日産の「高級“MR”スポーツカー」!? 「直3」エンジン搭載の「“402馬力”モデル」! 全長4.4m級の“コンパクトボディ”もイイ米国の「インフィニティ エマージ」とは

日産が海外で展開する高級ブランド「インフィニティ」が、かつて2シーターミッドシップスポーツカーのコンセプトカーを製作していたことがあります。しかもパワートレーンは「e-POWER」につながる技術を持っていました。どのようなクルマだったのでしょうか。

流麗な2シーターミッドシップスポーツカー

 1989年から、日産が北米市場などの海外で展開している高級ブランド「インフィニティ」。 

 ブランド発足時は日本で「インフィニティQ45」として発売された「Q45」、2代目レパードのインフィニティ版「M30」のほか、なんと初代プリメーラも「G20」としてラインナップされていました。以降、現在に至るまでセダン・SUVを中心とした車種構成を有しています。

 その中にはスポーツセダンや2ドアのスポーツクーペも用意されてきましたが、ライバルの国産高級ブランドであるレクサス「LFA」やアキュラ「NSX」のような、2ドア・2シーターの純然たるスポーツカーの発売は行われていません。

イーパワーの原型になったミッドシップスポーツ?
イーパワーの原型になったミッドシップスポーツ?

 ところが、コンセプトモデルではあるものの、インフィニティもスーパースポーツカーを発表したことがあります。それが、2012年に発表された「エマージ」(EMERG-E)です。

 エマージはインフィニティ初のミッドシップスポーツカー。スポーツカーといえばアクティブさやスポーティなイメージが先行しがちですが、エマージではインフィニティの各モデルが備えるエレガントな雰囲気を押し出しており、そのコンセプトは極めて流麗なボディデザインにも反映。ボディサイズは全長約4.4m×全幅約1.95m×全高約1.2mで、ホイールベースは約2.6mで、幅広く低いミッドシップスポーツカーらしいスタイルを形作っていました。

 さらにエマージには、2つの重要なポイントがありました。ひとつめは、設計の素地がロータスの2+2ミッドシップスポーツカー「エヴォーラ」をベースとしたコンセプトカー、「414Eハイブリッド」だったこと、そして現在の日産の主力技術である「e-POWER」の原点ともいえるパワートレーンを搭載していたことでした。

 それが同じ発電用エンジンとモーターを組み合わせたシステムです。エンジンは1.2リッター3気筒と小さいですが、システム最高出力は402馬力、最大トルク1001Nmに達しており、0-60mph(96km/h)加速は4秒という俊足ぶりを発揮。ミッドシップスポーツカーだけにエンジンは座席後部に搭載され、2つのモーターは後輪を駆動しました。

 一方でe-POWERとの違いもあります。e-POWERはエンジンによる発電が主体で、バッテリー容量も小さなシリーズ式ハイブリッドですが、エマージは17kWhのバッテリーを搭載し、EV状態で30マイル(約48km)の走行が可能な「レンジエクステンダーEV」。つまり基本的にはEVで、外部給電も行えるようになっています。環境性能も優れており、約3000マイル(4800km)をCO2排出量55g/kmで走ることができました。

 ではなぜインフィニティはこのようなエコロジカルなスポーツカーを、しかもロータスの車種をベースに開発したのでしょうか。

 これには、イギリス政府が深く関与しています。同政府の研究資金助成機関である「Technology Strategy board(技術戦略委員会)」が市街地で二酸化炭素(CO2)を可能な限り排出しないクルマの開発を行うメーカーに助成金を供出することになった際、これにロータスが応じ、その技術をインフィニティが導入したという流れのようです。

※ ※ ※

 エマージはデザインの完成度も高く、実走行できるプロトタイプも製作されたことから市販化のウワサも立ったのですが、残念なことに2025年現在でもその動きは見られません。また、レンジエクステンダーEVも日産では主流の技術となりませんでした。

 それにしてもe-POWERの原点が、このようなミッドシップスポーツカーだったことは興味深いところです。

 美しいデザインのスポーツカーだけに、ぜひとも市販化される日を待ちたいと思います。

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Writer: 遠藤イヅル

1971年生まれ。自動車・鉄道系イラストレーター・ライター。雑誌、WEB媒体でイラストや記事の連載を多く持ち、コピックマーカーで描くアナログイラスト、実用車や商用車・中古車、知られざるクルマの記事を得意とする。

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