ホンダの「2ドア“MR”ハッチバック」!? まさかのスライドドア&ミッドシップ採用の「斬新モデル」! めちゃ便利そうな米の「ステップ“バス”」とは

2006年、ホンダが発表したコンセプトカー「ステップバス」。スライド式の2ドア、MRレイアウトという奇想天外な成り立ちのこのクルマが提案した未来とはなんだったのでしょうか。

最小のメカで最大の空間を、ホンダのM・M思想が生んだ異端児

 自動車メーカーが未来のモビリティを提示するために製作するコンセプトカーは、ブランドの進むべき方向性や技術の可能性を映し出す存在です。過去を振り返ると、奇想天外な印象深いコンセプトカーが披露されていました。

 2006年のロサンゼルスオートショーで発表された「ステップバス」も、そうした注目すべき1台でした。

2ドアでスライドドアでミッドシップ!
2ドアでスライドドアでミッドシップ!

 このクルマは、ホンダの「和光デザインセンター」が開発したもので、同社の設計思想「M・M(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)思想」を極限まで追求したスタディモデルです。

 最大の特徴は、ミッドシップエンジン・後輪駆動(MR)レイアウトの採用にありました。ただしこれは、走行性能のためではなく、フロア下にエンジンを配置してフロント部分を極限まで短縮し、車内空間を最大化するための手法でした。

 エクステリアは、背が高く直立した「大胆な縦型アーキテクチャ」による箱型スタイルが目を引きました。そしてこのクルマを唯一無二の存在にしているのが、世界でも極めて珍しい「スライド式フロントドア」の採用です。

 ミニバンでおなじみのスライドドアを前席にも用いることで、狭い都市部の駐車スペースでもスムーズな乗降を可能にする、実用性重視のアプローチが取られていました。

 MRレイアウトは、当時の軽ワゴン「バモス」と共通しており、技術的な参考にした可能性があります。実用性を重視した点では、「アクティバン」など軽商用車の設計思想も反映されていたのかもしれません。

 さらに、1972年に登場した軽バン「ステップバン」も、ネーミングや設計上のインスピレーション源になっていたと考えられます。

 インテリアは、外観以上に革新的でした。コンパクトな軽自動車規格の中に5人分の座席を確保し、モジュール構造を採用して広大で柔軟な室内空間を実現していました。

 特に斬新だったのが「掲示板ダッシュボード」というアイデアです。オーナーの好みに応じて、各種機器を自由に配置できるパーソナライズ性の高い設計となっていました。

 ドアや壁にはアクセサリー用トラックを備え、シートはフラットに折りたたみ可能。天井にも収納トレイを配置するなど、ライフスタイルに寄り添った設計思想が徹底されていました。

 パワートレインについては詳細が明かされなかったものの、「小型3気筒エンジン」を搭載するとされ、ベースとなった軽商用車から考えると、660ccのエンジンが用いられていた可能性が高いと見られます。

 ステップバスは、そのユニークな設計により「面白い」「これはいい」といった好意的な反応を集めましたが、市販化には至りませんでした。

 とくにスライド式フロントドアやMRレイアウトは、量産化においてコストや技術的課題が大きすぎたと推測されます。

 しかしながら、その思想は後のホンダ車に受け継がれています。とりわけ、2011年に登場した「N-BOX」を中心とする「Nシリーズ」は、その代表例といえるでしょう。

 N-BOXは、燃料タンクを前席下に配置するホンダ独自の「センタータンクレイアウト」を採用し、軽自動車とは思えない室内空間を実現。異なる手法ながら「M・M思想」を具現化したモデルでした。

 レイアウトこそ違えど、“最小の機械で最大の人間空間を実現する”というホンダの哲学は、「ステップバス」から確実に継承されているといえます。

 ステップバスは市販こそされませんでしたが、単なる奇抜なアイデアには留まりませんでした。クルマを「モバイルハブ」として捉えるその思想は、現代のコネクテッドカーにも通じる普遍的な価値を持っています。

 ホンダの設計思想を体現したこのコンセプトカーは、今も色褪せることなく語り継がれる存在です。

 2025年秋開催予定の「ジャパンモビリティショー」では、ホンダがこの思想をどう進化させるのか、次世代の軽自動車の提案に注目が集まります。

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Writer: 佐藤 亨

自動車・交通分野を専門とするフリーライター。自動車系Webメディア編集部での長年の経験と豊富な知識を生かし、幅広いテーマをわかりやすく記事化する。趣味は全国各地のグルメ巡りと、猫を愛でること。

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