「オジサン世代」はどう反応? 24年ぶりにホンダ「プレリュード」復活! グライダー意識した「乗り味」は?【試乗記】
ホンダは新型「プレリュード」を2025年9月4日に正式発表。翌5日に発売します。今回、事前にクローズドコースで試乗することができ、そのの様子を山本シンヤ氏がレポートします。パワートレインや走り、エクステリア・インテリアなど、どのような特徴や魅力があるのでしょうか
ついに登場した「プレリュード」の詳細は?
2023年のジャパンモビリティショーでの世界初公開から2年、ついにと言うかやっとと言うか6代目となる新型ホンダ「プレリュード」が正式発表されました。
5代目の生産終了が2001年だったので、実に24年ぶりの復活です。実際に乗った印象はどうだったのでしょうか。

ホンダは2021年に「ZEVの販売比率を2040年にグローバルで100%にする」と発表。その目標は今も不変ですが、その一方でEV移行期を支える基幹技術としてHEV(e:HEV)の強化を進めています。その象徴となるモデルがプレリュードと言うわけです。ちなみにプレリュードは前奏曲を意味しますが、カッコよく言えば「フル電動化に向けた前奏曲」だと…。
今回正式発表に先駆け、量産モデルに伊豆サイクルスポーツセンターの5kmサーキット(高低差約100m、中・高速コーナー中心、エスケープソーンなし、路面はフラットそうで結構荒れている)で試乗をしてきました。

