「答えは1つじゃない!」クラウン スポーツPHEV試乗と開発責任者インタビューで分かったトヨタの最新「マルチパスウェイ」戦略の中身とは?【PR】

16代目で100%電動化を果たしたクラウン この選択に迷いはなかったのか?

 そんな16代目クラウンシリーズのチーフエンジニア・清水竜太郎氏にパワートレインの考え方について聞いてみました。

(左)筆者(自動車研究家・山本シンヤ)(右)トヨタ自動車Mid-size Vehicle Company チーフエンジニアの清水竜太郎氏

山本:13代目でクラウンに初めてハイブリッドが設定されて以降、世代を重ねるにつれて販売比率は上がり、ついに16代目では100%電動化となっています。ピュアなガソリン車を残す選択肢はなかったですか?

清水:社内ではいろいろな声がありましたが、「クラウン“シリーズ”としてのカーボンニュートラル」という意識でしたので、迷いはありませんでした。

山本:面白いのは一口に電動化と言いながらも、クロスオーバーは「デュアルブーストHEV」、スポーツは「PHEV」、そしてセダンは「FCEV」とさまざまな電動化パワートレインが搭載されているところです。ちなみにエステートは未発売ですが「PHEV」を搭載します。この考え方は?

清水:16代目はクルマとしての魅力はもちろん、クルマ屋としてはしっかりと数も出していく必要があります。つまり、価格に関しても魅力的でなければダメですので、まずは初代プリウス以降熟成を重ねてきたHEVを土台にしながら、モデルの個性に合わせた選択肢を提供していきたいと考えました。

 一番分かりやすいのはセダンで、「BtoGを中心にやはり水素をしっかり盛り上げていかないとダメだよね」と。

「挑戦するHEV」として生まれた様々なパワートレイン

(16代目クラウンは)多様化するニーズに対し、パワートレインを各モデルで分けたことにも意味があるという清水氏

山本:クロスオーバーは2.4Lターボ+1モーターのパラレル式を採用した「デュアルブーストハイブリッド」を搭載。ハイブリッドでありながら、”走り”に振ったモデルですよね。

清水:クロスオーバーはパッケージもデザインなど、16代目の「革新と挑戦」を最も象徴するモデルです。それはパワートレインもしかりで、THSIIを20年以上やってきた中で、「HEVも挑戦しなければダメだよね」という考えに基づいています。

山本:個人的に意外だったのが、スポーツとPHEVの組み合わせです。今までなら「スポーツ=高性能な内燃機関」というイメージでしたが、それとは異なります。

清水:スポーツの走りの考え方は「硬いだけがスポーツじゃない」ですが、それをパワートレインに当てはめると「ターボだけがスポーツじゃない」という提案の一つです。PHEVはシステム出力306psですし、モーターの応答性の良さなどを生かせば、「シッカリとスポーツできる」と。

山本:章男会長が2021年12月の「BEV戦略に関する説明会」で、僕の質問に対して「電気モーターの効率はエンジンよりもはるかに高い」、「それを生かすとモリゾウでもどんなサーキット、どんなラリーコースでも安全に速く走ることができる」と答えてくれましたが、まさにそれですよね。

 PHEVは燃費/環境と思われがちですが、スポーツのPHEVは「電気を走りの楽しさにも活用」するものだと。

次世代パワーユニットで“楽しい”と“カーボンニュートラル”を両立する

THSIIを20年以上やってきた中で、16代目クラウンは「HEVも挑戦しなければダメだよね」という考えに基づいているという清水氏(左)

清水:その通りです。「ピュアエンジンじゃないと楽しくない」ではなく、「楽しいけどカーボンニュートラル」なユニットというわけです。PHEVは90㎞のEV走行が注目されがちですが、実はモーター制御を生かすことでハンドリングの部分にもメリットがあります。

山本:コーナリング時の姿勢制御やAWDを生かした駆動力制御などですね。確かにPHEVはHEVより200㎏重いですが、実際に乗ると走りの面でのネガはほぼありませんでした。

清水:ちなみにセダンはショーファーニーズが主ではあるものの、実は結構キビキビと走れてしまうのも、電動化の恩恵ですね。

山本:そうなると人間は欲深いモノで、「クロスオーバーにもPHEVが欲しいよね」とか「スポーツにデュアルブースト/FCEVが欲しい」と思う部分もあります。

清水:技術的に「できる/できない」という意味では可能ですが、それをやるとクラウンシリーズとしての目的がブレるのも事実です。「1台1台何がしたいの?」と。16代目が群戦略をおこなっている理由として、「多様化するお客様ニーズにお応えする」がありますが、パワートレインの考え方も同じですね。もちろん「何でも取りそろえています」は決して悪いことではありませんが……。

全てが密接につながっているトヨタの電動化パワートレインシリーズ

PHEVは燃費/環境性能だけでなく「電気を走りの楽しさにも活用」しているとクラウン スポーツのPHEVで筆者(左)は感じた

山本:つまり、16代目を4車種用意したように、パワートレインを各モデルで分けた事にも意味があると?

清水:そう理解していただけると分かりやすいと思います。「ライフスタイルに合わせた多様性」というのは、姿かたちだけの話ではなくパワートレインも含めての話です。仮に組み合わせとして可能だとしても、「あえてやらない」という部分もあります。

山本:ただ、そんな16代目をシッカリ支えているのはHEVだということですね?

清水:そうです。HEVがあるからできるPHEVですし、あまり知られていませんがFCEVも実はTHSIIがベースとなっています。つまり、トヨタの電動化パワートレインは全て密接につながっているのです。

クラウンシリーズのパワートレイン戦略が表現する“マルチパスウェイ”

トヨタの“マルチパスウェイ”は「楽しい走り」をさらに昇華させる!

 このように16代目クラウンシリーズのパワートレイン戦略は、トヨタのマルチパスウェイを分かりやすく表現していることが分かると思います。その結果「クラウンらしさ」は、従来モデルよりも明確になったと、筆者は分析しています。豊田氏は常日頃から「肩書よりも役割が大事」と語っていますが、これはクラウンにも言えるのかな…と。

クラウン スポーツのPHEVに乗る筆者(自動車研究家・山本シンヤ)

 ただ、一つ気になるのはマルチパスウェイの中で、現在トヨタが注力しているBEVの選択肢がクラウンにないことです。2026年以降の登場が予告されている次世代BEVを含めて、トヨタの今後の展開に期待したいところです。

[Text:山本シンヤ Photo:和田清志]

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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