「もはやフルモデルチェンジ」レクサスRZが衝撃進化! 航続距離700km超&「MT操作」も楽しめる“中身”の凄さ【試乗記】
レクサスのBEV「RZ」が大幅改良を受けた。外観の変化は僅かだが、モーターや電池の刷新、車体剛性強化など中身は「フルモデルチェンジ並み」に進化。航続距離は最大733kmへ延び、ステアバイワイヤや疑似MT機能も新搭載された。弱点を克服し「レクサスらしさ」を増した新型の走りを山本シンヤ氏がレポート。
トヨタの中で電動化をけん引する役割を担うのが、プレミアムブランドの「レクサス」です。
すでに電動車(=HEV/PHEV)の売り上げ比率は50%を超えており、2035年までにBEV100%を目標にしています。
その切り込み隊長となるのが、2023年に登場したBEV専用モデル「RZ」になりますが、今回登場から約2年目で大幅改良が行なわれました。

まずはFFのRZ350eから試乗します。出力アップはどちらかと言うと日常域での“余裕”に繋がっています。
具体的には従来よりもドライバーの操作対してより忠実に力が出せるようになった印象です。恐らくモーター側の懐の深さ(出力アップにより同じ出力を出す時の負担が少なくなった!?)と静粛性アップ(後席下のフロアサイレンサー、防音材の追加&高性能化、ボディパネルへの高減衰接着剤の採用)の相乗効果によるモノでしょう。
フットワークは従来モデルよりも“骨太”になった印象です。従来モデルは操舵の滑らかさやコーナリング時のクルマの動きなどにThe Naturalを感じたものの、良く言えば穏やか、悪く言うとどこか掴み所が無いモヤっとしたフィーリングでしたが、新型はThe Naturalに“芯”がプラスされており、どこかシャキッと目覚めたようなハンドリングになっています。
例えるなら、プリっと弾力があるのに歯ごたえが残る「アルデンテ」のような感じ。その結果、よりスッキリ、より奥深い走り、つまりよりレクサスらしい走りになったと言えるでしょう。
乗り心地も路面からの入力が優しくなったのとドライバーに伝わる振動が確実に減ったのは実感できるレベルですが、バネ上の細かい揺れは気になる所。
これはe-TNGAの弱点の1つですが、他が良くなった分従来モデルよりも目立ってしまった印象でした。

続いて、RZ550e Fスポーツに乗ります。RZ初となるFスポーツの設定となりますが、専用エクステリア(フロントロアバンパーモール、ブレーキダクト、リアスポイラー、リアバンパーロア)は意匠性のみならず操安性を高める機能部品としての採用です。20インチの専用アルミホイールは軽量化に加えて空力のためのエアロカバー付きとなっています。
インテリアはブラック&ダークグレーのコーディネイトに加えて、専用加飾(マイクロジオメトリックパターンフィルム)や表皮一体構造のシート、アルミ製ペダル&フットレストなどによりスポーティな演出。ただ、残念なのはノーマルと同じ素っ気ないメーター。ここはこだわって欲しかったです。
パワートレインは162kWにアップした前後モーター(従来はフロント:150kW、リア:80kW)により、システム出力は313→407psと大きく引き上げられています。
走り始めから低中速域は従来モデルと大きくは変わりませんが、そこから先、速度が上がるにつれて出力アップによる力強さを実感。
性能的には0→100km/h加速は4.4秒の俊足ですが、 Gの立ち上がりはスマートかつジェントルなので速さ感は少なめです。更にモーター駆動の鋭さだけでなくエンジン車のような“伸びの良さ”を感じたのはビックリ。制御如何で“人間味”や“味わい”が出るんだなと。
ちなみにDレンジではアクティブサウンドコントロールにより音(エンジン音と電子音の中間!?)がプラスされますが、EPB横の「M」ボタンを押すと「インタラクティブ・マニュアル・ドライブ」が作動します。
これはマニュアルBEVと呼ばれるデバイスで、仮想有段ギア(8速)とエンジンの仮想パワーソーストルクで駆動力を算出。サウンド(LFAのV10を再現)と連携することで、まるでエンジン車に乗っているかのようなフィーリングを味わう事が可能となっています。
実際に試すとモーターのフレキシブルさとは真逆のエンジン車のようなトルク特性(高いギアだと加速が鈍る)やシフトアップしないとレブに当たる、シフトアップ/ダウン時のシフト感などは、無駄を愉しむと言う意味では「面白い」ですが、LFAのV10はクルマのキャラクターを考えると、少々Too Muchかなと。個人的にはエンジン音に頼らないレクサスBEVならではの“音作り”をしたい所です。
フットワークの注目はステアリングホイールとタイヤを物理的に切り離す技術「ステアバイワイヤ」の採用です。実は2022年のデビュー時に発表するも、マスタードライバーからの指摘(操作性に違和感)による改良で導入延期となっていました。
具体的には転舵角が150→200度に変更、それに伴う制御の最適化、そしてより握りやすいステアリング形状へ変更などが行なわれています。
専用ステアリングに加えて、ワイパー/ウインカーレバー、パドルは独自の形状となっており一見使いにくそうに感じますが、どれも手を離すことなく操作が可能。賛否はあると思いますが、いすゞ「ピアッツァ」やシトロエン「BX」のサテライトスイッチを知る筆者としては、それほど違和感はありません。
操作性は舵角が少ないので微操舵のコントロールが難しそうに感じるも、車速に応じたギア比制御により通常のステアリングからパッと乗り替えてもそれほど気にならないレベル。慣れのポイントはステアリングを「回す」ではなく、行きたい方向にステアリングを「向ける」と言う操作を心掛ける事です。
驚きは機械的にはステアリングとタイヤは繋がっていないのに、まるで繋がっていると感じる直結感の高いステアフィールです。タイヤの接地感や操舵時のGの変化、更にはタイヤのグリップ感などは、通常のステアリングよりも明瞭です。これは一度試すと元のステアリングに戻れなくなるかも。
ただ、1つ気になるのは大舵角の時に手を持ち替えが必要となり、あのステアリング形状だと逆に操作を難しくしてしまう事です。個人的には従来仕様の150度のほうがバイワイヤステアリング+専用ステアリング旨味はあったような気がしています。転舵角は好みに合わせて調整できるといいのですが、現状だと法規が厳しいそうです。
更にツインモーターAWDの特性を活かした4輪駆動力制御システム「DIRCT4」はeアクスルの全面刷新に合わせて全面的に見直しされています。
具体的には直線加速時は60:40~0:100、コーナリング時はターインがフロント寄り、コーナー脱出時が各輪の接地荷重に合わせて80:20~0:100まで最適な制御を行なっています。更にサスペンションもショックアブソーバー/スプリング共にFスポーツ専用セットアップとなっています。
フットワークは従来モデルでもより自然、よりシームレス、より滑らかな制御でしたが、新型はFFと同じくThe Naturalに“芯”がプラスされているのに加えて、姿勢変化がより抑えられている事、重量を感じさせない身軽なクルマの動き、リアの蹴りだし(=リアの駆動力アップ)を感じながらも4輪で姿勢を整えながら前にグイグイと進む感じが強いハンドリングで、従来のFスポーツよりもFスポーツらしい“味”を感じました。
乗り心地は引き締められていますが、スッキリした減衰感としなやかな足の動き、更にタイヤとサスのバランスなのかFFで感じたバネ上の細かい振動はかなり抑えられているので、むしろこちらのほうが快適に感じるかも。