エクステリアはもはや見慣れた感がありますが、SUV全盛の中でワイド&ローのスタンスは非常に新鮮です。ロングノーズ&ショートデッキのプロポーションはどことなく初代のイメージが被りますが、個人的にはもう少しスペシャリティらしい“伸びやかさ”があっても良かったかな…と。
ボディカラーはメインカラーの「ムーンリッドホワイトパール」や歴代モデルを思い出す「フレームレッド」もいいですが、個人的な推しはステルス感を持ちながらボディサイドの抑揚がより感じられる「メテロイドグレーメタリック」です。
インテリアは最新ホンダ車共通の水平基調でノイズの少ないインパネレイアウトを採用。基本的な操作系はシビックと似ていますが、空調グリルのデザインや繋がりのあるドアトリム形状、Dシェイプのステアリング、レザー調パッドやカラーコーディネート(ホワイト×ブルー/ブラック×ブルー)やセンターコンソール周りの処理はスペシャリティカーらしい雰囲気を備えています。
ただ、その割にメーターのデザインはアッサリしすぎでもっと攻めても良かったと思います。
BOSEオーディオやGoogleナビと言った装備は用意されていますが、シート調整やステアリング調整が手動、シート空調の設定がない(ヒーターは用意)などもう少しスぺシャリティーらしいおもてなしや特別感が欲しかったです(基本モノグレードなので)。
当然ながら特等席はフロントシートでリアシートはいざと言う時に使えるレベルです。ただ、ラゲッジは絶対的な容量は限られるも、開口部の広いテールゲートの採用(トランクリッドではない)により4人乗車時はスーツケース2個、リアシートと倒せば9.5型のゴルフバック2個が収納可能と、見た目に似合わず利便性は高めです。
パワートレインは「シビック」「ZR-V」に搭載される現行e:HEVをプレリュード用に最適化したモノ(2.0リッターエンジン:104kW/182Nm、2モーター内蔵電気CVT:135kW/315Nm)に「ホンダS+シフト」をプラスしています。
ホンダS+シフトをおさらいすると、現行e:HEVの車速とエンジンサウンドを連動させるリニアシフトコントロール制御の進化版で、運転状況や走行環境に応じてモーターとASC(アクティブ・サウンド・コントロール)の連動、運転状況や走行環境に合わせた変速制御に加えて、エンジン回転数を維持して再加速時に応答を大幅にさせるシフトホールド、更にパドル操作による有段ギア変速フィールなどの連携により、HEVでありながらもまるでエンジン車に乗っているようなフィーリングを味わえるデバイスです(センターコンソール内のスイッチでON/OFFが可能)。
スペックからも解るようにシビック・タイプRのような爆発的な力強さはありませんが、モーター駆動の瞬発力とトルクから斜度10~12%の厳しい道でも力不足は感じることはありません。見た目に見合ったパフォーマンスを備えていると感じましたが、個人的には“速さ”より“官能”の部分にニンマリ。そう、ホンダS+シフトをONにして走らせるとハイブリッド嫌いも納得できる仕上がりです。
世にあるハイブリッドの多くは効率(=燃費)を求めるが故にエンジン回転と加速感のズレがドライブフィールを損ない、それがクルマ好きから敬遠される理由になっていました。しかし、プレリュードのそれは効率をほぼ犠牲にすることなく(厳密には2%ダウン)ドライブフィールを重視したモノです。
e:HEVは走行状況によってEVモード、HEVモード、エンジン直結モードに自動で切り替わりますが、日常の多くの走行はHEVモード(エンジンで発電した電気でモーターを駆動)が担っています。
この時、システム的にはエンジンと駆動は機械的に繋がっていませんが、プレリュードのそれはアクセルを踏んだ時にまるでエンジンと駆動系が繋がっているかのような直結感やエンジンの伸び感やレスポンスの良さを実感します。
加えてエンジン回転数を段階的に制御することで、まるで多段化されたトランスミッションのように加速がいつまでも続くような感覚も…。そして、スピーカーから流れるエンジン回転数と完全同期した心地よいサウンドも相まって、何も知らされずに乗ったらこのパワートレインがHEVであることに本当に気付かない人もいるかも。
ちなみにエンジンのレッドゾーンは6000rpmですが、あまりにストレスなく回るのでドライバー的には「まだ回るよね、もっと回させてよ」と思ってしまうことが、唯一の難点だと思いました。
驚きは加速時のみならず減速時も…です。アクセルOFFでもエンジン回転を維持してくれる上に車速やブレーキ踏力に応じてダウンシフトもしてくれます。そのシフト制御も実にお見事で、例えるなら「GRヤリス」のDATに近く人間の感性とドンピシャ。もちろんパドルで手動操作も可能ですが、今回の試乗では一度も使う必要がなかったくらいです。
ちなみにドライブモードによってパワートレインの特性が大きく変化します。「コンフォート」は大排気量エンジンらしい粘りのあるトルク特性であえてシフトダウンさせずにジワーッと一定回転で加速させる特性。個人的にはプレリュードと言うより「レジェンドクーペ」と言っていい大人なフィーリングかなと。
逆に「スポーツ」は応答性・レスポンス上等かつ常にトルクバンドを外さないシフト制御で、実用トルクはシッカリ確保されているのに高回転まで心地よくスカーっと回るフィーリングは、言うなれば、5代目プレリュード・タイプS用の直列4気筒DOHC-VTEC「H22A」を、より精緻に、より洗練させた印象です。
そして「GT(プレリュードでは「ノーマル」と呼ばない)」はコンフォートのトルク感と、スポーツの伸びの良さを上手にバランスさせたフィーリングで、言うなれば3/4代目「オデッセイ・アブソルート」用の直列4気筒DOHC i-VTEC「K24A」のような印象と、3つのモードの違いは明確。一般的にモード切り替えは買った時は使うけど、「結局ノーマルから変えない」と言うケースが多いですが、プレリュードのそれはシーンに応じて使い分けたくなります。
これはモーター制御だからできる拡張性ですが、これもある意味で「クルマ屋らしいSDV」の答えの1つと言えるでしょう。もちろん、中には「ギミックなど話にならん」と言う人もいるでしょうが、ここまで本気でやるとそんなことはどうでも良いと思えました。
そういう意味では、ホンダS+シフトの本質は「アナログの良さをデジタルでピュアに再現」のように感じます。ちなみにホンダS+シフトがOFFの時はほぼシビックです。
フットワークはどうでしょうか。プラットフォームやサスペンション周り(デュアルアクシスストラット、アダプティブダンパーシステム)などシビック・タイプR用をベースにプレリュード用に最適化。シビック・タイプRは戦うクルマのため短時間で旋回を完結させる無駄を削いだハンドリングですが、プレリュードそこに時間(と言ってもごくわずかですが)をかけて自然かつ滑らかさを重視したハンドリングと言った感じです。
ディメンジョンの良さ(より低く、よりワイド、そしてショートホイールベース)に加えて、セットアップもホンダスポーツでは珍しく性能全振りではない絶妙な“さじ加減”が、かつてのアコード・ユーロRや3/4代目オデッセイ・アブソルート、「アヴァンシア・ヌーベルバーグ」などを思い出す乗り味です。
これらはタイプRほどインパクトはありませんでしたが、ハンドリングと乗り心地のバランスは当時の欧州車に匹敵するレベルの知る人ぞ知るモデル。新型プレリュードはそれと同じ匂いがしました。
サスペンションはロール量は少なめながらも突っ張った感じはなくしなやかなに路面捉えてくれる上に、デュアルアクシスストラットと制御作動領域を拡大したAHS(アジャイル・ハンドリング・アシスト)の合わせ技によりアンダー知らずでグイグイと曲がるのにそれをひけらかさないしたたかな旋回特性は、5代目プレリュード・タイプSに装着されたATTS(アクティブ・トルク・トランスファ・システム)をより自然にしたようなイメージです。それでいて直進時は「君はレジェンドクーペですか?」と言うような、いい意味でのドッシリ感も備えられています。
ちなみにドライブモードに合わせてダンパー特性も変わります。そもそもどのモードもリアルタイムかつ連続的に4輪のダンパー減衰力を独立制御しているので、パワートレインよりもはその差は感じにくいものの、強いて言えば、コンフォートは時間よりもストロークでショックを吸収するスッキリ系、スポーツはストリークよりも減衰で素早くショックを吸収するシャキッと系、GTはその中間でオールラウンダーと言った印象でした。

そろそろ結論に行きましょう、ここ最近のホンダ車はマーケティング主導で開発されていた感が強かったですが、新型プレリュードはホンダの「やりたいからやる」という想いが凝縮されたモデルに感じました。
月間販売目標は300台と控えめでビジネスにとして成り立つのか心配ですが、満を持して復活させたからには3~4年で「売れなかったからやめます」だけは絶対にダメです。ホンダは「CR-Z」や2代目「NSX」でハイブリッドスポーツを提案するも志半ばで挫折と言う歴史があるので、今度こそ芯を持って続けてほしいところです。
617万9800円の(消費税込)価格は物議を呼びそうですが、かつてプレリュードに乗っていた世代(=おじさん)がどう反応するかが販売の鍵を握ると思っています。
逆にプレリュードを知らない若い世代が2ドアクーペにどう反応するかも気になる所。個人的には走りはこれで十分なので、ボディカラーやインテリアコーディネート、更に更なる装備の充実とスペシャリティ感をより高めてほしいと思います。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。





















































































