国交省「総点検」指示! 中野大臣「必要な指導を…」 全国で「電気バス」が続々使用停止に! “EVモーターズ・ジャパン”が扱うモデルに何が起きているのか

新興EV販売会社「EVモーターズ・ジャパン」が扱うEVバスで、多数の不具合が報告されています。国交省は、2025年9月5日の大臣会見で、同社が納めたEVバスの「総点検」を命じました。どのような不具合が出ているのか、EVバスの製造元はどんなメーカーなのか。関係者から得た情報と合わせて解説していきます。

北九州のEV販売会社「EVモーターズ・ジャパン」とは?

 2025年9月5日、EV販売会社「EVモーターズ・ジャパン」が納めたEVバスの「総点検」を、国交省が命じました。理由は、多数の不具合が報告されているためです。

 どのような不具合や問題が発生しているのでしょうか。

EVモーターズジャパンが扱うEVバス(写真は不具合の出ているものと同型のバス)
EVモーターズジャパンが扱うEVバス(写真は不具合の出ているものと同型のバス)

 EVモーターズ・ジャパンは、大阪万博の開催が決定した約4か月後の2019年4月1日に福岡県北九州市に設立された新しいEV販売会社です。

 中国の新興バスメーカー3社が製造したEVバス300台以上を、2022年から現在までに大阪市高速電気軌道株式会社(大阪メトロ)に190台、愛媛県の伊予鉄バスに21台、阪急バス、富士急バス、那覇バス、九電でんきバスサービスなど多数の事業者に短期間で納車してきました。

 それらEVモーターズ・ジャパンが扱うEVバスに多数の不具合が多数報告されており、9月5日、国交省の大臣会見でEVモーターズ・ジャパンに対して同社が納めたEVバスの「総点検」を命じました。以下、2025年9月5日に行われた中野洋昌大臣会見でのやり取りです。

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(記者)
 大阪・関西万博の送迎バスでeMOVEイームーバーというバスがたくさん走っていることは御承知のとおりです。

 そのうち日野の方はともかく、EVイーブイモーターズ・ジャパンが140台程度、一番たくさん輸入して走らせています。これは御案内のとおり、先頃自動運転もやっていたのですが、ポシャりました。

 今般、当社の取材によれば、モーターのフランジというのですが、付け根部分が破断して、これが破断すると何が起きるかというと、駆動輪がロックしてしまうのですね。駆動輪がロックすると何が起きるかというと、急制動がかかってしまって、場合によっては、バスというのは重心が高いですし、人もたくさん乗っているので、横転の可能性すらあると。

 本件、EVモーターズ・ジャパンは近畿運輸局に対して、こういう可能性が発見できたので対処しますということで、当局からも指導が出ているのですが、実態はかなり悪そうです。

 私見で言えば、EVバスは即時運行停止をして、代替のバスなり、他の交通機関に振り分けるべき、あと1か月で万博の会期も終わるので、ここで万が一のことが起きては、やはり安全・安心を標榜する国土交通省としてはいけないだろうと思っているのですが、大臣のお考えをお願いします。

(中野大臣)
 EVモーターズ・ジャパンの万博輸送のバスについては、これまでも走行中に車両が停止する、ドアの開閉不良、こうした複数の不具合が確認されているところです。

 こうした事態を受けて、一昨日9月3日、EVモーターズ・ジャパンに対して、万博輸送に使用しているバス以外も含め、車両全般について総点検を至急実施するとともに、委託製造先の中国メーカーを含め、品質管理体制を見直すこと、そして総点検等の結果について速やかに国に報告することを指示したところです。

 今後とも、EVモーターズ・ジャパンの対応状況を確認しつつ、国土交通省としても必要な指導を行っていきたいと考えています。

(記者)
 運行停止ということは、現状は考えていないのでしょうか。

(中野大臣)
まずはこうした事態を受けて、総点検を至急実施するように指示したところですので、この総点検等の結果を踏まえて判断をしていきたいと考えています。
ーーー

