最安モデルが540万円! トヨタ「アルファード」なぜ“上級グレード”しか設定されない? 最近のクルマが選択肢を大幅に絞る本当の理由とは
アルファードとヴェルファイアがグレードの数を減らした一番の目的は納期の短縮ですが、生産や販売効率の向上にも役立ちます。
グレードが多いと、需要が分散されて1グレード当たりの販売台数が減り、量産効率も低下します。
そこで効率を高めて受発注もシンプルにするため、グレードを減らすことがあります。
例えばインドから輸入されるスズキ「フロンクス」は、日本仕様は2WDと4WDが設定されますが、グレードは1種類のみ。
マイルドハイブリッドを搭載して、カーナビなども標準装着され、実質的に最上級グレードだけの設定にしました。
フロンクスのような日本メーカー製の輸入車は、全般的にグレードが少なく、タイで生産される日産「キックス」は実質1グレード、同じくタイ生産の三菱「トライトン」も2グレードです。
インド製のホンダ「WR-V」は3グレードありますが、1.5リッターガソリンの2WDに限られます。
輸入車はグレードだけでなく、生産ラインで装着されるメーカーオプションも少数に限られ、販売店で取り付けるディーラーオプションのみにしている車種もあります。
効率の向上では、パワーユニットの種類を減らす動きも活発化しています。先に述べたアルファードも、パワーユニットを先代型の3種類から2種類に減らしました。
日産ではガソリン車を用意せず、ハイブリッドの「e-POWER」専用車が増えていて、先代までガソリン車を用意していた「ノート」や「エクストレイル」では、現行型はe-POWERだけです。
クルマの生産状況については、以前は半導体が不足していましたが、最近はこの供給状態が好転しています。その代わり原材料費や輸送費が高騰して、車両の生産や販売によって得られる利益が減る傾向にあります。
つまり依然として生産や販売の効率を高める必要があり、全般的に利益の少ない安価なグレードを整理する傾向が見られます。
この背景には、装備がシンプルで安価なグレードより、装備を充実させた高価なグレードの方が、メーカーにとって設定しやすい事情もあります。
装備のコストは、ユーザーがメーカーオプション価格などから想像する価格よりも大幅に安いのです。
従って装備をプラスした上級グレードは、最廉価や中級のグレードに比べると、少ないコストアップで高い価格を実現でき、また利益が大きいため、原材料費や輸送費が高騰する中では設定しやすい事情もあるというわけです。
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逆に日本車で一番儲からないクルマは、軽トラックの最廉価グレードです。
ダイハツ「ハイゼットトラック」の最も安いグレードは90万2000円で、ダイハツ「タント」の売れ筋である「カスタムX」の半額以下です。
販売店では「ハイゼットはまったく儲かりません。しかしお客様との関係は大切で、車検、点検、保険などの取り扱いもできるため、もちろんメリットはあります」と述べています。
このようにグレード数が減っている背景には、納期の短縮、生産や販売の効率化、日本メーカー製輸入車の増加といった事情があります。
しかし価格を含めてユーザーのニーズに綿密に応えるには、複数のグレードを用意することも大切です。
日本の物流を支える軽トラックのハイゼットトラックやスズキ「キャリイ」が、ボディ形状や装備の異なるグレードを豊富に用意することを見ても、グレードの大切さが良くわかります。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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