日産の独自技術「e-POWER」は、内燃機関で発電した電力でモーターを駆動するシリーズハイブリッド方式を採用し、街中での力強い加速と滑らかな走行感覚で高い評価を得ています。

　この革新的なシステムは、日産の電動化戦略の中核をなすものであり、その源流を辿ると2012年に発表されたインフィニティのコンセプトカー「エマージ」に行き着きます。

　スイス・ジュネーブモーターショーで初公開されたエマージは、当時としても先進的な技術とデザインを融合させた一台として注目され、今もなおネット上では様々な声が見られます。

　エマージは、インフィニティとして初めてレンジエクステンダー技術を搭載したミッドシップ電動スポーツカーです。

　単なるデザインスタディに留まらず、実際に走行可能なプロトタイプとして開発され、次世代の電動スポーツカーのあり方を提示しました。

　開発のベースとなったのは英国ロータス・カーズの「エヴォーラ 414Eハイブリッド」で、車体骨格にはアルミニウム材を接着して組み上げるVVA（Versatile Vehicle Architecture）を採用。

　さらにカーボンファイバー製ボディとの組み合わせにより、車両重量は1598kgに抑えられています。

　ボディサイズは全長4462mm×全幅1953mm×全高1219mm、ホイールベース2623mmと、低くワイドなスポーツカーらしいプロポーションを実現しています。

　外観はインフィニティの当時のデザイン哲学「ダイナミック・アデヤカ」を反映し、官能的な曲線と鋭いエッジが融合した造形です。

　フロントノーズからフェンダー、リアエンドへと流れるラインは見る者にスピード感を与え、フロントスプリッターやサイドシル、リアディフューザーなどの空力パーツも機能美を兼ね備えています。

　エマージの真骨頂は、革新的なパワートレインにあります。左右の後輪に独立したモーターを搭載し、発電専用のロータス製1.2リッター直列3気筒ガソリンエンジンが後席後方に配置されました。

　このエンジンは車輪を直接駆動せず、発電のみに専念するため、実質的には純粋な電動走行が可能です。

　EVモードでの航続距離は約48kmで、レンジエクステンダーとの併用により総航続距離は約480kmに達し、CO2排出量はわずか55g／km。

　加速性能も0-60マイル（約96km／h）を4.0秒で駆け抜ける俊敏さを備え、環境性能と走行性能を両立させています。

　この車両の開発には、英国政府の低炭素車両技術戦略委員会（TSB）がパートナーとして技術支援と資金提供を行い、インフィニティが掲げる「インスパイアード・パフォーマンス」を体現する洗練されたモデルが誕生しました。

　現在のe-POWERに通じる思想、すなわち内燃機関で発電してモーターを駆動する方式の原型が、このミッドシップスポーツカーに宿っていたのです。

　発表から十年以上経過した現在でもネット上では「いま見ても通用するデザイン」「元祖e-POWER!? 当時は早すぎた技術だと思う」「レンジエクステンダーの考え方はもっと普及してほしい」「インフィニティらしい色気がある」「軽量構造が本当に美しい」「これが市販されていれば世界が変わったかも」「未来のスポーツカーを先取りしていた」といった声が散見されます。

　技術とデザインの両面から高く評価されるこの一台は、日産のe-POWERにつながる電動化の系譜を理解するうえで、欠かせない存在となっています。