 具体的にどんな不具合なのでしょうか。複数の関係者に取材した話を判明したものは以下の通りです。

―――
・扉挟み込み防止装置の誤動作により車両が発進できなかった
・朝の学校出発後にブレーキの効きが悪く急ブレーキでをかけて停止した
・試験運行初日にハンドルの切れが悪く公道運行できない(試験運行を中止)当日夕刻より不具合解消
・助手席シートベルト警告等が着席せずとも作動する
・閉扉時にボディとの間に隙間が発生
・フロントカメラカバーが脱落する
・扉挟み込み防止装置の動作不良
・乗降時に半ドア検知しなかった
・ハンドルを左に切るとホーンが鳴り続ける
・運転席、助手席の窓のデフロスターの利きが良くない
・50~60km/h走行中にアクセルペダルを離すとモーターからうなり音が発生(加速側でも定常でも)
・助手席ワイパーが作動時に窓から飛び出し、ひっかかる
・客席シートベルトを引っ張り出すときに力が必要
・V2L(放電機能)が使用できない
―――

 その後の情報によると、筑後市のスクールバスは復旧のめどが立っておらず、小学生が登校に使う乗り物であまりにひどいトラブルが続いていることから、今後は使用中止になる可能性が高いとのことでした。

 このような不具合が頻繁に発生しているため都度対応に当たっているとのことですが、原因不明や中国からの部品取り寄せで数か月放置されているバスもあるといいます。

 また、修理してやっと直ったと思ったらまた別の場所が壊れる、というケースも頻発しています。

 一例をあげておきましょう。福岡県筑後市が九電でんきバスサービスとのサブスク契約によって2025年4月から運航を開始したスクールバスの不具合です。

 新しい小学校(筑後南)の開校に合わせて導入した国内初のEVスクールバスとして話題になりましたが、運行開始間もなく次々と不具合が出始めたといいます。

 運営事業者である九州電力広報部に話を聞いてみました。

「新学期のスタートに合わせてスクールバスの運行もスタートしましたが、開始から間もなく不具合が次々と出てきたため、4台すべてを使用停止にしました。

『始動するとクラクションが鳴る』『走行中に原因不明の停止』『回生ブレーキの制御不具合』など、バスそれぞれに不具合箇所は違いますが全車で初期不良が発生しました。

 EVモーターズ・ジャパンにて約1か月半の時間をかけて点検や改修を行い6月9日に運転を再開しましたが、再開したその日にドアセンサーの不具合が発生。

 再び4台のバスはEVモーターズ・ジャパンに戻っていきました。運行再開の時期については車両の安全性担保を第一に考え、筑後市との協議も行っていきます」

 なお、これら4台のスクールバスは日本ではYANCHENGというブランドのEVバスになります。

低品質&高価格のEVバスを作っているのはどんなメーカー?

 このような低品質&高価格のEVバスを作っているのはどのようなメーカーなのでしょうか。

 EVモーターズ・ジャパンのEVバスは以下の3社で製造され、日本に輸入されています。

1.日本でのブランド名「WISDOM」

 同社はEVモーターズ・ジャパンの設立から1週間後となる2019年4月8日に福建省にて設立されました。

 EVモーターズ・ジャパンが輸入するバスの中で8割以上がこのメーカーとなります。大阪万博の「e Mover」にも多数採用されています。

 中には自動運転の実証実験を行っているEVバスも10台程度ありますが、開幕から不具合続きで現在は自動運転の実証実験を中止し通常のe Moverとして使用しています。

 なお、車名等の表記は「商用車等の電動化促進事業(タクシー・バス)」(令和6年度 環境省)において、事前登録された補助対象車両情報一覧から車名と仕様、補助金基準額を引用しています。

