ダイハツの「小さな“軽”高級車」がスゴい! ふかふかシートの“オトナ”仕様!? 「豪華リムジン級」軽スーパーハイトワゴン「タントエクゼ」とは

かつてダイハツが世に送り出した「タントエグゼ」は、大ヒットした軽スーパーハイトワゴン「タント」をベースに、「大人のための上質さ」を追求したといいます。どのようなモデルだったのでしょうか。

軽に「くつろぎ」という革新をもたらした歴史的な1台

 ダイハツ「タントエグゼ」は、2009年12月に「軽にくつろぎという革新」というキャッチフレーズと共にデビューしました。

 ベースとなった軽スーパーハイトワゴン「タント」が、子育て世代向けの利便性を追求したファミリー向けモデルであったのに対し、エグゼは明確に「大人のための上質なパーソナル空間」を目指して開発されました。

ふかふかシートの“オトナ”仕様! ダイハツの「小さな“軽”高級車」とは
ふかふかシートの“オトナ”仕様! ダイハツの「小さな“軽”高級車」とは

 ターゲットとされたのは、独身の成人や夫婦、そして子育てを終えた“子離れ世代”。広大な室内空間は求めつつも、子供向けの機能より、自分自身の快適性やデザインの洗練性を重視するユーザー層でした。

 モデル名の「エグゼ(Exe)」は、単に役職者(Executive:エグゼクティブ)を意味するのではなく、「卓越した環境性能(Excellent ecology)」や「優雅なデザイン(Elegant design)」、「上質な空間(Executive space)」といった、開発理念を凝縮した言葉だといいます。

 エクステリアは、タントの箱型フォルムとは一線を画し、傾斜を強めたAピラーや弧を描くルーフラインによって、より流麗でエレガントなシルエットが与えられています。

 そしてこのクルマの性格を決定づけたのが、後席にスライドドアではなく、一般的な「ヒンジ式ドア」を採用したことです。

 これは単なる差別化ではなく、低床設計でより自然で疲れにくい着座姿勢と、後述する上質なシートの搭載を可能にするため、快適性を最優先した戦略的な選択でした。

 また、よりスポーティな「カスタム」モデルも設定され、専用のエアロパーツやメッキグリル、大径アルミホイールなどで、標準モデルとは異なる“クール&プレミアム”な世界観を表現していました。

 そんなタントエグゼの真価は、インテリアにありました。

「4席グラマラスコンフォートシート」と名付けられたそのシートは、まさにこのクルマの主役。

 分厚いクッションと上質なファブリックを用い、乗員を優しく包み込む「ソファ」のような卓越した座り心地を追求していました。

 後席は左右独立でリクライニングと255mmのロングスライドが可能。柔らかなLED照明が組み込まれた「イルミネーテッドツインコンソール」など、上質な雰囲気を高める独自の装備も特徴です。

 パワートレインは、効率性を重視した660ccの自然吸気(NA)エンジンと、余裕のある走りを実現するターボエンジンの2種類が用意されました。

 トランスミッションは、その進化の歴史が当時の熾烈な燃費性能競争を物語っています。

 当初は4速ATも存在しましたが、改良を重ね、最終的には全車がより高効率なCVTへと統一。停車前アイドリングストップ機能「eco IDLE」なども導入され、NA・2WD車は25.0km/L(JC08モード)という優れた燃費性能を達成しました。

「大人のための軽」という明確なコンセプトを掲げたタントエグゼですが、2014年10月、一代限りでその歴史に幕を下ろします。

 その背景には、最大のライバルが皮肉にも兄弟車である「タント」だったことと関係します。

 スライドドアの利便性は絶大であり、タントエグゼの「快適性」という価値を上回ってしまったのです。

 結果として、「スライドドアは不要だが、広さと上質な乗り心地を求める」という、非常にニッチな層に向けたモデルとなり、販売を大きく伸ばすには至りませんでした。

 その意味でタントエグゼは、市場のニーズを読み違えた一台だったのかもしれません。

 しかしその卓越したシートの座り心地や静かで快適な室内空間は、今なお中古車市場で高く評価されています。

「上質さ」という、軽自動車における新たな価値を真摯に追求したこのクルマの挑戦は、決して無駄ではなかったはずです。

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Writer: 佐藤 亨

自動車・交通分野を専門とするフリーライター。自動車系Webメディア編集部での長年の経験と豊富な知識を生かし、幅広いテーマをわかりやすく記事化する。趣味は全国各地のグルメ巡りと、猫を愛でること。

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