日産の「“3列6人乗り”高級SUV」に賛否両論!? 全席ファーストクラスの豪華内装×観音開きドアが斬新すぎた! 米国で公開された「インフィニティ クラーザ」とは何だったのか?
日産はかつて「インフィニティ」ブランドのコンセプトカーとして、米国で「クラーザ」を披露しました。賛否両論あった斬新な6人乗りSUVですが、どのようなモデルなのでしょうか。
全席ファーストクラスの豪華内装×観音開きドアが斬新すぎた!
2025年10月31日に一般公開が始まった「ジャパンモビリティショー2025」では、各メーカーが発表する未来のコンセプトカーに注目が集まります。
そして、過去のモーターショーを振り返ると、大きな反響を呼びながらも、その思想が後のクルマづくりに大きな影響を与えたコンセプトカーが数多く存在しました。
それが、2005年にデトロイトで開催された北米国際自動車ショーで発表された、インフィニティ「Kuraza(クラーザ)」です。

クラーザは、大胆な観音開きのドアと、実用性を度外視したかのようなデザインが賛否両論となり、なかでも否定的な意見が優勢でした。ウォール・ストリート・ジャーナルの読者投票では、実に69%が市販化に反対の意を示したほどです。
このクルマが生まれた背景には、「移動手段ではなく、おもてなしの空間」という、従来のSUVとはまったく異なる哲学がありました。
2000年代初頭の北米市場では3列シートSUVがブームとなっており、その多くは3列目が補助席という扱いでした。
そこでインフィニティは、「すべての乗員がファーストクラスの快適性を享受できる6人乗り」という、まったく新しいコンセプトを掲げました。
車名の「Kuraza」は人々が集い語らう「座」に由来し、移動時間を上質なコミュニケーションの場に変えるという壮大な夢が込められています。
その哲学は、日本の美意識を取り入れた豪華な内装に凝縮されていました。3列に並ぶ独立シートは、後席からの視界を確保したスタジアムスタイルで、公式資料では「キモノスタイル」と表現。
インパネ中央には「掛け軸」を模した縦長モニターが自然の風景を映し出し、床には木材とアルミニウムを組み合わせたフロアが広がっていました。
エクステリアでは最大のハイライトである観音開きドアは、2列目と3列目の間のピラーをなくした構造とし、3列目の乗員が「品位を損なうことなく」スムーズに乗降できるよう配慮。開閉に連動して現れるウッドパネル付きサイドステップも、「おもてなし」の思想を象徴するディテールでした。
足元には23インチのアルミホイールを装着。クラシカルな趣のサイドミラーや、現代の360度カメラの先駆けともいえる、ヘッドライト内に組み込まれたサラウンドビュー用の小型カメラも備えていました。
しかし、この野心的なコンセプトが市販されることはありませんでした。最大の理由は、デザインに対する市場の明確な「拒絶」があったからでしょう。
とくに後席の快適性を優先した結果、3列目シートの後方に実用的な荷室がほとんど確保されていなかった点は、多用途性を求めるSUVユーザーには受け入れがたいものでした。クラーザの提案は「おもてなし」に特化しすぎていたのです。
それでも、クラーザの挑戦は無駄には終わりませんでした。
「3列目シートまで快適なラグジュアリークロスオーバー」という思想は、後の市販車「インフィニティJX」、そして現在の「QX60」へと受け継がれます。
クラーザが提起した「3列目への容易なアクセス」という課題に対し、JX/QX60は「チャイルドシートを装着したままでも2列目シートをスライドできる機能」という、きわめて実用的な解を示しました。
さらに注目すべきは、インフィニティが「失敗から学んだ」プロセスです。クラーザが試みた「着物」や「掛け軸」といった直接的な日本デザインの表現は、後のQX60では「間(ま)」や「折り紙」といった、より洗練され抽象化された美意識へ進化していきました。
クラーザの哲学は、現実的な商品解決と成熟したデザイン表現として昇華されたというわけです。
クラーザは、そのデザインが市場に受け入れられなかった「失敗作」だったのかもしれませんが、根底にあった「すべての人に快適な移動を提供する」というおもてなしの思想は、後のヒットモデルを生み出す重要な礎となりました。
クラーザは単なる幻のクルマではなく、その哲学が後の大成功につながった、意義深い「成功した失敗作」といえるでしょう。
Writer: 佐藤 亨
自動車・交通分野を専門とするフリーライター。自動車系Webメディア編集部での長年の経験と豊富な知識を生かし、幅広いテーマをわかりやすく記事化する。趣味は全国各地のグルメ巡りと、猫を愛でること。







































