2024全日本ラリーRd.6「ARKラリー・カムイ」は、新井・松尾組が全ステージベストで完全勝利!

全日本ラリー第6戦、ARKラリー・カムイが2024年7月5日から7日にかけて北海道ニセコ町を中心に開催されました。

北海道ニセコでグラベルラリー! 雨天の初日、新井・松尾組が圧倒的な速さで首位発進

 全日本ラリー第6戦、ARKラリー・カムイが2024年7月5日から7日にかけて北海道ニセコ町を中心に開催されました。

 全8戦中グラベルラリーは北海道で開催されるカムイと次戦ラリー北海道の2戦のみです。かつては北海道以外でも全日本のグラベルラリーは開催されていましたが、良好な環境が減ったことやラリー後の路面修復などに経費がかさむこともあり、徐々に数を減らしました。砂煙を巻き上げながら豪快に走り抜けていくグラベルラリーはとても魅力的なだけに残念です。

奴田原文雄・東駿吾組のGRヤリスRally2
奴田原文雄・東駿吾組のGRヤリスRally2

 パウダースノーを求めて最近では海外からの観光客が多いニセコアンヌプリ国際スキー場に設定されたサービスパークを中心に、12本のSSで総距離は90キロで開催されたARKラリー・カムイですが、金曜午後から雨が降り出します。元々が掘れやすく深い轍(わだち)ができやすいこの地域の路面ですが、そこに加えて雨が与える影響は少なくありません。
 
 夜半に降った雨は朝にはやんだものの、路面がウエットになったSS1 Knollでステージベストを記録したのはシュコダ ファビアR5の新井大輝・松尾俊亮組でした。SS1で5台がリタイアするなど、消耗戦を予感させる幕開けとなりました。

 新井・松尾組はここカムイでも絶好調で、Leg1の6本のステージ全てでベストを記録し、2位の勝田範彦・木村裕介組のトヨタ GRヤリスRally2に26.3秒の差をつけて初日を終えました。3位以下は新井敏弘・井上草汰組のWRX S4、奴田原文雄・東駿吾組のGRヤリスRally2が団子状態で続きます。

 胸部大動脈瘤(りゅう)と診断されて外科手術を受けたため療養中だった昨年のJN1クラスチャンピオンのヘイキ・コバライネン選手がこのラリーから復帰。新たな愛機となるGRヤリスRally2での初陣はSS1を7位でフィニッシュでした。ファビアとの違いを聞くと、エンジンの特性や足回りのジオメトリーなど、全てにおいて進化していてとても乗りやすいとのことでした。

併催の「XCRスプリントカップ北海道」では、新型トライトンやCX-5が雄大な自然を駆け抜ける

 ARKラリー・カムイでは全日本ラリー選手権と併催という形でXCRスプリントカップ北海道というラリーが開催されました。このシリーズはXC(クロスカントリー)車両とSUV車両が対象となり、XC-1からXC-3の3つのクラスに区分されます。

 北海道で開催される地区戦と全日本戦との併催での全6戦のシリーズで、冬の2戦はスノーラリーとなります。

「XCRスプリントカップ北海道」のXC-2クラスに参戦した竹岡 圭・山田 政樹組(圭rallyproject×TOYOTIRE×三菱トライトン)
「XCRスプリントカップ北海道」のXC-2クラスに参戦した竹岡 圭・山田 政樹組(圭rallyproject×TOYOTIRE×三菱トライトン)

 主な参戦車両はトヨタ ハイラックスやスズキ ジムニーなどで、ダカールやバハなどに参戦する塙郁夫選手がライズで参戦するなど、年々注目度が上がっているシリーズです。

 ラリー・カムイからはジャーナリストの竹岡圭選手がベテランの山田政樹選手と組んで三菱 トライトンで、寺川和紘・石川美代子組がマツダ CX-5でこのシリーズへ参戦を開始しました。寺川選手は今ではスーパー耐久に参戦していますが、以前はマツダ デミオで全日本ラリーに参戦していて、ラリー・カムイの前身であるラリー洞爺でのクラス優勝経験もあるコンビです。

 直前の納車となり、突貫作業でラリー車へと仕上げたトライトンは、ロールケージなどの安全装備以外は足回りとブレーキパッド、ホイールぐらいしか変更しておらず、エアコンも装備したままです。

 まるで梅雨のような天候となったカムイではエアコンは強い味方になったようでした。CX-5も同様で、安全装備以外は足回り、ブレーキパッド、ホイールのみの変更にとどまります。

 両車ともイマドキの車ゆえに通常の想定を超えた走行ではセーフモードに入ることもあり、エンジン出力が抑えられてしまいます。他にもさまざまな安全デバイスが競技走行に影響を与えることもあり、今後はこのあたりの対策が必要とのことでした。