最後は特別仕様車のRZ600e Fスポーツパフォーマンスです。2024年に従来モデルをベースに100台が限定発売されましたが、今回は新型がベースになっただけでなく、バージョンアップが行なわれています。
エクステリアは航空機に用いられている空力技術を応用して開発されたエアロパーツ(カーボン製)に加えて、大型アーチモール、カーボンルーフ、更に21インチの大径タイヤ+アルミホイール(エンケイ製)などにより、スマートなRZがアグレッシブに大変身。
インテリアはエクステリアほどの変更ではありませんが、ブラック+ブルーのコーディネイト、専用スポーツシートやドアトリムなどにより、よりスポーティな印象です。
新型はメカニズムも専用となっています。パワートレインは前後モーター(167kW)、バッテリー(76.96kWh)はベース車と同じですが、バッテリーの出力限界の見直しによりシステム出力は407→425.3psにアップ。
フットワークはステアバイワイヤの採用に加えて、専用セットアップのサスペンションも新型に合わせて最適化(ノーマル比‐20mm)。
タイヤはフロント:255/40R21、リア:295/35R21は変更ありませんが、銘柄がBSアレンザからアドバンV107に変更。更にパワートレインの高出力化に合わせて、ブレーキはフロント対向6ポッドアルミモノブロックキャリパー+20インチ大径ローターの採用と抜かりなしです。
このモデルはサーキット(袖ヶ浦フォレストレースウェイ)のみでの試乗。ただし、全開走行ではなく100km/h前後のクールラップとなりました(試乗車がナンバー無しに加えて1台のみのため)。
見た目はかなりアグレッシブですが、走りはRZ500e Fスポーツの45度線上に位置するモノでで、ステアバイワイヤは薄皮1、2枚剥いだようなダイレクトさと手ごたえがプラスされています。ハンドリングはRZ500e Fスポーツとはちょっと別格で、SUVと言うよりもスポーツカーのそれに近い印象です。
具体的には、ターンインではタイトコーナーがタイトに感じないくらいノーズがインを向く回頭性の高さ、旋回時は腰を中心に曲がる感覚と路面にビターっと張り付くような安定感、トラクションを掛けるとリアタイヤに荷重をグッと乗せて蹴り出す感覚の強さはFRスポーツのそれに近いかなと。
足はRZ500e Fスポーツよりハードなはずですが、体感的には路面をよりしなやかに捉えている印象でした。この辺りは無駄な動きをエアロパーツがピターッと抑えているのでしょう。
パワートレインは出力アップよりも全開加速時にトップエンドでのパワーの落ち込みの少なく、伸びの良さが増している印象です。ちなみに従来モデルは明らかにシャシ勝ちでしたが、新型はシャシーとのバランスが整っており、クルマとしての完成度は高まったと思います。
ちなみにRZ500e FスポーツではToo Muchに感じたインタラクティブ・マニュアル・ドライブですが、逆にRZ600e Fスポーツパフォーマンスではドンピシャな印象。やはりパワートレインとフットワーク、更には見た目が伴ってこそ光るアイテムなんだと思いました。
そして注目のブレーキは全開走行していないので絶対的な実力は解りませんが、カチッとしたタッチや剛性あるフィーリングは回生協調と思えない仕上がりだと思いました。
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そろそろ結論に行きましょう。筆者はRZ登場時に、「RZは単なる『BEV専用車』ではなく、『レクサスならではのドライビング体験』をより明確にする存在と言えるモデル」と評価しましたが、新型はそのコンセプトを一切にブラすことなく、“濃度”と“味わい”、そして“安心”が増したモデルに仕上がっています。
まさに、その伸び代はこれまでのレクサスのAlways On史上最大。これまで「RZは気になる存在、でもね……」と躊躇していた人にも、筆者は新型なら安心して進められます。そして、今後ステップ3と呼ばれる次世代BEVが登場予定ですが、今回のRZの進化を見ると期待がより高まります。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。



















































