トヨタの強みは何なのか? 「挑戦すること、失敗を恐れない、現場で判断する」 豊田章男氏の「モリゾウ軸」で見る変革と挑戦とは
トヨタのキーワード「モリゾウ軸」。明確な定義はないものの、豊田章男氏(モリゾウ)の行動と哲学にそのヒントが隠されている。危機を乗り越え、「もっといいクルマづくり」を追求するトヨタの原動力とは? 現場の挑戦と「自分以外の誰かのため」の精神を、豊富なエピソードとともに紐解いていきます。
モリゾウ軸とは何か? トヨタを変えた豊田章男氏の「道しるべ」を読み解く
近年、トヨタの変革を語る上で欠かせないキーワード「モリゾウ軸」。
しかし、その本質は「明確な“ものさし”がない」とも言われます。では、14年にわたりトヨタのトップとして数々の危機を乗り越えてきた豊田章男氏(モリゾウ)が、組織に深く根付かせた経営哲学とは一体何だったのでしょうか。
今回は、これまで豊田章男氏を全方位で取材してきた筆者・山本シンヤ氏が、「モリゾウ軸」の真髄を解き明かします。
それは単なる号令ではなく、トヨタを「クルマ屋」として立て直し、不確実な時代を乗り越えるための強固な経営基盤を築き上げた「自分以外の誰かのため」という「Youの視点」と、「挑戦すること、失敗を恐れない、現場で判断する」という行動原理にありました。
佐藤恒治社長や中嶋裕樹副社長のエピソードを交えながら、時に誤解されがちな「モリゾウ軸」が、いかにトヨタの「幸せの量産」へと繋がっていくのかを徹底解説します。

ここ最近、トヨタの取材をしている時によく耳にするキーワードが「モリゾウ軸」です。
実際にトヨタの中では「モリゾウ軸で仕事をする」、「モリゾウ軸で考える」と言った感じで使われますが、もっといいクルマづくりと同じで明確な“ものさし”はありません。
ただ、これまで豊田氏を振り返るとヒントがたくさんある事が解ります。
そこで今回はこれまで豊田氏を全方位で取材してきた筆者(山本シンヤ)のモリゾウ軸に対する見解を皆さんにお伝えしたいと思います。
個人的には、そもそも「モリゾウ軸とは一体何なんだろう?」と考える事こそが、すでにモリゾウ軸じゃないかと思っていますが。
2009年に社長に就任した豊田氏は、クルマ屋としての基本に立ち返るために「もっといいクルマづくり」を一丁目一番地に置き様々な改革を進めてきました。
14年の任期の間はリーマンショックの後始末、米国の公聴会、東日本大震災、コロナ危機、ウクライナ侵攻によるロシア撤退、そして半導体危機など、何もない平穏な年は1つもありませんでしたが、それらを取り乗り越えただけでなく、そんな状況下でもシッカリと収益が出せる体制を築き上げました。
2023年に佐藤恒治社長率いる新執行チームにバトンを渡しますが、佐藤社長も「豊田会長が取り戻してきた『トヨタらしさ』をチームで継承し進化させていく」と語っています。
現在、自動車産業は関税問題に直面していますが、そこでもトヨタはジタバタせずに日米貿易赤字解消のための姿勢も示すことができるのは、豊田氏が築き上げた強固な経営基盤があるからなのは言うまでもありません。
このように、豊田氏はトヨタを“クルマ屋”として正しい方向に立て直しましたが、その“道しるべ”はモノづくり企業としては実に混じりっけ無しのストレートなモノでした。
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●目標
規模拡大→もっといいクルマづくり/町一番
●指標
台数/収益→商品/お客様の笑顔
●意思決定
本社の会議室→各地域・各現場
●仕事の進め方
肩書→役割
決裁→相談
説得→共感
トップは言葉で指示→トップは行動で示す
自分のため→自分以外の誰かのため
●恐れるモノ
失敗により評価の低下
→
成功によるおごり・慢心
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そんな中、豊田氏の役割は「決断をすること」、「責任を取る事」の2つでした。
当時のトヨタはいわゆる大企業病に侵されており、責任を負う事を恐れて誰も動かない組織になっていました。
要するに「お客さま目線」と言いながらも上ばかりを見て仕事をする思考回路だったわけですが、豊田氏はそこに大きくメスを入れたのです。
筆者はここにモリゾウ軸のベースがあると考えていますが、その中でも重要なキーワードの1つが「自分以外の誰かのために」だと思っています。
これは豊田氏の取材をすればするほど感じる事ですが、経営判断の大原則は「自分のため」ではなく「自分以外の誰かのため」、つまり「Youの視点」で行なわれています。
恐らく、豊田氏はまさに利益の先にある“何か”を追い求めて行動をしていると言っても過言ではありません。
更に豊田氏は様々なイベントの前に、全スタッフに対して「お客様を笑顔にするためならば、何をやっても良いです。責任は全部僕が持ちます」と宣言したり、体力的・精神的にも辛いはずなのに「自分が役に立てるならば」とみんなの前に表れて楽しませる/喜ばせる背景は、全てここに集約されています。

ただ、この言葉は誰でも解るキーワードですが、考えれば考えるほど深く、実践するのは難しいと思います。
中には「自分が辛く理不尽な想いをしてまで、誰かのために動くことが本当に良い事なのか?」と考える人もいるでしょう。ただ、豊田氏の言うそれは、自己犠牲をしてまで誰かに奉仕する事ではなく、「自分を含めてみんなが楽しくなることが大切」と伝えようとしています。
その根拠は、そこには必ず「ありがとう」と「笑顔」が共存しているからです。
豊田氏は常日頃から、「仲間に対して素直に『ありがとう』と言える、そんな自動車産業にしたい」、「最後は『ありがとう』と笑顔で言い合える関係を築いていきたい」などと語っていますが、これらをトヨタ37万人の社員が実践していけば、本当に対立のない未来・明るい未来に近づけると考えているのでしょう。