 次戦、ラリー北海道には自身のルーツともいえるマツダ RX-3で10年ぶりにD1グランプリに参戦しているマッド・マイクがCX-5で参戦することが発表されています。

ベテランの力と若手の挑戦! サバイバルラリーのドラマ

 荒れたラリーになればなるほどベテランが強みを発揮するのがラリーという競技です。7台が出走したJN3クラスはベテランぞろいのクラスです。

JN-3クラスで優勝した曽根 崇仁・竹原 静香組(P.MU☆DL☆INGING☆GR86)
JN-3クラスで優勝した曽根 崇仁・竹原 静香組(P.MU☆DL☆INGING☆GR86)

 その中では若手と言える山本悠太選手はSS3でクラス首位に立つと、SS5でクラス2位に浮上した曽根崇仁・竹原静香組との差をじわじわと広げ、SS11終了時点でその差は50.3秒まで広がりました。残すは12.12キロのSS12だけでしたが、ここでまさかのマシントラブルで山本悠太・立久井和子組がリタイア、曽根・竹原組が逆転優勝となりました。クラス7台出走して完走が2台。最後まで生き残れば逆転もありえるというサバイバルラリーならではの結果となりました。

 毎戦接戦が続くJN5クラスは、松倉拓郎・山田真記子組のデミオと大倉聡・豊田耕司のGRヤリスRSの一騎打ちと見られましたが、北海道出身でグラベルを得意とする松倉選手が速さを見せ、大倉・豊田組をジリジリと引き離しにかかります。

 最近では珍しくなったいわゆるストリート出身の松倉選手の競技歴は三菱 ミラージュ(CJ4A)で参戦したジムカーナから始まります。ミラージュオタクとして知られていた松倉選手はその後ラリーへ転向します。筆者は以前、全日本ラリー初参戦の松倉選手の走りを見たのですが、FFのミラージュでお尻を流しまくりで、これじゃ完走できないだろうと思ったら予想通りリタイア。しかし、その後は徐々に実力を発揮します。

 ミラージュのホモロゲが切れてからは少しの休止期間を経てデミオに乗り換えて参戦を継続します。デミオでも相変わらずの派手な走りは健在で、他の選手よりもはるか手前から姿勢を変えてドリフト状態でコーナーに進入するので、写真を撮る時は立ち位置を大幅に変えるほど。

 そんな松倉選手はターマックはチームが所有するヤリス、グラベルは自身が所有するデミオと、車種を使い分けて参戦しています。昨年のラリー・カムイで全日本初優勝を飾った松倉選手は、グラベルや雪での派手な走りが印象深いけど、元々はジムカーナ出身なのでターマックでもセンスを発揮し始めます。

 今年の開幕戦、ラリー三河湾でターマックラリー初勝利を飾りました。40秒前後の差をつけられながらも2位を守っていた大倉・豊田組ですが、SS9でリタイアを喫します。果たして松倉選手の2連覇を阻止できるのか、残り2戦に注目したいと思います。

新井・松尾組の完全勝利とファビアR5のポテンシャル

 Leg1を全ステージベストで終えた新井・松尾組はLeg2も危なげない走りで2位の勝田・木村組との差を広げます。ファビアでのグラベルラリーは初めてということで不安ものぞかせていた新井選手ですが、ラリーが始まると不安は自信へと変化します。

JN-1クラスで優勝した新井 大輝・松尾 俊亮組
JN-1クラスで優勝した新井 大輝・松尾 俊亮組

 かつてドライブしたことがあるフォード フィエスタやシトロエン C3と比べると、懐が深く走らせやすいとのこと。世界中で売れに売れまくったファビアR5の強みはこういったところにあるのかもしれません。

 途中からは走らせ方を変化させたりと、次戦ラリー北海道を見据えた走りで最終的には2位に1分008秒の差をつけ、全ステージベストの完全勝利! 不安要素がなかったといえばさにあらずで、ラリー中に配線関係のトラブルが発生してしまい、最終ステージ終了後にはアンチラグも効かなくなったとのことでした。

 カムイというとアイヌ語で「神」を意味するとされていますが、実際にはさまざまな意味を持つそうです。

 動物や植物の他にも、自然現象などもカムイが引き起こすものと考えられたそうです。また、人の手によって作られた道具もまたカムイであると考えられました。

 まさに神がかった全ステージベストや、最終ステージ終了後にアンチラグやローンチコントロールが機能を停止してしまったことなど、人間の年齢でいうともはや高齢者といえるファビアもまたカムイと呼べるのかもしれません。

【画像】2024全日本ラリーRd.6「ラリー・カムイ」の様子を見る(33枚)

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