2019年に本国でデビューしたときから、ルノーの「アルカナ」というクルマには不思議な魅力があると僕（筆者の嶋田智之）は感じていました。何せ上半身だけ見ればきれいなシルエットを描く4ドアのファストバッククーペなのに、四肢はたくましく骨太なつくり。エレガンスとタフネスがおもしろい具合に混在していたからです。その“アンビバレント（両面的）”ともいえる雰囲気に、どこか引かれてしまいました。

　それから3年後の2022年に日本へ上陸してから、何度となくステアリングを握らせてもらっているのですが、そのたびに“不思議な魅力”以外も体感しています。「快適で」「居心地が良く」「よく走りよく曲がる」という”ルノーらしさ”の特性をすべて高いレベルで持ちあわせながら、驚くほど燃費が良く、総合力がとにかく高いのです。

　2025年6月、そのアルカナに“テクノ”という仕様が加わりました。驚くべきことにその価格は、マイルドハイブリッドが419万円（消費税込み、以下同）、フルハイブリッドのE-TECHが459万円と、スポーツシックな「エスプリ・アルピーヌ」より40万円も抑えられています。

　アルカナに対してはこれまでも、「この存在感と出来栄えでアンダー500万円？」と感じていた節があったので、そうなるとさらにコスパのよさを突き詰めたようなテクノの存在は、どうしても気になります。いったいどんなクルマなのでしょうか。
　

　これまでのエスプリ・アルピーヌがややきらびやかな風情であるとすれば、テクノはやや大人びたシックな印象といえるでしょう。ボディカラーは「ブラン・ペルレ・メタリック」というホワイトと、新色にして専用色の「ブルー・ノクターン・メタリック」というロマンチックなネーミングがなされたダークブルーという2色の設定です。ドレッシーな白には言うまでもなく引かれますが、絶妙な濃度で深みのある青もまた魅力的で、どちらを選ぶか悩みそう。

　ましてやルーフがブラックアウトされるエスプリ・アルピーヌと異なり、テクノはそこがボディ同色でコーディネートされているので、クーペならではのルーフラインの流れ方が際立って見えます。サイドウインドウのモールやフロントフェンダーのアクセント、サイドのプロテクションモールなどがクロームで仕上げられていたり、逆にフロントのエアロブレードがボディ同色にペイントされていたりする点が、さらなるエレガンスを演出しているように感じます。

　インテリアに目を移すと、ダッシュパネルが落ち着きのある単色に、トリム類がシルバーに、シートがテップレザー（合成皮革）とファブリック（布地）のコンビと、エスプリ・アルピーヌから変更されていることに気付くのですが、かといってエスプリ・アルピーヌと比べて安っぽくなったような印象はどこにもないし、ADAS（先進運転支援システム）も含めた装備類に、何か割愛されているモノがあるようにも思えません。

　機能とデザインをさり気なく両立させているルノーらしさも、やり過ぎ感のない絶妙にデザインコンシャスなアルカナならではの雰囲気もそのままです。いったいどこをどうやって40万円も価格を抑えることができたんだろう？と、クエスチョンマークが頭の中に浮かんできました。