの市販車両のどのモデルに乗っても、運転がしやすく思い通りに動く感覚を持つ人は多いと思う。
それはSUBARU車全体に共通する開発思想があり、その起点となっている活動のひとつがニュルブルクリンク24時間レースなのだ。高津は次のように言う。
「あのオールドコース、ノルドシュライフェはかなり一般道に近い環境ですよね。
他のサーキットのようにザラザラしたグリップの高い路面ではなく、そしてエスケープゾーンがなく、すぐガードレールといった一般道のようなコースです。
そしてアップダウンもあるし、天気の変わり方も一般道で遭遇するものですよね。
そこをレーシングスピードで安定して、安全に走れるクルマが求められるわけで、だからそこで開発することが重要なんです」
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では、どのような開発のベクトルなのか。
SUBARUのクルマ作りにも結びつく考え方を紐解くと、自動車のボディ骨格は、多数のプレス成形部品や押出材を溶接・接着・ボルト留めなどで組み合わせて作られている。
そしてフロントタイヤで舵を取り、リヤタイヤまでその方向転換を伝えていくわけだが、その入力エネルギーの伝達がキーになる。
ハンドルを切った瞬間にリヤタイヤまで伝われば、すぐさま旋回体勢に入れるが、ボディ骨格にはその伝達を鈍くする要素が存在し、応答遅れが必ず起きている。その遅れをどれくらい少なくするか、これがまずひとつのキーになる。
一般的にはボディやサスペンションを硬くしていく。すると応答ゲインは高くなるものの敏感になり、扱いにくくなってしまう。簡単に言えば、ステアした量より大きく車両が反応してしまうことだ。
それでは思ったようには走れない。そこで、適度なしなやかさが必要になるが、それがふたつめのキー。
STIのパーツにはフレキシブルドロースティフナーというパフォーマンスパーツがあるが、これは入力エネルギーをコントロールするパーツなのだ。
前述のように車体には部材の接合点が多数あり、そこが入力エネルギー伝達の屈曲点になる。入力エネルギーは線形を描く必要があり、その屈曲点をなくすことが求められるわけだ。
そのため、フレキシブルドロースティフナーを使ってプリロードをかけることで、屈曲点が減り、線形を描くようになるという理論だ。
プリロードは骨格のガタつきやたわみを取り除くために、外力が加わった時に入力エネルギーが素直かつダイレクト(線形)に伝達されるように、あらかじめ与えておく初期の荷重・張力のことだ。
そしてプリロードをかけることで、鋼板ボディ骨格が持つしなやかさを維持しつつヒステリシスを低減する効果があるというわけだ。
ヒステリシスとは、加圧時に鋼板が変形し、減圧時に同じ経路で戻らず変化してしまう現象のこと。プリロードをかけることでこの変形を防げるというのが、その理屈である。これが乗りやすいクルマづくりにつながるというわけ。
高津は「応答遅れがあって、そこから急に動き出すと人はクイックに感じます。しかしステアリングの切り始めから素直に動けば穏やかにも感じるんです」という。同じゲインだとしても感じ方が違うというのがキーだ。
この開発思考をベースにNBRマシンの開発は継続されており、WRXはニュルへの挑戦でこれまで一度もスピンをしたことがないレースカーにまで成長しているのだ。
だからNBRマシンや市販車は、誰が乗っても速く走れて、安心して走れる、そして楽しい、というクルマになる。

さて、ここまではボディ骨格の作り方だったが、高津はサスペンションにおいてもNBRマシンからのフィードバックは多いという。
高津は「ダンパーの減衰力ですけど、レースカーの伸び側と縮み側のバランスをコンプリートカーのダンパー設定の参考にしています。たとえば北米で販売したS209やS210ですけど、あのサスペンションはNBRのデータをベースにしてスペックを決めました」という。
他にも、わかりやすいところで、前後リムの形状を変えてハンドル切り始めのタイヤ接地面形状を最適化したホイールを開発している。これは内輪を積極的に使う発想から誕生したホイールだが、その効果が確認され、STIフレキシブルパフォーマンスホイールとして「WRX S4 STI Sport #」「S210」に装着され500台限定で発売されているのだ。
高津は空力にも注力しており、NBRマシンの空力設計から生まれた理論をパフォーマンスパーツやS210にも投入している。直近ではボンネットフードに取り付ける「フードガーニ」がある。
「フロントウインドウ手前のフードエンドに装着しますと、ボンネットからフロントウインドウに当たる空気の流れが整流できます。
そうすることで、空気の流れがワイパーアームやブレードで乱され難くなり車体に与える振動が穏やかになり、その結果として操縦安定性が向上します」
またフェンダーアーチの折り返し加工も同様で、ボディサイドに流れる空気を外よりに向けることで、タイヤハウス内の圧力を下げる効果があるという。
こうしたレースカーの空力理論が生かされS210のフェンダーは折り返された形状になっているというわけだ。
こうしたノウハウの投入は、高津が冒頭話したように「ノルドシュライフェで開発することで、誰もが安全で、安心して、そして楽しく走れるクルマが提供できるんです」と、ここにつながってくるわけだ。
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じつは、今年のニュルブルクリンク24時間レースで優勝した翌日、高津はこんなこともコメントしていた。
「レースも自然と戦うスポーツなんだというのを実感しています。これだけの自然環境の変化がある中でトラブルを起こさないで完走する難しさを感じました。
だからレースが、ニュルブルクリンクがクルマを鍛えることを体験して、そのフィードバックをしていくことが使命
なんだとつくづく感じました。
それは、トラブル対策ではなく、ポジティブに『ここを強化すればもっとよくなる』ということをこのレースで学んでいきます。
そして、ニュルブルクリンクでのレースは過酷な自然との戦いであり、SUBARUブランドの真髄を体現する場なのだと、改めて理解できた2026年だったと思いますね」
Writer: 高橋アキラ
東京都出身。大学卒業後、自動車雑誌編集部で編集記者として活動し、主に改造車を得意とする分野で執筆。自らRE、L型エンジンのチューニング、組み立て、テストまで行なった経験を持つ。その後編集プロダクションを設立し、輸入車、国産車の自動車専門誌制作、執筆活動。ラジオ番組制作会社と合併し、クルマのラジオ番組制作、自動車専門Webの編集、執筆を経て、現在、ラジオ番組パーソナリティ、専門誌への執筆、Webへの投稿をしている。技術に裏付けられた個体評価や、次世代に向けた新技術解説、近年では変化する自動車産業について執筆、トークをする機会が増えている。


































