トヨタ「“ミニ”クラウン」!? V6 3.5リッター×全長4.2mの「高級“スポーツハッチ”」がスゴい! 爆速の“280馬力”仕様「ブレイド マスター」とは
トヨタのコンパクトハッチ「ブレイド」に、3.5リッター V6エンジンを搭載した「異端の高級車」が存在しました。その名は「ブレイドマスター」。常識破りのパッケージングに秘められた狙いとは何だったのでしょうか。
V6搭載の異端児! 「ミニクラウン」の正体とは
自動車の歴史には、ひときわ個性の際立つモデルがいくつも登場しています。
発売当時は支持を得られず、短命に終わったクルマであっても、年月を経て再び注目を集めるケースは少なくありません。
トヨタ「ブレイドマスター」も、まさにそうした1台といえるでしょう。

2007年7月、トヨタはCセグメントハッチ「ブレイド」に、驚きの大排気量エンジンを搭載したブレイド“マスター”を追加設定しました。
ベース車の登場からわずか半年後というタイミングで投入されたこの上級仕様は、トヨタの挑戦的な試みとして今なお語り草となっています。
ブレイドは、トヨタの世界戦略車「オーリス」の兄弟車として、2006年12月に登場しました。
全長4260mm×全幅1760mm×全高1510mmというコンパクトなボディに、上級セダン並みの装備や質感を詰め込んだ「プレミアムハッチバック」を標榜したモデルです。
オーリスが1.5リッター直列4気筒エンジンなのに対し、ブレイドは排気量を拡大した2.4リッター直列4気筒を搭載し、差別化を図りました。
そしてブレイドマスターはその最上級グレードに位置づけられ、当時の高級セダン「クラウン」や「マークX」などと同系統の3.5リッターV型6気筒「2GR」系エンジンを搭載。
最高出力280PS・最大トルク344N・mというスペックは、当時のCセグメント車としては破格の数値で、国産コンパクトの枠を超えた存在でした。
駆動方式はFFでトランスミッションには6速AT「Super ECT」を採用し、スポーツモード付きのゲート式シフトも備えていました。
サスペンションには専用チューニングが施され、フロントはストラット式、リアはダブルウィッシュボーン式を採用。強大なトルクに対応するため、ブレーキも大径化され、安全性にも配慮された設計がされていました。
外観は通常のブレイドと大きくは変わらないものの、専用グリルやリアスポイラー、17インチアルミホイールが与えられ、さりげなくも力強い存在感を放っていました。
またオプションでキセノンヘッドランプやスマートエントリーシステム、イモビライザーなどの先進装備も選択可能でした。
内装では、ブレイドマスターならではの高級感が際立ちます。
上級モデルではアルカンターラと本革のコンビシートや、本革巻きステアリングホイール、スエード調トリム、センターコンソールの金属調加飾などが装備され、セダン顔負けのラグジュアリーな雰囲気を演出していました。
シート表皮には耐摩耗性や通気性に優れた素材が使われ、快適性と機能性の両立が図られていた点も注目に値します。
安全装備も充実しており、S-VSC(ステアリング協調型車両安定制御システム)や7エアバッグ、ブレーキアシスト、トラクションコントロールなどが全車標準装備されていました。
さらにオプション設定でプリクラッシュセーフティシステム(ミリ波レーダー方式)や、HIDヘッドランプ+AFS(アダプティブフロントライティングシステム)といった先進安全機能を選ぶことも可能でした。
最終モデルとなる2009年12月発売モデルでのブレイドマスターの価格(消費税込み)は330万円からと、Cセグメント車としては高額な設定でしたが、搭載エンジンや装備の充実度を考えれば「お買い得」と感じるユーザーも少なくありませんでした。
しかしその特異なキャラクターゆえに販売は限定的で、2012年にベース車のブレイド生産終了とともに静かに姿を消しました。
高性能・高級志向ながらも控えめなルックスを貫いたブレイドマスターは、当時のトヨタが模索した「高級コンパクト」のひとつの到達点であり、近年では中古車市場で熱い視線を浴びる「知る人ぞ知る存在」となっています。
いわば「ミニクラウン」とも呼ぶべきその哲学は、今のプレミアムコンパクトの潮流にも少なからず影響を与えているのかもしれません。