●WISDOM F8 series4-Mini Bus
6.99m(コミュバス) 114kWh 仕様
補助金基準額 1161万1000円 

●WISDOM F8 series2-City Bus
8.8m(路線)176kWh 仕様
補助金基準額 1562万5000円

●WISDOM F8 series6-Coach
8.8m 210kWh 仕様
補助金基準額 1545万6000円

●WISDOM F8 series2-City Bus
10.5m 210kWh 仕様
補助金基準額 1868万3000円

 2.日本でのブランド名「YANCHENG」

 通称「恒天」。日本では「YANCHENG」の名前で登録されています。導入台数は10台以下と少ないですが、不具合が多発しています。

 にもかかわらず、今後は「恒天」の大型バスが数10台、輸入される予定とのこと。

 親会社の恒天汽車は、トヨタ「ランドクルーザープラド」の違法コピー車をいまだに生産販売しています。

 環境省補助金の事前登録が完了している主な車種は以下の通り。

●YANCHENG V8-Micro Bus
5.99m高床仕様
補助金基準額1763万8,000円

●YANCHENG V8-Micro Bus
6.99m高床仕様/低床仕様
補助金基準額1797万2000円
※こちらの高床仕様を筑後市スクールバス4台として納入

●YANCHENG V8-City Bus
6.99m 150kWh 仕様
補助金基準額994万4000円

 3.愛中和汽車(AIMO Automobile) 日本でのブランド名は「VAMO」

 愛中和は中国国有の巨大鉄道会社CRRC(中国中車)グループ傘下の中城工業集団の子会社として運営されています。EVモーターズ・ジャパンが輸入するEVバスとしてはVAMOブランド一車種のみ。

 大阪万博と同じ大阪メトロに約40台が納入され大阪市内を走る「オンデマンドバス」として使用されています。

 記憶に新しいところでは9月1日に大阪市福島区内で「ハンドルがきかなくなる」事故が発生。中央分離帯に乗り上げてバスは停止しました。

 けが人はいませんでしたが、もし歩道側に乗り上げるような事態になれば歩行者を巻き込む大惨事になっていた可能性もあります。

 大阪市交通局に確認したところ、9月2日より点検のため同型のEVバスは全車、運行が中止されています。

●VAMO
E1乗合 ベーシック
59kWh 仕様
補助金基準額 899万2000円

※ ※ ※

 電気自動車を購入する際、乗用車や小型商用車には次世代CEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)が支給されますが、トラックやバスに対しては環境省が展開する「商用車等の電動化促進事業(タクシー・バス)」制度によって高額な補助金が給付されます。

 EVモーターズ・ジャパンが輸入するEVバスは、どのメーカーも同クラスのBYD製EVバスと比べると全体的に補助金額が数百万円レベルで高額となっています。

 CEV補助金は実車を持ち込んでJARIなどの審査機関で数日にわたって厳しいテストを受けた上で決定されますが、環境省の補助金は書類審査、性能などカタログ数値の記入だけとなっています。

 EVモーターズ・ジャパン扱いの電気バスのように、品質が悪く不具合が多発していてほとんど走行できていないバスでも補助金額に影響しないとのことでした。

 補助金支給後に記入する事業報告書には走行距離の欄がありますが、こちらも自己申告でオドメーターの写真添付などは不要です。

 バスは老若男女、多くの人々が利用する公共の乗り物です。徹底的に不具合の原因究明を行い、安全第一で多額の補助金に見合った運行をしてほしいものです。

【画像】これがEVモーターズ・ジャパンの扱う「EVバス」です!(12枚)

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Writer: 加藤久美子

山口県生まれ。学生時代は某トヨタディーラーで納車引取のバイトに明け暮れ運転技術と洗車技術を磨く。日刊自動車新聞社に入社後は自動車年鑑、輸入車ガイドブックなどの編集に携わる。その後フリーランスへ。公認チャイルドシート指導員として、車と子供の安全に関する啓発活動も行う。

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