箱根駅伝で「世界に1台のセンチュリー」初公開! 開発者が語る「ショーファーカー × 水素の意義」苦闘と全車電動化の裏側とは
トヨタは2026年の箱根駅伝で、提供車両40台をすべて電動車へ刷新します。注目は豊田章男会長の愛車をベースにした「水素センチュリー」です。「配管を縫う」ほどの苦闘を経て完成した特別な一台や、難所の山下りに挑むFCEVトラックなど、選手と環境に寄り添うトヨタの「マルチパスウェイ」戦略と開発の裏側に迫ります。
なぜセンチュリーなのか? ショーファーカー×水素の意義
2026年1月2日・3日に開催される箱根駅伝で、トヨタは提供車両40台をすべて電動車に切り替えます。
注目は水素で走る「センチュリー」や小型トラック。排出ガスを水だけにする究極のエコカーで、選手と地球に優しい大会運営を目指すとしています。
トヨタの「マルチパスウェイ」戦略による、箱根路への新たな挑戦とはどのようなものなのでしょうか。

正月の国民的行事である「箱根駅伝」。この伝統ある舞台を裏方として支え続けてきたトヨタが、2026年の第102回大会に向けて大きな決断を下しました。
それは、大会で使用される運営車両や伴走車など計40台を、すべて電動化車両(BEV、FCEV、HEV)にするというものです。
その中でもひと際異彩を放つのが、大会本部車として導入される「センチュリー(FCEV)」です。
ベースとなっているのは、豊田章男会長の愛車としても知られるSUVタイプのセンチュリー。
威風堂々としたボディの下には、水素で発電して走るFCEV(燃料電池自動車)システムが隠されています。
しかし、この「エンジンのないセンチュリー」を走らせるまでの道のりは、エンジニアたちにとって苦難の連続だったといいます。
開発を担ったのは、トヨタグループで特装車などを手掛けるトヨタカスタマイジング&ディベロップメント(TCD)です。
彼らに課されたミッションは、元々エンジンとモーターで走るPHEV(プラグインハイブリッド)として設計されたセンチュリーのボンネットに、FCEV「ミライ」のシステムを丸ごと収めることでした。
TCDの佐藤聖哲氏は、開発当時の苦境をこう振り返ります。
「我々は普段こういったものの設計はしていません。トヨタ自動車さんの力添えを得て、なんとかここまで形になりました」(佐藤氏)
最大の壁はやはり「スペース」でした。エンジン車として最適化された空間に、形状の異なる燃料電池ユニット(FCスタック)を押し込まなければならないからです。
FCシステムとエンジンのサイズはほぼ同等ですが、エンジン用に設計されたスペースに綺麗に配置するには、配管、配線はやり直さないといけなく、取り付け、搭載順番も全く異なるのが難しさの部分だと言います。
「センチュリーは元々PHEVで、エンジンで動いているクルマ。ここにFCユニットを載せるというのは、スペース的な問題などが結構大変でした」(佐藤氏)
2025年12月末にトヨタイムズで公開された動画では、がらんどうになったセンチュリーのエンジンルームにFCスタックをクレーンで慎重に降ろしていく様子が映し出されています。
少しでも位置がずれれば、フレームや他の部品に干渉してしまいます。
「本来、ミライであれば横についている部品を、全部(スタックの)下に持っていきました」(佐藤氏)
スペースを捻出するために、コンポーネントの配置を立体的に再構築するという離れ業をやってのけたのです。
その結果、ボンネットの中身はぎっしりと詰まった状態に。佐藤氏は複雑に入り組んだ内部を指さし、苦笑いしながらこう語ります。
「見ての通り、配管などが結構こう『縫うような形』でついています。この辺のスペースを検討するのは非常に辛くてですね……大変でした」(佐藤氏)
既存のクルマの構造を活かしつつ、まったく別の心臓を与える。それはパズルというより、知恵の輪に近い難易度だったに違いありません。
佐藤氏は「ぶつからずにまず載った、というところがまずは合格点かな」と、安堵の表情を見せていました。
これほどの苦労をしてまで、なぜセンチュリーを水素で走らせる必要があるのでしょうか。
トヨタのMS統括部の多和田貴徳氏は、その狙いを次のように語ります。
「水素社会に向けて、水素の可能性を示していきたい。
その可能性を広げていく上でも、センチュリーという、いわゆる『ショーファーカー』に水素を入れていくというのは、非常に意義深いものがあるのかなと思います」
静粛性が求められる高級ショーファーカーと、振動や騒音がなく水しか出さないFCEVの組み合わせは、理にかなった究極の形とも言えます。
またセンチュリーだけでなく、今回の箱根駅伝では合計40台の車両が電動化されます。
中でも技術的な挑戦となるのが、選手の映像を届ける「共同カメラ車」として採用された「小型トラック(FCEV)」です。
箱根駅伝最大の見せ場である「山下りの6区」は、高低差約800mを一気に駆け下りる過酷なコース。
開発チームは今夏、本番を想定して荷台に1.5トン分の重りを積み、箱根の山で実走テストを行いました。
さらに、東京五輪の選手村でも話題になった自動運転モビリティ「e-Palette(イーパレット)」も実戦投入されます。
予選会が行われた昭和記念公園では、給水所まで物資を運ぶ実証実験を実施。トヨタのCV統括部山本和樹氏は「人運びだけでなく、モノを運ぶ、医療など、様々な用途に使っていただき、課題を洗い出していきたい」と語ります。本番では「医務車」や「緊急対応車」として、選手の安全を見守る重要な役割を担います。
また、各大学の監督が乗り込む「大学運営管理車」のノア・ヴォクシーはハイブリッド車(HEV)ですが、単なるHEVではありません。
使用燃料には、福島県で栽培された植物「ソルガム」を原料とするバイオエタノールを配合した低炭素ガソリン「E10」が採用されました。
BEVやFCEVだけでなく、内燃機関も活用しながらCO2削減を目指す。トヨタが掲げる「マルチパスウェイ」戦略が、箱根の舞台でも体現されています。

※ ※ ※
この全車電動化プロジェクトの根底には、自身もドライバーである豊田章男会長の「きれいな空気を吸いながら、やっぱり走ってもらいたい」というアスリートへの強い想いがありました。
ランナーのすぐそばを走る運営車両が、排気ガスではなく「水」だけを出すクリーンなクルマであることは、選手にとって大きな助けになるといえます。
1月2日に東京・大手町を出発した選手、そして大会をサポートするトヨタ車。
2026年はどのようなドラマが待っているのか、期待が高まります。

Writer: くるまのニュース編集部
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